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無料アプリで将棋がどんどん強くなれる、かつてない時代になっている件

▼17歳の藤井聡太氏が、快進撃を続けている。産経新聞の記事から。

〈【ヒューリック杯棋聖戦】藤井七段、最年少タイトルに王手 第2局も制す 2020.6.28 18:44〉

〈将棋の渡辺明棋聖(36)=棋王・王将=に高校生棋士、藤井聡太七段(17)が挑戦するタイトル戦「第91期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負」(産経新聞社主催)の第2局が28日午前9時から東京・千駄ケ谷の将棋会館で指され、後手の藤井七段が90手で勝ち、開幕2連勝で初のタイトル獲得まで、あと1勝とした。

 藤井七段がタイトルを奪取すれば、屋敷伸之九段(48)が持つ最年少タイトル獲得記録(18歳6カ月)を更新する。〉

▼個人的には、「5四金」を見た時に驚いた。アベマの藤井猛氏の解説が、相変わらず快調だった。そういえば、今号のテーマは「無料」だが、アベマの解説も無料で見ることができる。

▼さて、インターネットによって将棋の世界が劇的に変わりつつある。今号は、「無料で、これだけ便利に将棋の研究ができる」ということをメモしておくが、アマチュアですら、これだけ劇的に環境が変わったのだから、ましていわんやプロの世界をや、ということで、その象徴的なあらわれが、「藤井聡太の登場」なのかもしれない。

▼タイトル戦のことを少し書いておくと、レーティングで考えると、もしも棋聖戦で渡辺氏が3タテを食らえば、王位戦の7番勝負で、王位の木村一基氏が藤井氏に4勝できるとは考えにくい。現状で、レーティングは藤井氏が1位。渡辺氏は3位。木村氏は10位である。

しかし去年、木村王位が誕生した時、まさにレーティングでは勝てそうもない豊島氏にフルセットの激闘のすえに勝ったのだった。勝負はわからない。

▼ただし、「挑戦者決定から番勝負までの時間が短い」という今年の状況は、去年まで1度もなかったものだ。だから、今年が初めての番勝負である藤井氏は、去年までの経験がないから、経験によって逆にリズムが狂う、ということはない。10代後半だから、体力もある。

いっぽうの渡辺氏や木村氏は、今年のようなリズムでの戦いは、これまで一度も戦ったことがない。

どちらが有利だろうか。これも、よくわからない。

ただし、「追われる者より追う者のほうが強い」(「仁義なき戦い」)という名台詞が、今回の棋聖戦、王位戦に当てはまるだろう。

▼その、追われる者と追う者との熱戦を見るのに最適なアプリがある。将棋連盟のライブ中継アプリだ。

ひと月550円。もっとも、今号で紹介する有料のものは、これだけなのでご安心を。

初めてこのアプリを知った時は、とても嬉しかった。

▼たとえば、A級順位戦の最終日は、毎年、「将棋界の一番長い日」と言われているが、その日の夕方から将棋会館などに行くと、大盤解説会があり、近年は大盛況である。

対局は日付が変わっても続く場合がけっこうあるのだが、解説会は途中で打ち切らない。最後までやる。たとえば、「羽生vs渡辺」戦が終わった後、羽生氏と渡辺氏の二人とも解説会の会場にやってきて、疲れ果てているにもかかわらず、その場で少し、終わったばかりの対局の解説をする、という、ファンにとってはこたえられないほどのファンサービスにまみえる年もあった。

ときには終電を過ぎることもあるのだが、終電過ぎまで解説会を見てから帰る(帰れるのか?)ツワモノも結構いる。

解説会では「次の一手」の大会などがあり、当たった人のなかから抽選で景品をもらったり、将棋ファンにとってはとても面白い一日だ。

▼とはいえ、なかなか将棋会館まで物理的に足を運べる人はいない。

しかし、この将棋連盟のライブ中継アプリがあると、その日のすべての対局が、すべて担当記者の解説つきで、リアルタイムで観戦できるわけだ。

順位戦だけではなく、他のタイトル戦の対局も、すべて解説つきで好きな時に見ることができる。10年前には、想像もつかない恵まれた環境だ。

▼しかも、それらの棋譜は、しばらくしたら「将棋DB2」にアップされるから、将棋DB2経由で棋譜を「ぴよ将棋」に送って、いくつかボタンを押せば、最低限の棋譜の解析を、たちどころにおこなってくれるわけだ。(将棋DB2とぴよ将棋については後述)

