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【セミナーレポート】子どもの学び、どう変わる?小学校の今と未来

7/31(土)に開催したオンラインセミナーのレポートをお届けします!

今回は学校教育の先進的なICT活用事例をご紹介いただきながら、有識者とともに幼児教育のあるべき姿について考えました。刺激的で参考になるお話ばかりです。ぜひセミナー動画をご覧ください!!

※こちらからセミナー動画をご覧いただけます。

【北海道安平町教育委員会】 公立学校がつくる未来〜共創の教育、ICTの活用〜 (4分00秒〜) 

最初に北海道安平町の取り組みについて、はやきた子ども園学園長 井内先生、安平町教育員会教育指導参事 網代先生にお話をいただきました。

北海道安平町は新千歳空港のすぐ隣にある人口7500人の町で、競走馬の産地として有名です。2018年9月の胆振東部地震では町の8割以上の建物が損壊。とくに被害の大きかった早来中学校ではいまだに仮設校舎での授業が続いています。

安平町は、この早来中学校を新たな小中一貫校として再建することを決めました。この学校再建を復興のシンボルとし、まちづくりと連携させた新たなプロジェクトをスタートさせたのです。

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教育委員会は保護者や地域住民も参加するワークショップを何度も実施し、みんなで意見を出し合いながら、新しい学校のあるべき姿を導き出しました。それが「学校=自分と世界が出会う場所」というコンセプトです。子どものみが学ぶ場所ではなく、地域の人も含めていろいろな出会いがつながり、みんなが一生学び、一生育つ場所を作りたい、そんな願いがこめられています。

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新しい学校づくりには、最新のテクノロジーを活用したアート作品などで有名なチームラボをはじめ、さまざまなプロフェッショナル集団が参画しています。

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「ICTありき」でデザインされる新しい学校。教員も生徒も1人1台の端末を所有し、アナログとデジタルが融合した学習環境が用意されます。黒板はなく、使用するのはホワイトボードとプロジェクター。教室も一般的な学校の2倍の広さがあり、レイアウト変更も自由自在です。子どもが主役となり、多様な他者とともに主体的な学びを実現する空間づくりを目指しています。さらに、校舎には住民が利用できる図書館が併設され、地域の交流の場としても利用されます。顔認証などのデジタルテクノロジーを使ってセキュリティも担保。地域住民とともに学び、ともに新しい価値を創造していく場を作っていく計画だそうです。

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井内先生は教育におけるICTの意義について、次のように語りました。

ICTは空間のあり方を変えます。教室のあり方が変われば、人の行動や学びに向かう行動も変わります。主体的・対話的で深い学びが求められている今、新しい学校ではICTを学びの道具としてだけではなく、空間や行動を変えるものとして活用していきたいと考えています」

井内先生は、幼児教育現場でのICT活用についてもお話してくれました。井内先生が学園長を務めるはやきたこども園では、完全ペーパレスを実現しています。全館にWiFiが通っており、先生は好きなところで仕事できます。自然いっぱいの環境で、保育はアナログですが先生の業務は完全にデジタル化されています。「大人がデジタルを活用して働く姿を子どもたちに見せることが何よりも大切」だと語る井内先生。その姿を見ることで、子どもたちはICTがただの遊び道具ではなく、仕事や学びのための道具だと認識していくのです。幼児教育においては、学校教育につながるICTの使い方を考えることが大切だとお話してくれました。

今後も大注目の安平町の挑戦!安平町の新しい学校づくりについては、ぜひこちらもご参照ください。

【埼玉県さいたま市 さとえ学園小学校】 1人1台どたばた物語〜日本のICT力向上をめざす取り組み〜 (23分50秒〜) 

山中昭岳先生がカリキュラムマネージャーを務めるさとえ学園小学校では、2018年に1人1台端末プロジェクトをスタートさせました。2018年当時の日本のICT活用は、下図のとおりです。ゲームやチャットがメインで、学習にICTを活用する環境はほとんど整っていませんでした。

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そんな逆境のなかでICTプロジェクトをスタートさせたさとえ学園小学校。子どもたちとともに「iPadは賢くなるための道具」というスローガンを考え、ルールづくりもしましたが、なんとあっという間に教室がゲームセンター化してしまったそうです。

そこで「レベルアップ型ルール」を新たに設け、子どもたちのスキルとモラルのレベルによって端末を自由に活用できる範囲を決めることにしました。レベルアップ型ルールの導入、そして保護者への連絡や学校生活の記録、授業内での活用法について、一層の工夫を重ねたことで、状況は見事に落ち着いたそうです。

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そして今、さとえ学園小学校は新たなことに挑戦しています。「ICT端末を文房具のように活用しよう」とはよく言われますが、本来、文房具は個人が所有・管理するものです。一方で、学校で使うICT端末は1人1台環境にもかかわらず、学校が管理すべきものという意識が強くあります。さとえ学園小学校はその意識を変える活動を進めています。

「iPadはかしこくなるための道具」というテーマのもと、端末の設定や端末利用のルールづくり、また素敵な活用方法などについて保護者と子どもが主体となって取り組める環境を目指しています。先述の「レベルアップ型ルール」の活用レベルも家庭で判断できる仕組みを整えています。

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さとえ学園小学校ではさらなる挑戦として、「通知表をなくす」、「宿題をなくす」ことを目指しています。山中先生は「ICTを活用すれば通知表よりも良い振り返りができる、ICTを使えば全員に一律で出す宿題よりも、より主体的な学びが実現できる」そんなお話をしてくださいました。

