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【1分小説】好き

 私はこの街角が好きだ。パン屋と花屋が並んでいるから好きだ。「生きるにはパンだけでなく、桜がなくてはならない」という好きな言葉を思いださせてくれる。ついでに、「桜の樹の下には屍体したいが埋まっている」という好きな作家の言葉も。しかも、花屋の軒下にはつばめの巣もある。生まれたばかりの雛に食べさせるために、母が精悍に踊り狂っているのを見るのが好きだ。

 だから、ここは通学路ではないけど、毎日私はこの街角を周って帰路につく。受け取った通知表の評定がすこぶる良かった日も。靴箱から上靴が隠されていた日も。つばめの巣を突いて毀した少年を花屋の店主が叱りつけていた日も。

 私は崩れ去った巣の、天井に貼り付いた残骸を見るのが好きだ。

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にわ。
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