短篇小説:『運のいい男』前篇
一
私が目を覚ましたのは、仄暗い空間でした。
そこはかなり広くて、たくさんのワイン色の赤い椅子が階段状に並んでいました。それは間違いなく、映画館の中でした。
そのときは、自分がなぜこんなところにいるのか、見当もつきませんでした。だってそうでしょう? 映画館にいるということは、用はひとつ。映画を観ることです。でも私は映画を観るときは、必ず下調べをして、予告をみて、監督を調べて……。とにかくいろんなことを加味して、やっとチケットを予約するのですから。それを覚えていないなん