王神愁位伝 第1章【太陽のコウモリ】 第1話
第1話 出航
ー 前回 ー
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”ジリジリジリ”
雲一つ見当たらない空に、太陽が煌めくこの土地。
ここは、右腕に太陽の刻印をもつ太陽族の領地である。
温度は時間が経つにつれ、ぐんぐん上がっていく。しかし、灼熱の暑さではなく、温かく包み込むような心地の良い暑さを太陽は人々に与えていた。
そんな土地の中心の中心。
そこには大きな湖が広がり、中心には豪勢な城がそびえたっていた。
その城は黄色を基調とし、所々オレンジ色や水色などの配色がされ、まるで天に浮かぶ太陽をそのまま城にしたような印象を与えている。
ーそう。この城は太陽が煌めく土地の中心、太陽族領地の心臓部分である太陽城である。
太陽城の特徴は城だけではなく、誰もが息をのむほど美しい湖も人々を魅了している。一度この湖を知ってしまってからは、他のどんな湖も人の心を動かさなくなると言われるほどだ。
日中は太陽の日差しを吸収し、幾分か暑さを冷まし、夕刻には夕日を様々な色で反射させ、城一体を芸術品のように映し出していた。
太陽城は、太陽族の王、太陽王の住む城である。
勿論、この城は太陽王だけではなく、太陽族を取り仕切る人々が出入りしている。
城に出入りするには、この大きな澄んだ湖を渡る必要があり、城側と反対の陸地側にはそれぞれ専用の船で渡る。船は小さく、大人2~3人乗れるくらいの大きさである。
濃いオレンジ色の頑丈そうな船の船首には、怖そうな龍の頭部が彫られ迫力を感じさせる。
船は常時4~5隻ほど用意されており、太陽城専属の船乗りが船を出す。
そんな船乗り場に、フードを被った一人の男性が現れた。
小太りな船乗りがその男性に気づき、面倒くさそうに腰を上げた。
「こんにちは、𦪷さん。」
フードを被った男性は穏やかな声色で、𦪷と呼ぶ小太りの男に挨拶した。𦪷は挨拶も返さず、不機嫌そうな顔で黙々と船を出す準備を始めた。
「・・・どっちにいきたい。」
「今日は、東のとある村で”未確認生命物体が空から落ちてきた”との通報が入りましてね。」
どこか嬉しそうに話すフードを被った男性。
全体にマントとフードをしているせいで、外見はよくわからないものの、スラっとした体系はスタイルの良さを感じさせた。
胸元には、太陽の形をした輝くブローチがついており、マントを止める役割も担っているようだ。
男性の言葉を聞いて、城の東側の陸地に着くよう船を配置する𦪷。
「”マダムが出た!”とかであれば、セカンドを派遣すればいいんですが。未確認生命物体なんて言われてしまいますと、なんとも興味をそそりますよね。」
「あんたの部隊から、誰かを派遣すればいいだろ。」
𦪷は、船をいじりながらフードを被った男性に聞くと、男性は両手を上げた。
「それが・・・。私の部隊は激しい人手不足でして。この通報に対しても、悪戯だって、城にいる誰もが相手にしないんですよ。他地域の部隊を呼ぶのも、そこまで大事になってないですし・・・。」
「なのに、あんたは行くのか。」
「ええ。まぁ、セカンドの皆さんは全員出払ってますし。行くとすれば戦術班の誰かなのですが・・・。死んだ魚の目をした副隊長に、行くなら自分で行って来いと言われたので、行くことにしました。」
どこか意気揚々に、嬉しそうに話す男性。
「・・・それ、冗談で言ったんだろ。たぶん、あんたいないと仕事が進まないって、いつもバンが言っている。」
船の用意ができたのか、𦪷はジトっとした瞳をフードの男性に向けた。すると、船乗り場から少し離れた城の玄関ホールがなにやら騒がしくなった。
「くぉおらぁぁぁぁぁぁああああああ!!坂上ーーーー!!どこに行ったーーーー!!」
「坂上さーーーんっ!!承認してもらわないと仕事すすみませんよーーー!」
遠くから聞こえてくる怒声に、フードをより深く被って急いで船に乗る男性。船乗り場の方に声が近づいてくると、男性は𦪷に言った。
「𦪷さん!ほら!早く早く!!」
意気揚々と急かす男性に𦪷はため息をつくと、両手を男性の乗る船に向け目を閉じた。
すると、先ほどまで静かだった湖に波ができ、船が東側の陸に向けて独りでに動き出した。
”バタバタバタッ!!”
「おい!𦪷のおっさん!!うちの隊長は・・・」
船がでたタイミングで、何やら数人船乗り場に走ってきた。
息を切らし走ってきた薄茶色の髪と不精髭を生やした小汚い男性は、濃いクマをもつ憂鬱そうな瞳を向けながら𦪷に聞くと、𦪷が既に出航した船を指さした。
船には先ほどの男性が手を振り、その隣にはいつの間にか頭に包帯を巻いた黒猫が座っていた。
その様子に、小汚い男性は持っていた大量の書類を強く握りしめて船に向かって叫んだ。
「くぉおらぁぁぁぁぁぁああああああ!!!坂上ーーーーーーーー!!!今すぐ戻ってこいこんにゃろーーーー!!」
男性の怒声に、坂上と呼ばれる男性はフードを取った。
フードで隠されていた長い茶色の綺麗な髪をなびかせ、人懐っこい印象を与える青い瞳をニコっと緩ませると手を振った。
「行ってこいって言ったのはバンくんですよーーー!ちょっとクロと行ってきますね~!」
「冗談に決まってんだろおがぁぁぁぁぁああああああああ!!どこに、こんなクソ忙しい時に意味不明な未確認生命物体を見にいく奴なんかいるかぁぁぁぁぁあああ!!」
「はーーーいっ!!」
笑顔で高く挙手する坂上。
そんな坂上を見て、バンと呼ばれる男性は𦪷に迫った。
「おい、𦪷のおっさん、あの船止めろ!」
「面倒。」
「はぁぁぁぁああああああ!!?っクソ!セカンドたちがいれば力づくで戻せるのに!もういい!俺が泳いでいく!!」
「え」
「ちょっと!バンさん!!番人にキレられて、食われますよ!?」
「あっははははっは!!バンはん、流石にそれはあかん。1週間も風呂入ってないから、湖も汚くなってまうし。」
「うわ、汚っ。」
「てめぇらごちゃごちゃ言ってねぇで、坂上隊長を止める方法考えろ!!!」
バンは怒りを隠し切れず、出航した船を追おうと湖に飛び込もうとし、船乗り場にいた数人が必死に取り押さえた。
船から見ていた坂上は、クスクスと笑いながら優雅に手を振り、そのまま船で東側の陸地に向かっていった。
ーー次回ーー
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