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【本紹介】『RANGE―知識の「幅」が最強の武器になる―』

一つの道を究めた人。
その結果、皆の脚光を浴びる人に、ぼくたちは強い憧れを抱く。

どうしたら彼ら彼女らのように、大きな成果を生み出せるのか。

一つの答えが、できる限り早く自分の極める領域を決め、多くの時間をその鍛錬に費やすことだ。
その成功者として、タイガー・ウッズがよく引き合いに出される。

生まれて間もなく、ゴルフのクラブを握り、スイングをしたらしい。
極めて早期に将来の活躍の場を定め、早期教育によって、誰しもが認めるゴルフ界のスターとなった。

10000時間の法則というものがある。どんなことも10000時間鍛錬を積めば、その道の専門家になれるということだ。この法則を前提に、いかに必要な10000時間の鍛錬をやり遂げるか、も専門特化の議論ではなされる。

できる限り早期に専門領域を定めて、10000時間の経験を積み重ねることで、成功者になる。
この戦略はキャリアデザインや教育の場でもしばしば耳にする方法だ。

近年の日本で言えば、英才教育の末、未踏の成果を残した、藤井聡太棋士もその方法による成功者と注目されている。

しかし、これは本当に万人に適用できる戦略なのだろうか。

こんな著名人もいる。
幼少期はとにかくいろんなスポーツにチャレンジする少年だった。
サッカー、スキー、スカッシュ、レスリング、スケートボード、バスケットボール…
実に多くのスポーツに取り組んだ。
そして、あるときテニスを始めた。
当初はテニスのコーチであった母親が教える気を失う程度の選手だった。
対して上手くなかったのだ。
そうなると少年は自由に取り組むことができ、むしろテニスに惹かれるようになった。
最終的にテニス一本に絞ったのも随分あとだ。
それが30代を越えても世界ランキング1位に君臨し続けたロジャー・フェデラーだ。

専門特化を先延ばしにして、多様な経験を積む。
その蓄積を生かして、最終的に決めた専門領域において、比類ない実績を残す。
そうした成功例のほうが、タイガー・ウッズや藤井聡太棋士のようなケースよりも、実は多いのではないだろうか。成功の見込みが高いのではないか。

ゴルフや将棋のようなある程度定型化されたパターンがある世界は、実は限られている。複雑性が高く、定型化の難しい領域では、むしろ多様な経験を積むほうが大きな成果を残せるのではないか。経験の幅が、多様な視点や斬新な発想を生み出す。こうした戦略が通用するケースの方が、実は多いのではないだろうか。

多様な経験を積んだ結果、大きな功績を残した人物は多い。画家のゴッホもその1人である。しかも、幼少期、そして、再度芸術に取り組み始めた当初においても、芸術の才能を感じさせる気配はほとんどなかったという。

本書は、幼少期からの専門特化教育の盲目的な礼賛から一歩ひき、キャリアや教育について再考するヒントを与えてくれる一冊だ。


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