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「会社勤めの経験がない僕が会社を作って組織化するのに使った最もシンプルな方法」

正社員として会社で働いたことがない僕が作った会社が今年で14期目に突入しました。規模としてはまだ小規模事業者のカテゴリーに分類される吹けば飛ぶようなスケール感ではありますが、「属人的」や「職人的」要素を「どう生かしつつ、排除していくか」というジレンマと戦いながら、ここ数年でやっと「組織化」が形になって来たんじゃないかと思えるようになりました。数年前までは僕が最前線に立ってチームを先導していた自覚がありますが、今はもう完全にフロントラインからは抜け出しました。社長本来の仕事である「経営」というもののスタート地点に、遅ればせながらやっと辿り着いた気がしています。

フリーランスから組織化することが絶対的な正義ではありませんし、組織化しないことにもメリットはたくさんあると思います。僕が事業を始めた時は「組織化」なんていう単語すら知らず、1人親方プラスアルファ(アシスタント数名)の典型的なクリエイティブ1点突破型職人でした。法人成りしてから14年経った今、結果として組織化を目指す方向性に舵を切って進んでいます。ここで一度「組織化とは何か」を僕なりの解釈で説明させてください。


マンモスを狩るということ

例えばマンモスを狩るときに1人で倒すか10人で倒すかの違いを考えます。1人で倒すには相当なマルチタスクが必要とされますが、10人で組織的に倒せば1人で倒すよりも効率よく仕留めることができます。更に倒した後が問題です。1人で倒せばマンモスの肉を独り占めできますが、肉は適切に管理しなければすぐに腐ります。マンモスを倒す能力とその肉を保存して管理する能力は別物なんです。だから10人で役割分担をして狩りをし、確保した肉を適切に処理して保存し、みんなで分け合う「仕組み」を作る事が継続して食料を確保する最も効率的な方法の一つとなります。

しかしそれだけでは栄養が偏ってしまいます。管理して保存したマンモスの肉を他の集団が耕作した米と交換して肉以外の食料を確保→皆に行き渡らせる→栄養のバランスが取れて健康になる→運動能力が上がって狩りが効率よくなり食料の心配がなくなる→食事としての楽しみという付加価値が生み出される→食事(文化)を通してその地域一体が豊かになる。というビジョンを作る事もまたマンモスを倒す能力とは別物。色々な能力を持つ個人の集合体=組織化することで1人では成しえない大きな成果を得ることができるようになります。これが僕の「組織化」の意義に対する大まかな解釈となります。

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組織化するのに最も手っ取り早い方法

僕の会社の場合、大手の下請けをすることが結果として組織化を進めることになりました。ウエディング映像制作の業界では、元請け(大手ウエディング映像制作会社)から提携している式場の仕事を回してもらいます。元請けは全国の式場と提携しているため、圧倒的に人手が足りません。そこでフリーランスや小規模チームに安定した仕事量を回す代わりに比較的安価で卸します。下請けの金額は相場が在って無いようなもの。とてもそれ一本で食っていくことができない副業レベルの金額が多い印象です。下請けが嫌なら自力で式場やプロデュース会社と直接契約するか、エンドユーザーをSNSやWEBサイトを使って集客する方法などが一般的です。

なぜ下請けをしたら組織化できたのかというと、単純に人を集めなければいけなかったからです。元請け会社は1年間に膨大な量の案件を施工しています。彼らが下請けに求めるのは、いかに大量の案件を安く都合よく請け負ってくれるのかです。僕の会社は下請けと同時並行してプロデュース会社との直接契約やエンドユーザーへの営業も進めていました。どちらか一方に仕事の配分が偏れば、もう一方はやがて離れていきます。ということで下請けと直請けの配分バランスを取ることが両者からの信頼を得る上での最重要課題でした。労働集約型のこの業界において、問題を解決する初歩的なやり方は単純に人を増やして対応することが最も一般的と言えます。僕の会社もご多分に漏れず、この方法で課題を乗り切ろうと求人を始めることになります。