子どもたちがどのようにして、自分たちの学びを記録し、必要な課題を見つけ、取り組んでいるのか。動画の43分14秒からその具体的な方法について紹介されています。非常に示唆に富む取り組みなので、ぜひご覧頂きたいです。

さとえ学園小学校は、決してICT重視の学校ではありません。むしろ田んぼづくりや自然との触れ合い、お友達同士のコミュニケーションなどアナログの場づくりに力を入れており、ひとり1台のiPadと共にひとりに1台のバケツも用意されている学校です。ICT活用で目指しているのは、既存の学びの「代替」ではなく「再定義」。AIやビッグデータなども使って、より主体的に学べる環境、より深く多様な学びを実現しようとしています。

さとえ学園小学校の取り組みについてより詳しく知りたい方は、ぜひこちらの書籍をお読みください!

パネルディスカッション・質疑応答 (51分30秒〜) 

最後に、参加者からいただいた質問に対して登壇者全員でのパネルディスカッションを行いました。ここでは抜粋・要約してご紹介します(発言者の敬称略)

(安平町: 網代)山中先生に質問です。ICT端末の管理を家庭に移行する際に、何か支障はありましたか?

(さとえ学園:山中)家庭のICT環境はさまざまなので、WiFi環境のない家庭には必要な機器を貸し出すなどしました。また月に1回以上、オンラインで保護者向けのICT研修を実施しています。サポートセンターも開設し、Q&Aは全て公開するなど、手厚くフォローしています。

(参加者からの質問):当園には特別な支援が必要な子どもも在籍していますし、WiFi環境がない家庭もあります。多様な子ども・多様な家庭にICT端末を提供するにあたっての課題やメリットを教えてください。

(はやきたこども園:井内)当園ではロボットのペッパーを導入したことがありますが、支援の必要なお子さんにはとても有効でした。また、例えば視覚優位なお子さんにはICT機器の方が伝えやすいこともあります。ICT導入するにあたって重要なのは、子どもに使ってもらうだけではなく先生たちの働き方や保護者とのコミュニケーションなど、トータルでデジタル化するということです。先生や保護者のITリテラシーを上げないと、なかなかうまくいかないと思います。

(さとえ学園:山中)クラスには勉強が得意な子もそうでない子もいます。そんな中でその中間をとるような教育をしても意味がありません。低位の子どもには先生が手厚く指導し、上位の子どもには先生がファシリテートしながらオンラインで自律的に学習を進めてもらう。こういったことはICTがあるからできることだと考えています。

(東京大学:山内)本日のプレゼンでは幼保小のカリキュラム連携の重要性についてもお話し頂きました。幼保小でどうカリキュラムを連続させていけばよいのか、それぞれお考えはありますか。

(安平町:網代)安平町のはやきたこども園では、幼稚園の先生が小学校に教えに行っています。ぜひ小学校の先生にも園に来ていただいて、保育を見てほしいなと思います。先生同士が交流し、お互いが理解し合い、子どもについての共通認識が芽生えていくといいなと思います。

(はやきたこども園:井内)デジタルテクノロジーの本質は「個別最適化」と「共創」です。幼児教育においても、ICTを使って情報を共有し、それをもとに新しいものを創造するという「共創」の概念を取り入れた活動をすることで、小学校以降のカリキュラムにも繋げていけるのではないかと思います。

(さみどり幼稚園:徳本)幼保小連携はもう何年も前から課題となっています。幼保側からいうと、小学校の先生には幼保の現場を見てほしいという思いはあります。幼保でいろいろな経験をさせても、小学校に入った途端に赤ちゃん扱いから始まります。そこにはフラストレーションが溜まるところもありますね。

(東京大学:山内)GIGAスクール構想では、すべての子どもが1人1台の端末を持つことになります。子どもたちが手にするICTは「文房具」ではなく、むしろ「道路(インフラ)」のイメージです。ICTがあれば観光に行くこともできますし、商売をすることもできます。道路があるかどうかで社会生活のレベルも変わってきますし、その道路にどのような付加価値をつけるかは使う人に任されていて正答はありません。ICTも同じようなものです。

ICTはインフラなので、それぞれの学校・園の理念とどうつなげて活用していくかが重要です。遊びに使うことも大切ですし、先生の業務効率化に使うのも大切です。ICT活用を園や学校独自のカリキュラムとして、どのように昇華させていくのかが、今後の一番重要なポイントです。

今、幼児教育は危機に直面しています。コロナ禍で休校期間が長引いた時に、就学年齢の前倒し議論が盛んに行われていたのを覚えているでしょうか。なぜ前倒しが必要かというと、教育の高度化が求められている今、小中高のカリキュラムが過密化してしまい、学びの年齢を下に伸ばしたいからです。

小学校入学が前倒しになることはないかもしれませんが、5歳児の幼児教育をどのように小学校と接続させていくかについては、すでに文科省で議論が始まっています。4、5歳の教育の高度化は幼児教育にとって非常に重要な問題です。失敗するとアメリカのようにスペリングの練習で終わるような幼児教育になってしまいます。そうすると、日本の幼児教育の強みが消えてしまいます。これまでに培ったよいものを大切にしながら、どのように幼保小連携を実現していくかがとても大切です。ICTをうまく活用しながら、より高度な幼児教育を目指してもらいたいと思います。

次回予告


次回のセミナーは、8/24(火)16:00~18:00 「園の当たり前をやめた!採用に困らない人気園は何が違う?」です。ふるってご参加ください!


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