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【重力と呼吸】がミスチル史上最高のロックアルバムなのはなぜか?一ヶ月聞いてわかった全曲感想・レビュー

概要

 「悲しみを大声で叫んだものがロックンロールである」

 どこかの誰かがそう言った。*1

 それが本当なら『重力と呼吸』はやはりミスチル史上最高のロックアルバムだ。

 『重力と呼吸』は1曲目の「Your Song」で桜井さんの歓喜の叫びとともに歌われる「君」がいなくなった悲しみを叫んだアルバムだ。
 しかし悲しみだけでなく、確かな決意・希望も歌っているのがミスチルがミスチルたる所以だろう。

 要は最高のアルバムだぜっ〜☆みんな聞いてね〜☆

*1 この言葉はメモしてたのだが、誰が言った言葉かわからなかった。検索してもサザンの桑田さんが
言及しているということしかわからなかった。(桑田さんではないらしい)ソース不明。誰か教えて


目次
▷はじめに(読まなくていいまえがきとここでいうロックの定義)
▷絶対外して欲しくないポイントを書いた全曲レビュー!
▷結論【重力と呼吸】はミスチル版【血の轍】だ!
▷あとがき(桜井さんは『ボヘミアン・ラプソディ』を見たか?)


▷はじめに(読まなくていいまえがきとここでいうロックの定義)

 【重力と呼吸】が10月3日に発売されてから1ヶ月と11日が経った。(本当はもう少し前に書く予定だった…) 

 【重力と呼吸】は「ミスチル史上最もロックなアルバム」として、セールスされた。

 ぼくはミスチルのロックな曲が好きなので、とてもキタイしていた。

 でもなにがロックなのかは定義が難しい。

 ぼくは、ずっとミスチルはロックバンドだと思っているが、(主にポップであることでカウンターを続けている姿勢の点で)*2

「ミスチルってロックだよね〜?」と同意を求めても「そうか?」となると思う。

 かくいうぼくも音楽素人でハードロック寄りとかパワーコードがガーンと来てるというのもそんなによくわかってなくて、単純にギターがギュイーンとなってるのが、ロックのわかりやすいイメージであって

【重力と呼吸】を最初に聞いた時も正直「確かにロックだけど、ミスチル史上最高か?」とは思っていた。

 だから発売直後に書いたファーストリアクションで、「「重力と呼吸」はロックアルバムというかロックバンドアルバムっていう感じかな」と書いた。

 あれから、ぼくはずっと【重力と呼吸】を聞いていた。

 というのも曲がいいのはもちろんだが、タイトに10曲48分08秒でまとめられており、しかも曲の並びもかなり考えられているので、飛ばすことなく、どこか出かけに聞くとあっという間に一周してしまう。

 前作【REFLECTION】も最高のアルバムのひとつだと思うが【REFLECTION】は{Naked}であれば、23曲もあり(これももちろん構成がよく考えられているが)自分の好きな曲(自分の好きなミスチル)を選択して聞くという意味合いもあるアルバムでもあると思う。*3

 でも前作の{Drip}*4が現在進行形のミスチルのベスト的なアルバムだとすると、【重力と呼吸】のオリジナルアルバムとしての完成度や強度は間違いなく上だと思う。*5

 そしてなぜこのアルバムがミスチル史上最高のロックアルバムと言われているのか自分なりに考え、わかった!

「悲しみを大声で叫んだものがロックンロールである」

 これをここではロックの定義として援用したい。そういう意味で【重力と呼吸】は「ミスチル史上最高のロックバンドアルバムであり、ロックアルバム」なのだ(Q.E.D)

 発売後『ROCKIN’ON JAPAN』『MUSICA』など音楽誌でも【重力と呼吸】が取り上げられ、桜井さんやメンバーが語るインタビューも読んだ。

 そこで繰り返し語られるのは、とにかくMr.childrenというロックバンドが出すサウンドが最初に入ってくる、立ち上がってくるアルバムにしたかったということである。*6

 歌詞は今回そこまでこだわっていないというのも語られているが、それはおそらくこれまでのミスチルで見られた巧みな比喩や韻などの技巧で整えるよりも、そのままむき出しで、メロディとともに出てきたものを歌詞にしたということだろう。ここまで弱さをさらけ出してるのも本当にすごいと思う。

 『Your Song』はロビー・ウィリアムスの"She's The One"を参考に「たったひとりのために歌うっていうことはもの凄くミクロに対して歌うことなんだけど、それがマクロになっていくっていう、そういうポップソングの凄くいい部分を感じて」それをヒントに作ったというが、*7 このアルバム全体がそうと言える。

