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【1分小説】自己相似性

 数年ぶりに訪れた京都は異邦の喧噪に支配されていた。流暢な言語がそれぞれの彫りを刻みながら跳び交い、私の耳に流れ込む。知らない言葉は意味を帯びる由もなく、ただ不鮮明なノイズとして響く。ノイズはギザギザしたフラクタル模様として私の心象に映し出され、そのせいで、この目がたしかに捉えているこの京都の商店街もグリッチがかって見えた。小一時間まわった頃には、古いオーディオの電熱線みたく、私の頭は騰せていた。

 ここは嫌いだ、と思った。それと同時に、自分が存在する、いる、あるというだけで、侵害するなにかがどこかにあるという実際に目眩を覚えた。


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