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<セミナーレポート>自然との共主体を考える 〜園庭に共主体の場、ASOBIOを創ろう〜

2/18(金)に開催したオンラインセミナーのレポートをお届けします!

ASOBIOプロジェクトの第一歩となる今回のセミナー。ASOBIOの監修をしてくださっている玉川大学の大豆生田啓友先生、公益財団法人日本生態系協会様、そしてASOBIO実践園の先生にもご登壇いただき、「自然との共主体の保育」をどのように実践していけばよいのか、について考えました。

次回のASOBIOセミナー、「自然との共主体を考える~共主体の場ASOBIOの実践紹介~」5月25日(水)16:00〜です。お申し込みはこちら!


今回のセミナー動画はこちらからご覧いただけます。


【「共主体」を考える 園に必要な場 ASOBIOの重要性 玉川大学 大豆生田啓友先生】(8分40秒〜)

●まずは「主体性」という言葉をとらえ直すことから

「共主体」について考える前に、まず「主体性」という言葉についてとらえ直してみよう、というところからお話はスタートしました。「積極性・能動性」と同意語のように使われることの多い「主体性」という言葉。しかし、その原点は「私が私であること」にあり、「育てるもの」というよりは「尊重するもの、尊重されるもの」であるべきではないか、と大豆生田先生は問いかけます。

近年、「子ども主体の保育」が大きなテーマとなっていますが、これは「子どもの主体性」のみを尊重すれば実現できるのでしょうか。今、OECD諸国を中心に「co-agency = 他者と協働して発揮される主体性」という概念が広がっています。子どもだけではなく、保育者・保護者・地域の大人たちが主体的に関わり、それぞれが自分らしさを発揮することで、協働的な学びが生成され、豊かな体験が生まれます。
さらに持続可能な社会を目指すうえでは、人間だけではなく「自然の主体性」まで含めて考えることが重要になってくる、と大豆生田先生は語ります。

●日本の保育と園庭

もともと日本の幼児教育・保育では、外遊びの保育や園庭・自然を生かした保育を重視してきました。しかし、戦後は全員が一斉に同じ活動をするという教育スタイルが普及。多くの園庭が運動場化していきました。

ところが今、園庭を見直していこうという動きがいろいろなところで起き始めています。大豆生田先生は、まだ研究が十分ではないものの、園庭を見ていくと大きく分けて4つの類型が見えてくると語ります。

そして今回特に注目したいのが、「②自然との関わりを持つ場としての機能」です。

この写真の園は、最初はグラウンド型の園庭でした。その片隅に小さな雑草の場を作ったところ、子どもたちの遊びが明らかに変わっていったそうです。そして少しずつ環境を整えていった結果、ここまで豊かな園庭に育ちました。

雑草があればいろいろな生き物が集まり、新しい命が生まれて生態系が起こります。主体的な命に触れることで子どもたちの知的な興味関心は豊かになり、さまざまな遊びや学びが生まれます。「科学する心は驚心から」。自然に触れて心動かす体験、いわゆる「センス・オブ・ワンダー」を幼少期に感じることが非常に重要だと、改めて強調されました。

●環境のための教育の視点を!

もうひとつ重要な点が「環境による教育」に「環境のための教育」の視点を入れるということです。

環境による教育(子どもが主体的に対象と関わることができるような環境をつくること)が、幼児教育では非常に大切だといわれています。しかし、残念ながらこれまではそこに「環境のための教育」という視点はあまり含まれていませんでした。生態系に親しみ、自然の主体性を大切にする保育は、今後ますます重視されるであろう「ESD=持続可能な開発のための教育」の実現にもつながっていく、と大豆生田先生は語ります。

「子どものため」の環境は実は「社会のため」でもある。
そんな観点からもこのASOBIOプロジェクトに賛同している、と大豆生田先生。そしてこのASOBIOプロジェクトに日本生態系協会が参加しているということにも大きな意義があるとお話してくださいました。

●子どもがワクワク、先生がワクワク、保護者もワクワク!

