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<セミナーレポート>共主体の場 ASOBIOの実践紹介

5/25(水)に開催したオンラインセミナーのレポートをお届けします!

昨年2月に続き、2度目となるASOBIOセミナー。
今回も玉川大学の大豆生田啓友先生をお迎えし、あだちみどり幼稚園(埼玉県)・このはな保育園(静岡県)・吉田南幼稚園(鹿児島県)の先生方にASOBIOにおける「自然との共主体の保育」の実践についてご紹介いただきました。

今回のセミナーでは、まず子どもの遊び・学びの様子を丁寧にとらえ、そこから保育環境を整えていく「子どもの姿ベースの保育」の重要性が大きなテーマとなりました。
登壇された園さんは、いずれもドキュメンテーションに取り組まれています。現場の先生方からは「子どもの姿の可視化」と「保育のサイクル」にまつわるさまざまな保育エピソードをたくさんお話いただきました。自然のなかで生まれる子どもたちの主体的な遊びや学びが、ドキュメンテーションを介したさまざまな対話によって、より豊かなものになっていることがよくわかりました。

参加者の皆さんの学びのまとめでも
ただ環境を整えて終わってしまうのではなく、継続していく。また、その環境をうまく保育に活かしていく。子どもの姿を、映像や言葉で伝える取り組みは、これからですが、少しずつ実践していきたいと思います。
・保育者は子どもたちの声に耳を傾け、子どもたちと一緒に自然や生き物との関わり方を考えていくことが大切であると感じました。また、今の時代に合わせた保護者への発信の仕方を考えていくことで、保護者や地域の方も保育に関心を持ってもらえるのだと思いました。
事例発表してくださった先生方のイキイキとした姿がとても印象的でした。 自然を身近に感じながら、子どもたちと職員が一緒にワクワクを見つける、ワクワクを喜ぶ、ワクワクが広がる、きっと楽しい毎日になるだろうな、と感じました。
などのご感想をいただきました。

園に自然環境を作ることは「スタートライン」。重要なのは子ども・先生・保護者・地域の人々がワクワクを共有し、環境をより豊かなものへと育てていくプロセスです。

パネルディスカッションや参加者からの質問コーナーも、大いに盛り上がりました。当日の様子はぜひ、こちらから動画をご覧ください!

当日の各登壇者の資料は、こちら↓からご覧いただけます。

【ASOBIO紹介*鹿児島県 吉田南幼稚園 田中先生】(7分30秒〜)

鹿児島市の山に囲まれた自然豊かな場所にある吉田南幼稚園。自然いっぱいの園庭では、日々子どもたちがたくさんの生き物と触れ合っているそうです。

吉田南幼稚園のASOBIOは、こちら↓

実は吉田南幼稚園さんの園庭は、以前はいわゆる真っ平な運動場でした。園長の橋口先生が家に生えているシロツメクサを園庭の一角に植えるところから始まり、10年以上をかけて少しずついろんな自然を取り入れて、今の環境まで育ってきたそうです。

田中先生は「園庭に自然が増えるにつれて子どもたちと命の関わりが増え、遊びが広がっている」と語ります。しかし、必ずしも広大な自然が必要かというとそうではなく、少しの工夫で命と触れ合う場を作ることができると感じているそうです。
例えば、幼稚園の入り口にある睡蓮鉢。子どもたちは毎朝、睡蓮鉢の横を通るたびにメダカに挨拶をしたり、この鉢を眺めて心を落ち着かせたりしているそうです。

また吉田南幼稚園では、保育室の目の前にコンテナファームを設置して野菜を育てています。園外の畑で野菜を育てていたときに比べて、子どもたちの関心が増しているそうです。「2歳の子がきゅうりの葉っぱとピーマンの葉っぱの違いに気づき、『なんで違うんだろう』と疑問を持っている姿を目にして感激しました」と田中先生。
命の扱い方について考えたり、図鑑で調べたり、飼育してみたり。日々、いろいろな命と触れ合うなかで、子どもたち同士で考えたり、会話したりする機会も増えているそうです。「子どもたちはもちろん、保育者も好奇心を持って自然に触れるようになり、たくさんのことを学んでいる」と語ってくれました。

【ASOBIO紹介*静岡県 このはな保育園 吉田先生・宮川先生】(16分05秒〜)

この花保育園さんは、富士山の麓、静岡県駿東郡長泉町にあります。周囲には自然が溢れていますが、以前の園庭は平坦な運動場でした。そこから少しずつ自然を増やし、園の隣の畑を果樹園というかたちにして、子どもたちが自由に行き来できるようにしたそうです。

このはな保育園のASOBIOは、こちら↓です。

担任の吉田先生も、自然の中でいろいろな体験を重ねるなかで、子ども同士の対話が増え、語彙が増えたり、いろいろなことに挑戦してみようという気持ちも高まっていることを実感しているそうです。
「子どもたちの間でだんご虫がブームになっている時に、虫眼鏡を渡してみたのですが、だんだん上手に使えるようになり、さらには絵本を読んでだんご虫についてお友達とお話をしたり、お部屋でだんご虫を飼うなどの活動につながっています。先日、脱皮しているのを発見し、そこからもいろんな対話が生まれていました。」と吉田先生。日常の生活を遊びや学びに変える工夫、五感で自然を感じながら、子どもたちを一緒に遊びや学びを広げていことを大切にしているそうです。