そこで初めて「採用」という(世間一般では当たり前の)企業活動に直面することになり、その重要性が何たるかを思い知ることになります。そうやって集まった人材を手間暇かけて自分たちの手で育成し、現場にアサインして施工を無事に完了させ、クライアントに請求書を送って翌月の入金を待ち、報酬を計算して決められた日に支払うという会社組織として基本的な一連の活動を(ある意味強制的に)せざるを得なくなります。もしもこの仕組みのどこかで不具合を起こせばすぐに機能不全が起こり、小さい会社の信用はすぐに消し飛んでしまいます。海面から浅いと敵艦に見つかり、深く潜り過ぎると水圧で艦内のパイプから水が噴き出すような大戦中の潜水艦に乗ってるような非常に不安定な状態なのです。創業期はとにかく依頼が来た案件をすべて引き受ける事を最優先とし、社長の僕とて下請け仕事を嫌がらずに積極的に現場をこなす日々を何年も送ることになりました。

こうして下請け仕事を継続的に請けることで試行錯誤し、会社組織としての基礎が自然と確立されて行きました。さらに、取引する元請け会社の社員とのコミュニケーションが頻繁になるので、相手側(他社)のシステムや文化などを目の当たりにすることになります。数百人規模の会社の仕組みを至近距離でじっくりと観察することができるのです。これはかなり勉強になりました。なぜ離職率が高いのか?なぜ現場がいつもピリピリしているのか?社員はどのくらいの給料でどのくらいの仕事量なのか?収益構造がどうなっているのか?自分たちより遥かに大きい規模の組織を観察して比較することで、自分たちの組織化におけるプロセスの「お手本」(良い面も、悪い面も)となりました。これは大手の下請けをしなければ絶対に得られなかった一番のメリットだと思っています。

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問題点の洗い出しと終わらない改修

下請け仕事を大量にこなしていけば、それに対応するために会社独自のシステムがなんとなく形になり、ある程度うまく回るようになって仕組み化の精度が自然と上がっていきました。すると今度は社内の様々な課題がじわじわと顕著化してきます。それぞれの意志や事情を内包した生身の人間が集まって出来る集団(会社組織)ですから、それは何ら不思議なことではありません。課題や問題点を随時アップデートし、時にはシステム自体を小改造して対応しなければいけない場面もあります。些細なアップデートを怠ることで、将来それが取り返しのつかない大きな問題として会社の存続を揺るがす可能性もあります。常にどこかのパイプから水が漏れだす潜水艦と同じです。小さな水漏れをそのまま放置していれば、やがて電気系統が水につかってダウンし、二度と海面に浮上できないような事態になるかもしれないのです。こういった問題点の洗い出しと小規模な改修のループからは、絶対に避けて通ることはできません。組織化するのであれば、その点は覚悟したほうがいいでしょう。

フラットな組織を目指してはみたけれど

それぞれ得意分野で専門性の高いスキルを持ったフリーランスがプロジェクトごとに集まってチームを作る「ギルド型組織」や、意思決定を個々に委ねるフラットな組織「ティール組織」など革新的な組織論の概念が注目された時期があります。僕の会社も一時期それらを手本にした組織化に対する方向性を目指した時期がありました。しかし僕の経営能力が大して高くないことが原因で、残念ながらそれらのアイデアをうまく導入できるまでには至りませんでした。気が付けば結局はティール組織どころか、最も原始的な組織モデルから数歩前に進んだ程度が関の山でした。しかしながら、様々な角度からの組織化に対する試行錯誤を重ねていくうちに、結果として組織のカタチや解釈はどうであれ、組織化するに当たってその核となる必要不可欠なものが何であるかを徐々に理解できるようになりました。シンプルにそれは組織の「経営理念(哲学)」であり、それを元に醸成される「共通認識(文化)」であるということです。いくらうまく仕組み化できたとしても、これらの要素がなければ魂のないゴム人形のようなものだと思っています。

まとめ

下請けとして大量の案件を継続的にこなせるようになれば自然と組織化されます。組織化が進めば今度は社内の課題が徐々に顕在化され、終わりのない「問題点の洗い出しと改修」のトライアル・アンド・エラーを繰り返すことで組織がより盤石となります。そうやって組織化された集団に「経営理念」という魂を注ぎ込むことで、集団としてのアイデンティティーが生まれます。このようなプロセスを経て組織構造の原型なるものが初めて出来上がるのだと、10年以上かかって得たひとつの結論です。大手企業で正社員を経験したことのないまま独立したフリーランスが組織化するに当たってのケーススタディーとして皆さんの参考になれば幸いです。

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