さて、ここからは園での様々なエピソードについてご紹介いただきました。

  • 園庭の片隅に小さな草むらを作ったことをきっかけに、先生や用務員さん、保護者までが遊びに参加。子どもを真ん中に、多くの人がつながった。

  • カブトムシのお家をつくったことで、命の循環を経験することができた。

  • 草花に積極的に触れることを大切にしつつも、自然保護区を作るプロジェクトも発生。この場所の自然は触れない、この場所で生まれた命はそっと戻す。大人の意識によって、子どもが命に丁寧に触れることを学ぶことができた。

  • 園内に生き物が増えることで、子どもの描きたい!伝えたい!調べたい!という気持ちが育ち始め、魅力的な表現や言葉、知的好奇心がどんどん生まれてきた。

  • 先生がドキュメンテーションを作り始めた。保護者に伝えるためではなく、先生自身がワクワクするため、子どもの学びのプロセスを記録するために楽しみながら作成している。

●ASOBIOの重要性

園庭のなかにプランターひとつ、またはちょっとした雑草園があることで、子ども・保育者・保護者の主体性、共同性が生まれ、子どもの好奇心、探究心、科学する心が育まれる。命の主体性に親しみをもつことは子どもの育ちにとって非常に大切なことであり、同時に環境のための教育の場も生まれる。持続可能な社会をつくっていく場として、保育環境の果たす役割は、今後ますます重要になるーー大豆生田先生は、最後にASOBIOの重要性についてこう語り、話を締めくくられました。

【生き物と出会う空間のつくり方 公益財団法人日本生態系協会(46分30秒〜)】

●ビオトープってなに?


日本生態系協会は、人と自然が共存できる、持続可能な国作り・まち作りを推進する組織です。国に対する政策提案や自然環境保全のためのさまざまな調査研究、普及啓発活動などを行っています。そして普及啓発活動のひとつとして、環境教育の推進にも大変力を入れられています。

環境教育のお手本にしているのがドイツの取り組みです。ドイツでは1970年代から「学校ビオトープ」に盛んに取り組んでいます。
ビオトープというと水辺を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、ドイツ語では”BIO”(生き物)+”TOP"(場所)=地域の野生の生き物が暮らす場所を意味しており、樹木・草地・池・砂浜など野生の生き物が自立して生活する場所をすべてビオトープと呼びます。

日本生態系協会は、ビオトープ普及活動として1999年から「全国学校・園庭ビオトープコンクール」を開催しています。コンクールでは、毎年、園の中で地域の生態系を育み子どもたちの創造性や表現力の発達を促す取り組みが多く寄せられています。
さまざまな事例を見るなかで「子どもたちの豊かな感性を育むための環境づくりとして、園庭におけるビオトープの必要性を強く感じている」と日本生態系協会の田邊氏。自然の専門組織として、地域の自然の生態系を育む園づくりの支援を始めているそうです。ご興味のある方はぜひ協会のホームページをご覧ください、とお話されました。

●生態系を育む園づくりのポイント

次に登壇された日本生態系協会の登澤さんの前職はなんと保育士。ご自身の経験も絡めながら、生態系を育む園づくりのポイントについてお話してくださいました。

保育士時代には、園庭に自然を取り込むことが子どもたちの発達に重要な効果をもたらすと考え、ビオトープ作りに取り組んでいたという登澤氏。花や木を闇雲に植えるのではなく、園が建つ前にはどのような風景だったのか。地域の自然を再現したいという思いを持ってスタートされたそうです。ビオトープをきっかけに子どもたちの遊びが大きく広がっていた、その経験が今の活動につながっています。

さて、日本生態系協会が推奨する生態系を育む園づくりのポイントがこちらです。

以下、各ステップのポイントです。
Step1:園庭の花壇の縁にあるレンガや石。そこをめくるとダンゴムシやカメムシと出会うことができます。難しく考える必要はありません。工夫をすれば、身近な環境でもいろいろな生き物と出会うことができます

Step2:地域にある草花を園庭に植える。園庭のない園は、お散歩に行った先で見つけた草花を小さなプランターで育てる。こういった活動も生態系を育む園づくりの一つです。

Step3:ある園では、表を作って園の中で見られる生き物の多様性をモニタリングし、維持管理をしています。こういった表を作ることで、毎年の変化を見たり、さまざまな生きものの名前を知ったりすることができます。

ハード面を整えるだけではなく、ソフト面、つまり子どもたちの遊びを充実させることも重要です。自然との触れ合いをきっかけに、子どもたちの自発的な遊びが生まれる。その姿にヒントを得て保育者がさらに環境を整えていく。自然との触れ合いから、造形遊びや劇遊びへとつながっていく事例もたくさんあるようです。
まずは「保育者が感動することが一番大切」だと登澤氏は語ります。

ある程度自然環境が整うと、この先はどう展開したらよいのだろう、と困ることもあるようです。そんな時は、保護者や地域の専門家の力を借りて活動を発展させていくことも一つのポイントとなります。