【ASOBIO紹介*埼玉県 あだちみどり幼稚園 高橋先生】(26分25秒〜)

埼玉県志木市のあだちみどり幼稚園さんの園庭には、一角にさまざまな木々や草花が生えている自然スペースがあります。裏山や小川もあり、朝の外遊びなどの時間に、自由に自然探索をしているそうです。
高橋先生は、手の届くところに自然がたくさんあることで、遊びが広がるきっかけが増えていると感じているそうです。

あだちみどり幼稚園さんのASOBIOはこちら↓。

あだちみどり幼稚園では、電子顕微鏡や虫かご、虫眼鏡などを用意して、子どもたちが好きな道具を自由に使える環境を整備。捕まえた虫をクラスで飼育したり、野菜を栽培して食育につなげたり、自然観察を制作活動につなげるなど、命について考えたりするきっかけを積極的に作っているそうです。

大きな蟻塚があったときには、先生が看板を作って子どもたちの興味を引く工夫をする、落ち葉の山をあえて掃除せずに新しい遊びにつなげるなど、きめ細やかな環境づくりをされています。

【パネルディスカッション(31分00秒〜)】

続いて、あだちみどり幼稚園 理事長 大熊先生、このはな保育園 園長 伊藤先生、吉田南幼稚園 園長 橋口先生を含めたパネルディスカッションです。

・最初は真っ平だった運動場からどうやってASOBIOづくりがスタートしたのか
・園に自然が増えることで先生たちの姿がどう変わっていったのか
・自然の中での子どもたちの主体的な遊びを保護者にどのように伝えているのか
・ドキュメンテーションなどで園の様子を伝えることで保護者がどう変化したのか

など、興味深いお話をたくさん聞くことができました。
大豆生田先生への質問コーナーでは、吉田南幼稚園の田中先生から「例えば子どもが園庭でダンゴムシを見つけたときに、どう保育につなげたらよいかがわからない先生もいる。先生方にどんなアドバイスをしたらよいか」という質問がありました。

質問に対し、「子どもは小さいから何をしていいかがわからない、保育については先生がアイデアを出さなくてはいけないと思いがちですが、意外と子ども達の方がいいアイデアを持っていることもある。まずは子どもに聞いてみてはいかがでしょうか。そこからスッと面白いことが出てくる可能性もあるんですよね」と語る大豆生田先生。
子どもに聞く、他の先生に聞く。そんな対話を大事にすることで、保育のアイデアが生まれてくる、とアドバイスをしてくださいました。

【ASBIOの創り方 スマートエデュケーション 池谷 】(50分05秒〜)

続いて「ASOBIOの創り方」をテーマに、スマートエデュケーション池谷からお話をさせていただきました。
「ここまでの3園さんの話を聞くと、『どうやって園の中に自然環境を作ろうか』というところばかりに注目が行きがちですが、それだけを考えていても保育を変えることはできません」と池谷。重要なことは、子どもの遊びを見て、子どもの声を聞き、そこから新たな環境を整えていくという「子ども中心の保育のサイクル」を作ることだと語ります。

では、どうしたら子どもたちが毎日遊ぶ園の身近な環境で命と出会い、触れ合うことができるのでしょうか。工夫次第では、プランター一つからASOBIOを作ることが可能です。こちらは日本生態系協会さんが発表している生態系を育む園づくりのポイントです。

ASOBIOは「遊び」と「ビオトープ」を組み合わせた造語です。「ビオトープ」というと、「水場」をイメージする方も多いかもしれませんが、本来は「地域の野生の生き物が生息する空間」を意味します。ですから、水場だけでなく草地や砂浜も地域の生き物が生活している空間であれば、それは「ビオトープ」です。
小さなスペースであっても、園児と自然の生き物が出会う工夫さえすれば、ASOBIOの環境を作ることは可能です。

人間以外にもいろいろな命があることを知ることは、子ども達の好奇心と探究心の芽生えにつながり、遊びや学びが広がります。プランター一つからでも始められるので、ぜひ小さなところから挑戦してほしい、と池谷は語ります。

もう一点、ASOBIOで素晴らしい保育を実現されている3園の共通点を語りました。それは時代にあったスマートな手段で情報共有をしているという点です。3園さんはいずれも、スマートフォンやタブレットを使ってドキュメンテーションを作成するなどICTを積極的に活用されています

このはな保育園さんは、以前はパソコンでドキュメンテーションやお便りを作成されていたそうですが、昨年からはスマホで作成するようになり、業務負担は1/3程になったとのこと。園内もWiFiが整備されており、好きな時に好きな場所で事務作業ができるようになっています。もちろん、仕事にかける時間が短縮されたからといって質が下がっているということはなく、むしろ写真や動画をたくさん配信できるようになり、保護者の満足度も上がっているそうです。