 それは《君》がいないと、ぼくの世界のすべてはなくなってしまうという弱さや悲しみだ。

 そしてそれを表現しているのが、このアルバム聞きどころであり、言葉(歌詞)にならない叫びやサウンドである。 

 『重力と呼吸』は、最愛の人がいなくなった悲しみや弱さが歌われるアルバムである。それを覚悟して聞くがいい。*8

*2 これについて書こうとしたが、かなり長くなったので割愛した。
*3 「だから、持ってる全部の球種を使って投げるっていう」(「ROCKIN’ON JAPAN」2015年7月号)
*4 24曲入りの{Naked}から厳選された14曲入りの通常盤。{Drip}はコーヒーからきてるらしく
 、気に入った人は豆まで({Naked})食べてね、的なことを当時メンバーが言ってた記憶がある
*5 コンセプトが合わない「ヒカリノアトリエ」などをあえて入れていないことからも分かる。
 本人のインタビューでも語っている。
*6 ROCKIN’ON JAPAN 2018年11月号 P57
*7 MUSICA 2018年11月号 p25
*8 実際失恋直後とか心の中で(もう今はいない)特定の誰かの顔が浮かぶ人が聞くと、結構厳しいアルバム
 だと思います…えぇ、はい


▷絶対外して欲しくないポイントを書いた全曲レビュー!

1.Your Song

聞きどころ:13秒後の喜びに満ちた桜井さんの叫び

 このリード曲が一曲目にきている構成が、このアルバムの肝だと思います。
 実際、この曲は最後に歌われても全然違和感はない壮大さですが、あえて最初に置いているのだと思います。
 よく言及されてますが、JEN(ドラムス鈴木英哉)のカウントとともに始まり、13秒後のボーカル桜井和寿の叫び。*9

 それは音楽的な喜びや興奮であることはもちろん《君》に出会えた喜びも表現されている。本当にこの《君》が特別な存在であることが歌詞からも痛いほどわかる。* 10

「君と僕が重ねてきた 歩んできた たくさんの日々は 今となれば この命よりも 失い難い宝物」
「苦手意識を持ってた食べ物もスポーツも堅苦しい場所も 君が薦めるんなら無理なんかせず受け入れることが出来たんだ」
「時に僕が窮屈そうに囚われている考えごとに なんてことのない一言で この心を自由にしてしまう」
「そんな偶然が今日の僕には何よりも大きな意味を持ってる そう君じゃなきゃ 君じゃなきゃ」

 お分りいただけただろうか?しかもタイトルが『Your Song
 どんだけ好きやねん!
 「君じゃなきゃ 君じゃなきゃ」と繰り返してるあたりはもう自分に言い聞かせているようにすら聞こえるほどです。本当に《君》にぞっこんだったんですね……

*9 ROCKIN’ON JAPAN 2018年11月号p56などなど
*10 今後出てくる《君》はこのぐらいの思いをもっていた《君》だと思って聞いて(見て)くださいね!


2.海にて、心は裸になりたがる

聞きどころ:ミスチルの若いバンドサウンド

 この曲は最初に聞いた時から、ミスチルが高校時代にまで戻ったかのような若いロックバンドみたいな曲を!

 ナカケー(中川敬輔)のベースがここまで主張しているなんて!(このアルバム全体的にそうだが)

 という意味でもとても好きな曲でしたが、アルバムのコンセプト的にはちょっと浮いてるような気もしてました。

 しかし一ヶ月聞き続けた(しつこい)わたしの見解としましては、これは《君》と出会ったことにより、世界が広がった、新しい世界と出会えた、世界は君を待っているという喜びを歌った曲ということです。

 かなりパーソナルであった『Your Song』とはうってかわって、かなりパーッと開けた曲になっています。「(500)日のサマー」で言えば、ダンスシーンがこの曲です。街全体、世界全体が祝福してくれているかのような。

 しかし次の『SINGLES』からどんどんどんどん内に内にこもっていく曲になっていきます……。


3.SINGLES

聞きどころ:Cメロのあとの桜井さんの叫び

 ここから怒涛の《君》がいなくなった曲が続きます!