なんでも大人が先回りしてお膳立てするのではなく、子どもたちの気づきをくみとりながら環境を整えていくことが重要だ、と語る登澤氏。地域の自然がより豊かになり、保育活動がさらに充実したものになるようサポートしていきたい、と締めくくってくださいました。

【ASOBIO実践へのアドバイス 株式会社スマートエデュケーション 池谷 (1時間11分10秒〜)】

●ドキュメンテーションのすすめ

ここまで、子どもたちの身近に自然環境があることの重要性をお話し頂きましたが、ビオトープを作ればOKか、というとそうではありません。

ASOBIOをより充実した遊び・学びにつなげていくためには、PDCAサイクル(計画・実行・評価・改善サイクル)を回していくことが不可欠です。
環境設定をしたら、子どもたちの遊びを観察し、子どもたちの声を聞いて、ドキュメンテーションにまとめる。そのドキュメンテーションを先生同士または保護者と共有することで新たな気づきや学びを得て、さらに環境を充実させていく。こういった循環がない限り、遊びや学びの環境を継続的に発展させていくことはできないのではないか、と池谷は語ります。

最近ではドキュメンテーションに取り組む園も増えていますが、先生の業務負担が増えるのではないか、どうやって作ったらいいかわからない、などの懸念から一歩を踏み出すことができずにいるケースも多いようです。

スマートエデュケーションは、スマートフォンで手軽にドキュメンテーションを作成・共有できる「おうちえん」というサービスを提供しています。ここで少し「おうちえん」のご紹介をさせていただきました。

子どもたちの活動はアナログで。一方、先生方の業務をデジタルを活用して効率化することで、先生にとって一番大切な『子どもたちと向き合う』時間をさらに充実させることができる。さらに写真・動画で子どもの様子が見えるようになることで保護者の園への理解が増し、保育がより充実したものになる」と池谷は強調します。

今、紙でドキュメンテーションを作成している園さんも「おうちえん」を使えば、スマートフォンで手軽に保護者に共有することが可能です。ICTをうまく活用して、子どもを真ん中にみんなが子ども理解を深め、保育のサイクルをうまく回してほしい、と池谷は語りました。

●ASOBIOアンバサダーのご紹介

さてASOBIOのホームページでは、ASOBIOのある園の事例を紹介しています。ここまでのお話を聞いてASOBIOを作ってみたい、ドキュメンテーションに挑戦してみたい、でもどこから始めたらよいかわからない、というみなさんを全国各地の「ASOBIOアンバサダー」がサポートします。


ご興味のある方は、ぜひこちらからASOBIOのホームページをご覧ください。

続いてASOBIOのある園さんにご登壇いただき、実際の事例をお話していただきました。

【事例紹介 埼玉県志木市 あだちみどり幼稚園 (1時間18分25秒〜 】


プレゼンテーション資料はこちら↓からご覧いただけます。

最初に理事長の大熊先生から、あだちみどり幼稚園の園庭について紹介がありました。
あだちみどり幼稚園の敷地面積は3000平米程度。ベッドタウンの中にある幼稚園。以前はいわゆるグラウンド型の園庭でしたが、5年前に園庭の一部を自然のあふれるエリアに変えました。

園庭に自然を取り入れた理由について、大熊先生は「思わず遊びたくなる、自分だけの好きな場所が見つかる、遊びに没頭できる、園庭をそんな場所にしたい、そして自分自身もワクワクしたいという思いから」と語ります。
ちなみに、園庭にはグラウンドのスペースも広く残っています。「平らな部分や遊具もほしい、目が行き届くようにしたい」という現場の先生の意見も取り入れた結果、今のような園庭の形になったそうです。

では、自然豊かな園庭にすることで、どのような変化があったのでしょうか。年長担任の星野先生がお話してくださいました。

「草花で色水遊びをしたり、季節の自然を使った制作ができるようになったりと遊びや保育の幅が本当にぐんと広がりました」と星野先生。
子どもたちが自然や季節の移り変わりに興味を持ち、「これは何だろう」、「もっと知りたい」という声がたくさん出るようになったそうです。
「思いもよらない方に遊びが進んでいったり、新たな発見もたくさんあったり、私自身も保育がより楽しくなりました」と星野先生は語ります。他のクラスとの関わりが増えたり、命について考えるきっかけが増えたことも、とてもよい変化だと感じているとそうです。