池谷は「子どもたちは自然の中で、アナログな遊びに没頭する。でもその子どもたちの環境を支える裏側にはICTを上手に取り入れている。そこが子ども中心の保育のサイクルを実現するポイントだ」と締めくくりました。

【ASOBIOを 子どもの姿ベースのサイクルで 玉川大学 大豆生田先生】(1時間5分30秒〜】

続いて、大豆生田先生にこれまでの3園さんの取り組みを聞いて感じたことをお話しいただきました。

大豆生田先生は、「小さなところから変えていこうとする先生方の思いやその歴史に感銘を受け、園庭の形そのものよりも、進化し続けるそのプロセスが何よりも大切だということを改めて実感した」と語ります。
プランターが1つ入るだけで、子どものいろいろな姿が見られるようになるのは、そんな小さな自然の中にも生態系があるから。多様な自然と触れることで子どもの姿が変わる。子どもの声を拾うことで、子ども主体の保育を、先生たち主体で始めようという循環が生まれるーーこれこそがまさに子どもの姿ベースの保育だという大豆生田先生。


子どもがワクワクしている姿に、保育者や職員もワクワクする。それが保育の質を向上させる最も重要なポイントです。子どもや先生のワクワクをドキュメンテーションなどを活用してしっかりと伝えることが、保護者や地域の園への関心を高めることにつながる。そうやって園内・園外で協力者を見出し、地域を巻き込んで園のファンを増やしていく、ファンコミュニティの形成が非常に重要になっていく、と語ってくれました。

【質問コーナー】 (1時間20分15秒〜)

質問コーナーの冒頭では、このはな保育園でのASOBIOにおける乳児の遊びについてご紹介いただきました。

見慣れない草花に最初は手を触れらない子もいるそうですが、大人が差し出したものを触る、自分で見て興味のあるものに触れてみる、そんなところから少しずつ遊びを始めているそうです。ままごとをするお兄さん・お姉さんの真似をする、年長さんが育てるメダカを眺めて親しみを感じるなど、自然を介した異年齢交流も見られたりしているそうです。

最後に、質問コーナーの一部をご紹介します。

Q:摘んで遊んだ草花は、その後どのようにしていますか。
・ウサギの餌にしたりしています(吉田南)
・子ども自身がチラシとテープを使って袋を作り、遊んだ草花を持ち帰ったりしています(あだちみどり)

Q:自然に興味がない子どもを自然の方へ促すようなことを何かしていますか。
・自然で遊ぶことに興味を示さない子を無理して遊ばせたりはしません。一緒に自然の中で遊ぶ時間も作りますが、違うことを始めてしまっても、それはそれでよいかなと思っています。他の子が自然の中でいろいろな発見をして喜んでいると、興味のなかった子がいつの間にかその輪に入っていることもあります。子ども同士の関わりの中で、自然と興味を高められるように見守り、声がけをしています(あだちみどり)
・当園では、サークルタイムに子どもたちに今日何をして遊んだかを話してもらっています。他のお友達が自然の中で面白い遊びをしているのを知って、興味を示すこともあります。他の子に誘導されて、遊びが変わっていく姿もよく目にします(吉田南)

Q:園庭の雑草はどうしていますか。
・雑草にも水をあげちゃいます(あだちみどり)
・雑草にはいろいろな生き物がくるので、あえて触らずそのままにする保護区を設けています。雑草をきれいに刈るエリアと、保護区を分けています(このはな)
・虫が来たり、子どもたちが楽しく遊んだりしているのを見ると、雑草が雑草に見えなくなってきて、大切な環境だと感じてしまいます。なので私も水をあげています。(吉田南)

Q:ドキュメンテーションを作るために写真撮影されていると思いますが、写真を撮ることによって保育がおろそかになってしまうと感じることはありますか。
・ドキュメンテーションを始めるにあたっては、写真撮影をどうするかが課題となりました。先生も子どもと一緒に遊びに入り込むとなかなか写真を撮ることができないので、保育に入ってない先生に撮影してもらい、LINEなどで共有してもらっています。保育中に自分が撮影することもありますが、子どもへの声がけは忘れないように意識しています(あだちみどり)
・自然で遊ぶことが増えてから、子どもたちが保育士に頼ることなく自分たちで遊ぶことが増えました。子どもが遊びに没頭している時に、撮らせてもらうことが多いです。カメラを向けながらも子どもと対話することは忘れないようにしています。子どもとの会話はあくまで自然体。そこにカメラがちょっとありますよ、というかたちですが、先生たちもそのスタイルにようやく慣れてたかなというところです(吉田南)

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今回ご登壇いただいた3園さんは、素晴らしい自然環境を園内に整備されていますが、それよりも、先生方が子どもの声に丁寧に耳を傾け、子どもの姿をしっかりと見て、対話を通して子どもの遊びや学びを広げたり深めたりすることに心をくだかれていることが、とても印象的でした。

大人が立てた「計画」に対して子どもがどうだったかという視点ではなく、「子どもの姿」をベースとして保育を組み立て、大人と子どもがワクワクしながら一緒に育っていく。そんな素敵なお話をたくさん聞くことができ、とても充実した時間となりました。


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