 まずは『名もなき詩』を彷彿とさせ、懐古ではなく、間違いなく最新のミスチルの新たな代表曲となるであろう『SINGLES』ミスチル節が炸裂していて最高の曲だと思います。

 まごうことなき失恋ソングですが、「何度もそう言い聞かせ」という歌詞が表すように男の『つよがり』を歌った曲です。つよがらないと一人では歩いていけないという悲壮な決意を感じさせる男泣き必須の素晴らしい曲です。

 別れた人に対して当てつけにも聞こえるような、皮肉めいた歌詞とともに、それでも本当に好きだったんだという引き裂かれそうな思いが歌われます。とにかく未練タラタラの曲なのです

「どんな音楽も 痛快と話題の映画も 君の笑顔には敵わないってわかった」
「誰かのために生きるって誇りを 僕に教えてくれたのは 君だけと言い切っていい」

 どんだけ好きやねん!(2回目)っていうね

 またなぜ『SINGLES』は『Singles』や『singles』とならず、全部大文字なのか分りますか?

 これは負けないように精一杯強がっているからなんですよ!!!!!! *11

 ですが、そんな強がって自分の正気を保ってきた男がふと弱さを出してしまう場面があります。それが聞きどころである桜井さんの叫びです。

『Your Song』の喜びに満ちた叫びとは、正反対と言っていい、悲しい、悲しい叫びです。言葉にならない叫びです。ここを聞くだけで、涙が出ちゃう…

 断末魔の叫びのあとに、バンドサウンドが抑えられた中で「楽しいのは今だけ 自分にそう言い聞かせ」と悲壮な決意が歌われ、どんどんサウンドが乗って大サビに入るこのエモーション…

 個人的にはこの曲はもう本当にやばい(涙)

*11 あくまで個人的見解ですが……


4.here comes my love

聞きどころ:Cメロからの…叫びからの…ギターソロ

 これも本当に良い曲。「君」はいなくなったけど、淡い希望もなくなったけど、再び大海原に飛び込んで行こうという決意を歌った本当に良い曲(2回目)

 曲としては「Everything(It's you)」を彷彿とさせる壮大なロックバラードです。

 スガさん(シカオ)が『Progress』(NHKのプロフェッショナルのテーマソング)を作る時にロックバラードといえばミスチルだと思って、同じ事務所のスキマスイッチのロッカーにあった「Mr.children全集」をコピーして参考にしたとap bankで言ってましたが、*12 新たなミスチルロックバラードの代表曲ですね

 これで1回不謹慎にも死ぬと書いてますが、もうこの曲で終わっていいほどのスペクタクルです。

 特に「あって当然と思ってた〜ことも実は奇跡で〜数えきれな〜い
 偶然が重なって〜今の君と僕がいる〜おぉおおぉぉ〜」からのギターソロ

 いま『ボヘミアン・ラプソディ』が大ヒットしてますが、桜井さんも語っている通り、もろブライアンメイオマージュのギターソロがあるこの曲も聴いてみてください!

*12 Oasisも参考にしたらしい

5.箱庭

聞きどころ:はんどうでうごけない!曲調とそれでも流れる血のえぐい歌詞

 いなくなった《君》を『SINGLES』でつよがり、『here comes my love』で「繋いでたその手が離れてしまっても 見失わぬように 君のそばにいるよ」と海に飛び込みましたが、

「箱庭」ではもういなくなったことは不可逆なんだと、受け入れています。

 というかむしろ開き直り、本当にただただ《君》が好きだった…と呆然としている感じです。口はずっと開いています。

「ヒリヒリと流れる 傷口から染み出る 赤い血の色の悲しみが 胸にこぼれる」

 と冒頭で歌われるように、ずっと流れている血を呆然としながら見て、淡々と歌っている曲です。なので時々、「箱庭」は失恋した時に寄り添ってくれる曲というレコメンドがありますが、僕はあまりそう思いません。

 いったん壮大な旅から帰ってきて、ぼーっと、どうしようもないと打ちひしがれる曲だと思います。

 『here comes my love』までが、「はかいこうせん」だったので、「はんどうでうごけない!」っていう感じの曲です。

 アルバム的にはここでいったん落ち着けるので、バランスをもたらすいい曲だと思います。


6.addintion

聞きどころ:冒頭の軽快なサウンドと洗練されたメロディー

 ミスチルのニューウェーブという感じで、新鮮な曲ですね。なので人気も高いんだと思います。ぼくももちろん好きですよ!