あだちみどり幼稚園では、そんな子どもたちの日々の様子を「おうちえん」を活用して保護者に発信しています。

実際のクラスだよりはこちら↓からご覧いただけます。


子どもたちが今どんなことに興味があり、どのように遊びや保育が広がっているのか。写真で記録することで、保護者だけではなく他の先生にも保育のリアルな様子が伝わりやすくなり、対話も増えて、いいことづくしだと感じているそうです。

理事長の大熊先生は、ドキュメンテーションに写真や動画が掲載されていることで、保護者も同じ光景をみながら会話ができるようになったことが、とても嬉しい。この記録を園の財産として蓄積していきたい、と語ってくれました。

「今後は、1年、2年という長いスパンで自然の移ろいを感じられるような取り組みをしていきたい」と大熊先生。現場の先生からも「つくしが生えるような園庭にしたい」、「地域の草花が自生する園庭にしたい」などの希望が出てくるようになったということで、近隣の農家や日本生態系協会などの専門家の力を借りながら、子どもと先生が保育をもっと楽しめる環境を作っていきたい、と締めくくってくださいました。

【質疑応答 (1時間34分50秒〜)】


Q:虫が苦手という保育者・保護者の主体性をどのように尊重して保育を実践すればよいでしょうか。

A:虫が嫌いな人に虫好きになってもらうことは簡単ではありません。苦手な人が「苦手だ」と言えることも大事なことなので、その気持ちは尊重しつつも、園が自然を大切にしているんだということを伝え、少しずつ巻き込んでいくのがよいのではないでしょうか。
子どもや周りの大人たちが心から楽しんでいる様子を見ると、その気持ちに影響されていくと思います。そういう仕組みづくりをしていくことが大切だと思います(大豆生田先生)

Q:蜂やムカデなどの危険な生物と出会った時は、どうすればよいですか。

A:園の中で出会う危険な生き物は、蜂や毛虫の仲間など多くて10種類程度です。わからないと「怖い」と思うかもしれませんが、何が危険な生き物かがわかってくるとちゃんと見分けることができるようになります。そこはぜひ覚えていただきたいと思います。危険性があるからビオトープを作らない、のではなく、まずはやってみて課題が生まれたら子どもたちも一緒に対応方法を学んでいく。危険の度合いによって対処方法も変えていく。という姿勢が大切ではないかと思います(日本生態系協会 田邊氏)

Q:地域の方をどうやって保育に巻き込んでいけばよいのでしょうか。

A:園が自然環境を大切にしているということ、そしてこれが未来の社会にとって必要なことなんだということをドキュメンテーションにまとめるなどして、保護者や地域に発信することが大切ではないかと思います。園に来ていただいて、取り組みを実際に見て感じてもらうことも、地域の方に関わっていただく大きなきっかけになるのではないでしょうか。(野中こども園 中村先生)

Q:園庭で運動会をしているので、植物を植えるなど自然環境を作ることができません。どうしたらよいでしょうか。

A:私の園も園庭で運動会をしていたので最初は悩みましたが、園庭の隅に草花を植えるところから始めました。トップが意識を変えなくてはいけないと思いますが、現場の先生には「行事のための園庭ではなく、命と出会う場、そういう園庭にしよう」と伝え、よりよい園庭作りを進めています。ビオトープには、必ずしも広いスペースが必要なわけではないので、コーナーから組み立てることもできると思います(吉田南幼稚園 橋口先生)
園庭がないビル型の園さんも、お散歩にいけば地域の自然と触れ合うことができます。これも立派な環境のための教育になるのではないでしょうか(スマートエデュケーション 池谷)

Q:ASOBIO実践園さんは地域の自然を手本にする場合、在来種・外来種には特にこだわりはないのでしょうか。

A:在来種・外来種については知識の問題が非常に大きいと思います。今、まさに勉強中で、今後は日本生態系協会さんのアドバイスもいただきつつ、PDCAサイクルを回しながら、考えていきたいと思っています(このはな保育園 伊藤先生)

【最後に】


ASOBIOのホームページでは、ASOBIOのある園の園庭環境や保育についてドキュメンテーションを使ってご紹介しています。ポイントは、現場の先生が作成した保育ドキュメンテーションをそのまま公開しているということです。
全国の園さんの取り組みを共有し、ともに学び合い、ともに考えながらASOBIOのネットワークをさらに発展させていきたいと考えています。

これからASOBIOに挑戦したい!という先生方、ビオトープを活用した自園の保育をぜひ紹介したい!という先生方、ぜひホームページからお問い合わせください。

次回のASOBIOセミナー、「自然との共主体を考える~共主体の場ASOBIOの実践紹介~」5月25日(水)16:00〜です。お申し込みはこちら!


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