なつセゾン。
携帯電話が鳴った。
「兄ちゃんが亡くなった」
次男からの電話だった。
突然の事だった。
すぐに実家に向かう。
実家たって、生まれ育った場所じゃない。
借金の為に、何度も引っ越した。
ドンドンと狭い方へ。
そんな場所で、兄ちゃんは布団に横たわって真っ白な顔をしていた。
腸が腐っていって変な匂いがしていた。
39歳。
若すぎるだろ。
馬鹿野郎。
弱虫。
当時、お父さんは入院していた。
教えない方が良い。
そういう話になった。
教えたら、お父さんは悲しみ入院どころではなくなるからだ。
兄ちゃんは離婚していた。
奥さんは子供を連れて、新しい男の人の家に住んでいた。
いつも寂しがっていたな。
お酒に逃げていたな。
仕事探そうとしても、探さなかったな。
僕によく電話していたな。
「大阪に帰ってこい」
「帰れないよ」
そんなやり取りの繰り返し。
正直、めんどくさかった。
最期に話したのも、そんな内容だった。
あんなに強かった兄ちゃんが。
呆気ない。
人は簡単に亡くなるんだ。
そう思った。
数年後、お父さんが亡くなる。
それを知ったのも、次男からの電話だった。
急いで帰ったら、お父さんは眠ってるようだった。
(もう苦しまなくていいな)
そう思った。
通夜の時、知らない人が顔を出してくれる。
僕は、次男と話し合った。
お父さんの工場で皆で働いていた。
あそこ行ったな。
こんな事あったな。
懐かしい事が勝っていた。
線香が消えないように。
ずっと話していた。
お父さんも強かった。
優しかった。
僕が末っ子だったからだろうか
長男の葬儀の時。
兄ちゃんの子供達がお焼香にやってきた。
前の奥さんは、新しい男の人の車で待機していた。
顔を出さなかった。
子供達は泣いていた。
「何時でも来い」
僕と次男はそう話した。
泣いて頷いた子供達は、下り坂を歩いて車に戻って行った。
僕は兄ちゃんに怒っていた。
亡くなりやがって。
どこまで迷惑かけさせんねん。
アホ!
そんな事ばかり考えていた。
お父さんの葬儀の時は冷静だった。
(もう精一杯生きたもんな)
頑張った。
あんなに現場仕事して、ゴツゴツだった指が細くなっていた。
そういうもんだ。
思い出すのは火葬の時だ。
ムカついていた兄ちゃん。
頑張った、お父さん。
どちらも焼かれる時(もういなくなるんだ)と実感した。
泣いた。
ボロボロ泣いた。
妻が背中をさすってくれた。
それだけは覚えている。
「兄ちゃん!」
「お父さん!」
大声をあげた。
火葬場を出て空を見上げた。
白い煙が昇っていった。
お骨になった。
家に戻るまでに想い出の場所を巡る。
ここで一緒に仕事したな。
そんな場所ばかりだった。
淡路島に帰る時。
電車のホームで入道雲を見た。
ずっと見ていた。
電車がくるまで。
(生きよう)
そう思った。
兄ちゃんの分まで。
お父さんの分まで。
負けない。
季節はどちらも夏の日。
暑い日だった。
晴れていた。
僕の人生を決定づけた。
だから、僕は『生きる』ことにこだわる。
夏の日。
それは、苦手な季節であるが、僕を振るい立たせる季節。
回帰。
そして、生きてるって事を実感する時なのです。
嘆いてたって、しょうがない。
逃げていたって、しょうがない。
自分が弱いって悲しんでいたって、しょうがない。
最後は、自分自身なんだ。
朝が来た。
もうすぐで、24時間勤務も終了だ。
僕は、お仕事できてる。
本当にありがたい。
感謝も込めて、僕はまた勤務に戻る。
兄ちゃん・お父さん、ありがとう。
二人が教えてくれたんだ。
次男は、いつも僕のケツばっかり拭いてくれる。
母の面倒を見てくれている。
たまに「元気か?」と連絡をくれる。
ありがとう。
お父さん・お母さんの子供として産まれてきて、姉ちゃん・兄ちゃんと一緒に暮らせた。
宝物だ。
感謝しかない。
僕は頑張っていると思います。
頑張れてるのかな?
わかんないや。
でも、あの入道雲は忘れない。
昨日降っていた雨はやんで 晴れています。
あの時の空の様です。
不思議だな。
そう思えるんだ。
さぁ、今日も一日です。