 歌詞の内容は、これまでの曲に比べるといろんな解釈ができる歌詞ですが、
ファーストリアクションでも書いた通り、まだ《君》のことが忘れられない、「欲しくてたまらないよ」という歌詞だと思います。

 これを歌っているときは、まだ自分を抑えられている状態なんですね。「無表情を決め込んで自分を圧し殺している」状態です。
 でもいつこの気持ちが爆発してしまうかわからないという恐れ。(9曲目で爆発する)

 時間経過した『SINGLES』という見方もできると思います。

 「どんなに言い聞かせても 変われぬものがあるよ」が対応していますし、もうこの気持ちはどうしようもないと開き直ってますね。

 ですが、この曲も歌詞よりもジャズファンクなサウンドがまずは入ってきて、この曲が入ってるだけでムードがぐっと変わり、洗練された大人なミスチルの印象を与えていると思います。


7.day by day(愛犬クルの物語)

聞きどころ:無邪気なギターサウンド

 多分一ヶ月聴いて、一番お気に入り度が増したのがこの曲かもしれません。
最初から好印象でしたが、今はかなり好きですね。

 これまでの曲で言えば『ありふれたLove Story ~男女問題はいつも面倒だ~』に近いと思います。

 第三者が物語的に男女関係を語っていく曲ですね。

 サウンドだけ聞けば、無邪気なそれこそ犬のような曲ですが、歌詞はこれも「綺麗だったあの女(ひと)がいなくなってからも」「今もなお帰りを待ってるの?」と《君》がいなくなった曲です。

 一応犬について歌っていますが、

「スーパーの前の歩道に 主人を待つ雑種の犬 ガードレールに繋がれている
 君に微笑んで欲しくて 吊り革握っている僕とどこか似ている そわそわして」

と『靴ひも』で歌われたように「犬」は自分のことなんですよね〜

 いなくなってからも、日ごとに愛おしさは深くなっていくんですよ…帰りを待ってるのは自分なんですよ…ぐすん

 ですが、これもポップなロックンロールサウンドがまず入ってくる曲ですね。

 いま「ボヘミアン・ラプソディ」が大ヒットしてますが、クイーンのギターサウンドをオマージュしているこの曲も聴いてみてください!(2回目)


8.秋がくれた切符

聞きどころ:描写がありありと浮かぶ歌詞とサウンド

 これも一ヶ月聴いて、かなり好きになった曲です。

 これまで意識が朦朧とする中で、だんだんと《君》がいなくなったことを受け入れてきました。犬にすらたくして。

 そしてこの曲でいったん落ち着きます。実際アルバムの中でも落ち着くのに、とてもいい曲です。この辺の緩急が、このアルバム素晴らしい。

 それに秋に聞くのにぴったりで、落ちてきた葉がカバンに入ってそれが「神様が僕らにくれた切符」みたいだって素敵すぎませんか?(目キラキラ)

でも歌詞を見れば分りますが、《君》がいた最後の時期なんですよね…しかもそれをまだやり直せると思っているのは僕の方だけなんです!時間は待ってくれません。あぁ……


9.himawari

聞きどころ:ミスチル史上最もエモいギターソロ

 前にも書きましたが、ミスチル史上でも屈指の大名曲!

 甲子園が清原のためにあるように、himawariのために【重力と呼吸】があると言っても過言ではないほどの曲です。

聞きどころは、何と言っても

「諦めること 妥協すること 誰かに合わせて生きること 考えてる風でいて
 実はそんなに深く考えてないこといやしないこと
 思いを飲み込む美学と 自分を言いくるめて
 実際は面倒臭いことから 逃げるようにして邪(よこしま)にただ生きてる」

からの皇帝(田原健一)によるギターソロです。

 もうここは《君》がいない悲しさ、後悔、悔しさ、自分の情けなさ、不甲斐なさ、やり切れなさとか、本当に《君》が好きで好きで仕方なかったこととか…色んな思いが、言葉に出来ない思いも含めて、その《君》への思い全部がこのギターサウンドに乗ってるんですよ!

ここを聞くだけで、涙が出ちゃう……(2回目)

(ついでに「himawari」を引用しまくった『君の膵臓をたべたい』の映画評を一応置いておきます)


10.皮膚呼吸

聞きどころ:これからのMr.childrenの決意表明

 この曲がなければ、本当に結構打ちひしがれてきついアルバムになると思います笑。
 多分これは深読みしすぎだと思いますが、もうこの一連の流れで『himawari』まで聞いてしまったらそれこそ息もできないような状態なんですよ笑

 でも皮膚呼吸は生きているか限り、無意識にやっていることで、それがあることで何とかまだ生きられるという(生物学的には分りませんが)

 だから最後に皮膚呼吸があって、それでも生きていくみたいな締めになってるんだと思います。

「とある日 顳顬(こめかみ)の奥から声がして 「それで満足ですか?」って尋ねてきた」

という歌い出しは自分の中にいるモンスターとの対峙であり「Starting Over」を思わせますが、自分との対決というミスチルでよくあるテーマの曲です

 「冗談だろう もう試さないでよ 自分探しに」と続きますが、もちろん俺たちは(Mr.children)、そしてリスナーである僕たちもまだまだ戦ってくぜ!というのが割と穏やか、でも確かに歌われています。

 アルバムの最後に置かれていることも共通していますが『image』(【DISCOVERY】に収録)とテーマや内容的にも似ている曲だと思います。


▷結論「重力と呼吸はミスチル版「血の轍」だ!

