僕はおまえが、すきゾ!(37)
「ちょっと、家に来いよ」
優作からの電話が来たのは、土曜日の朝だった。優作の声はどこか弾んで聴こえた。
優作は、久しぶりに僕と一緒に映画でも観ようという事だった。僕も誰かと話しをしたかったし、優作と会うのは、自分としても丁度良かった。その日、優作と観た映画は、「ビフォア・サンライズ」という映画だった。
旅行者同士の男女二人が一晩だけウィーンで
過ごし、お互いの連絡先も知らないまま、半年後に同じ場所で会おうと約束をするというラブストーリーだった。
今までラブストーリーなんて、全然興味がなかった。だけど、その映画には今まで気にもしなかった男女の機微が描かれていた。
優作は、どうして僕とラブストーリーなんかを観ようと思ったのだろう。僕の頭の中に、そんな事がふとよぎったが、僕はテレビの中の男女二人に魅了されていた。
エンドロールがテレビ画面の中でスクロールし、映画は終わった。
優作は、そしてこう言った。
「おい、宏人~」
優作は急に僕の頭をヘッドロックでキメて、天にも舞い上がるような声で言った。
「恋って、本当にいいもんだよな」
優作は僕の頭を抱えて、飛び上がっては、ガシガシと頭を上下に振った。
「痛い痛い痛い!放せよ!」
「ああ、ごめん」と言って、優作は僕の頭から自分の腕を外した。
優作は僕が頭を抑えて痛がっているのも、お構いなしに、あいみょんの歌を絶唱していた。
恋か……。僕は古賀さんと上手くいっている優作を見ても、僕には、恋ってものがいまいち良く分からなかった。相手の為に、自分の貴重な時間を割こうとは思えなかった。
僕がそう優作に言うと、優作は「じゃあ俺はどうなんだよ」と聞き返した。
考えた事も無かった。優作との時間、優作に割く時間はあっても、恋愛になんか割く時間なんて無駄だと思っていた。いや、今でもそう思っている。恋愛なんかしても、自分が惨めになるだけだ、油科さんとの一晩が僕をそう思わせた。
僕はやっぱり優作と一緒にこうやって映画を観ながら、馬鹿話をしていた方が楽しいんだ。
そう思っていると、優作が言った。
「俺、朝子さんに告白した」
優作はちょっと真剣に、でも目を細くして笑ながら、僕にそう言った。