見出し画像

「ウェディング映像制作チームを再定義する時がきた」

ドローンと電動ジンバルが広く普及し始めた2018年以降、ウェディング映像業界全体のクオリティは劇的に進化してきました。技術や情報はネットでいくらでも収集できるようになり、マッチングアプリや支援系サービスの拡充やSNSで直接集客が容易になるなどITインフラの整備によってフリーランスになる障壁も限りなく低くなったと言えます。特に顕著なのは、大手ウェディング映像制作会社(以後大手と呼ぶ)に籍を置く腕に自信のある人材。正社員という安定したポジションからどんどん離脱し、もっと自分のスキルに見合った対価を得ることのできる場所を探してフリーランス映像クリエイターという選択肢を選ぶことが比較的簡単な時代になったのです。実際に私が初めてウェディング映像制作者向けのセミナーに講師として参加した10年前に比べると、圧倒的にそうしたケースが増えているという印象を肌で感じています。

フリーランス急増の背景にはIT技術の進化だけでは説明ができません。そこには長年築き上げられてきたウェディング映像業界の構造的問題が一番の大きな要因として頭をもたげています。大量に集めたアルバイト(副業)を急造カメラマンとして仕立て上げ、全国の拠点へ送り出す旧態依然のカメラマン派遣業者的ビジネスモデルを主軸にした大手の戦術は今でも有効です。土日祝日しか稼働しないウェディング業界の特異性ゆえに発展した合理的解決方法ではあるのですが、クオリティ・オブ・ライフ的観点からの働き方として俯瞰した場合、長年続けてきたこのビジネスモデルはそろそろ金属疲労を起こしつつあるのかもしれません。そんな手垢のついたビジネスモデルを死守せんがために奮闘する大手社員たちの働きぶりには、傍から見て気の毒に思うことも多々あります。低賃金、長時間労働、やりがい搾取。彼らの何割かが正社員という「安定」を捨ててわざわざ「フリーランス」という選択肢を真剣に考えるのは、お金だけではない何かもっと大きな理由が確実に存在しているのだと思われます。

大手もこの「脱正社員フリーランス化」の動きに対して指を咥えて傍観しているわけではないようです。その一つのソリューションとして数年前から散見され始めたのが「社内ベンチャー(起業)」的戦術です。社内の精鋭をかき集めて小規模チームを結成し、ブランディングを付して社外のクリエイティブな小規模新興勢力に対抗しようという意図が垣間見えます。その目的は大量生産型ビジネスに疲弊した社員にクリエイターとしてのやりがいを見出してもらい、離職率を下げる効果を期待しているのでしょう。B2B(対提携会場)ビジネスをメインにしてきた大手はB2C(一般消費者)に対して自社イメージ向上を図るという動機が極めて薄く、自身のマーケティングやブランディングに対してその必要性をそもそも感じていませんでした。さらに圧倒的な物量と資本力を持つ大手は、わざわざ社外の零細チームの存在に対して危機意識を抱く必要もありませんでした。

しかし、ここ数年の顧客ニーズの多様化や、私たちのような小規模で生産性よりもクリエイティブを追求するようなチームが台頭してきたことによって結果的に大手の優秀な人材の流動性が高まることに繋がったのは事実だと思います。ウェディング映像制作をやりたくて入社してきたのに、同じものを同じ場所で延々と量産しなければいけないような作業員(オペレーター)的ポジションより、もっとクリエイティブを探求できる職人やクリエイターのような専門職、それを少しでも実現できそうな環境に憧れるのは当然と言えるでしょう。

大手のこの動き(社内クリエイティブチーム創設)は今のところほぼ社内問題の解決(やりがいを創出して離職率を減らすこと)がプライオリティではあるのですが、じゃあ無視してもいいレベルの話かというとそうとも言えないと思います。実際に私たちが業務提携している会場でもこの手のチームが参画し、競合となってくる場面が増えています。相手は常に小規模チームの作例を研究し、王道ともいえる経営戦略のひとつ「模倣」を繰り返して品質を上げてきます。「それうちのほうが何年も前からやってる、うちがオリジナルだ」と言っても意味がありませんし、一般のお客さんから見れば関係のない話になってしまいます。これだけ情報がオープンになった今日では、ウェディング映像に関するビジュアル的なクオリティそのものの価値は相対的に低下していく時代だと考えます。こういった大手のやり方に対抗するには、「勝とうとしない、でも負けない戦略」を考える以外に有効な手立てがないように思います。機材や技術といった狭い範囲の専門性にだけ拘り続けると足元をすくわれるかもしれません。ではどうすればいいのでしょうか。私は「信用」と「作家性」にヒントがあると思っています。

簡単には模倣できない積み重ねられたものを最大化できるように、これからチームをリデザインする必要があります。信用はその最たるものであり、時間をかけて積み重ねた結果として醸成されるものの、一瞬で崩れ去るという性質もあります。いかにして信用を築き上げ、ダメージコントロールを万全にしつつ拡張していくか。小改造を繰り返しながらひたすら続けること。「継続は力なり」の一言に尽きる気がします。そして模倣することが難しい「作家性」を引き出すために、クリエイターそれぞれの特徴を生かせる仕組み作りをする必要があります。自分にしかできない表現とは何なのか。ウェディング映像というものに対して真摯に向き合い続けることが出来るのか。そういった深い部分まで探求できるような人材を育成するための環境整備は機動力に優れた小規模チームだからこそ突き詰め易いのではないかと思います。

この歴史的パラダイムシフトのタイミングでフリーランスも含め小規模チームが自分たちの方向性や在り方を再定義するチャンスだと思っています。最も重要なことは中長期でものを考える事です。「自分たちの映像が称えられたけど、チームは潰れてしまいました」では全く意味がないということです。

「人にはみな、愛すべきストーリーがある。」
" We all have a story worth sharing. "

僕たちのYouTubeチャンネルです。興味のある方は是非ご覧ください。


この記事が参加している募集

業界あるある

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?