 【重力と呼吸】の最初のタイトル案は【Your Song】だったという*13

 これは読んだ時、結構衝撃だった!「普通すぎるのでやめた」と書いていたが、まさに《君》のために歌われたアルバムだったわけだ!

 ぼくはこれを見て、ボブ・ディランの【血の轍】というアルバムを連想した。このアルバムはすべての曲が「別居していた奥さんに対して歌われた歌だけが入っている」アルバムなのだ。

(町山智浩)で、ところがこの『血の轍』っていうアルバムはボブ・ディランにとって強烈なアルバムなんですよ。っていうのはこれ、アルバム1枚まるごと、その頃別居していた奥さんに対して歌われた歌だけが入っているんですよ。」

 

 もちろん当たり前すぎて、書くのもはばかられるが、ここで桜井さんのプライベートを推測し、心配したいわけではない。

 主張したいのは、たった一人の《君》のために歌われた強烈なアルバム(つまり【Your Song】)という共通点である。

 【重力と呼吸】がもし【血の轍】というタイトルでも違和感はないと思う。そんな道程がしるされたロックアルバムだからだ。

 ちなみにぼくは【血の轍】を聞いたことがない。すべて町山さんのラジオで聞いたことだけをここでは堂々と発している。*14

 【血の轍】もミクロに対して歌ったことが、マクロになっていくアルバムだと言える。

 そのマクロの証拠に【血の轍】はユニバーサルに訴求するものとして映画化されるのではないだろうか?

 『君の名前で僕を読んで』や『サスペリア』のリメイクが控えているルカ・グァダニーノによって映画化されるというので楽しみだ。それまでに聞こう。

 最後に、ぼくがかんがえた【重力と呼吸】の意味づけ*15 であるが、【重力と呼吸】はどちらも人間が生きていく上で、必要不可欠なものである。

  それでもこのアルバムを聴くと、重力が重く重くのしかかってきて、精一杯呼吸を、それこそ過呼吸になりながらでもしないと生きていけない、そんな印象すら与える。

 それは【重力と呼吸】と同じ、いやそれ以上に必要だった《君》がいなくなったからだという意味だと思います。

*13 MUSICA 2018年11月号 p24
*14 ちなみに『スティーブ・ジョブズ』はかなり面白い映画です。
*15 人の心に引っかかって欲しいのが一番大きなモチベーションだったらしく、
 明確な意味があるわけではないらしい(「MUSICA p24」)


▷あとがき(桜井さんは「ボヘミアン・ラプソディ」を見たか?)

 いまミスチルは【重力と呼吸】をひっさげて、絶賛ツアー中です。メンバーも散々語っている通り、ライブを意識して作ったアルバムとのこと。運よく今度ライブに参戦できるので、それを経てまた【重力と呼吸】がどんな形になるのか、変化があるのか。

 それでぼくは気になることがあります。今話題の『ボヘミアン・ラプソディ』を桜井さんは見るのか?見たのか?ということです。

 このアルバムでもクイーンのオマージュが見られるように、桜井さんやミスチルのメンバーがクイーンが好きなことは明らかです。(というか有名?)

 あの映画はもちろん一般のリスナーが見ても感動しますが、それこそスタジアムでライブをするようなバンドが見た時、どんな感想をもつのかすごく気になります。

 というかあれ見て、ライブしたら単純にモチベーションがすごくあがると思うんですよ!(笑)なので見てから来て欲しい!(笑)

 それにあの映画を見たら、ミスチルがもう一回「さあこの指とまれっていうサビでみんな思いを共有する」*16ような曲に挑戦してくれそうな気がします。

*16 ROCKIN’ON JAPAN 2015年7月号

 あれ?一回目に聴いた時と、一ヶ月聴いたあとの結論がだいたい同じ……?

 いやいやまさかね……

(最後まで読んでくれた方いたらありがとうございます!まだ聞いてない方は重力と呼吸聞いてくださいね!)



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