ほんとうに、便利になった。

▼というわけで、将棋ファンになったばかりの人に、ずいぶん前から将棋ファンの筆者が、オススメの無料アプリやサイトを紹介しておく。たくさんの種類がアプリが開発されているので、好みの問題なのだが、これさえ知っておけばあなたの将棋生活がかなり豊かになること請け合いの、アプリ2つ、サイト1つ。

まず、「将棋クエスト」。

これは24時間無料でオンライン対局できる。「将棋ウォーズ」という素晴らしいアプリもあるが、有料。筆者は、将棋クエストで十分。ウォーズもクエストも、負けた時に負けを認められず、一方的に通信を切るかわいそうな人や、礼儀知らずであるがゆえにそれ以上に決して強くなれない気の毒な人がいるが、オンラインだからこそ、自堕落(じだらく)っぷりを衆目(しゅうもく)に晒(さら)す人が出てくるのは、将棋のオンライン対局に限ったことではない。

▼次に、「ぴよ将棋」。

これで棋譜を検討できる。たとえば、将棋クエストの「5分切れ負け」で辛勝したとする。もしくは大敗したとする。その棋譜を、「ぴよ将棋」に送って、自分の棋譜を手軽に解析できるのだ。この機能を知った時は驚いた。便利このうえない。

もちろん、本格的に解析するなら、なんらかのAIソフトをダウンロードしないといけないが(筆者は技巧2というソフトを使っている)、初心者からしばらくのうちは「ぴよ将棋」で十分だ。

また、「ぴよ将棋」はコンピューターと対戦もできる。一手指すたびにピヨピヨと言うのでかわいいのだが、最高レベルのぴよ帝は相当強い。筆者はとても歯が立たない。

三つめに、「将棋DB2」。おもなプロ棋士の棋譜を、だいたい見ることができる。

▼ここで、先に書いた文章を再掲しておくと、

プロの棋譜は〈「将棋DB2」にアップされるから、将棋DB2経由で棋譜を「ぴよ将棋」に送って、いくつかボタンを押せば、最低限の棋譜の解析を、たちどころにおこなってくれる

つまり、どの手が悪手で、どの手で逆転したのか、されたのかを、ソフトの力を借りて、あれこれ自分で研究できるわけだ。

隔世(かくせい)の感、という言葉は、この状況のためにある、といっても過言ではないほど、将棋好きの環境は激変した。10年前には、まったく想像もつかない風景が、目の前にある。

強くなりたい、という人は、この環境を使って、どんどん強くなれる。

他のアプリやネットでのサービスは、探せばどんどん見つかるので、ここでは基本にして十分な4つのサービスについて紹介した。

▼ただし、「棋書」といわれる本のジャンルがあり、戦法の研究などは、やはりそうした「紙の本」を読んで、「実際に将棋盤に駒を並べる」という作業をしないと、筆者の場合は脳に定着しないのだが、思いがけず3000字を超えてしまったので、その話は別の機会に。

▼将棋という趣味はお金もかからない。上で紹介したライブ中継のアプリを登録して、月刊誌の「将棋世界」を買っても、ひと月1500円もかからない。道場に行けば、世代を超えたつながりが生まれるし、言葉を超えてコミュニケーションできる場合もある。

なによりも今は、「羽生善治」という史上最強の棋士と、「藤井聡太」という、これから史上最強の棋士になるであろう少年と、「藤井猛」という、前代未聞の戦法(藤井システム)を創造した天才が、ともに生きている時代である。

「新手一生」(升田幸三)、冷酷で残酷な勝負の世界を中心にして、興行として、将棋界は黄金時代を迎えつつある。

(2020年6月30日)

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