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ワーカホリックパラダイスで源氏物語を読む〜小説はノイズか?〜

心が動いてしまった。

働いてからずっとモヤモヤしていたモヤ感が、少し整理された気がする。


私は去年からベンチャー企業の営業アシスタントとして働いている。

創立間もないベンチャー企業というと、社員は皆やる気に満ち溢れている。
ワーカホリックパラダイスなのだ。

何をもってワーカホリックパラダイスか、と考えると、大体の社員は「自己実現」を「仕事」で見出そうとしている。ように見える。

「いいお母さんになりたい」「草野球のコーチを頑張りたい」「かわいいおばさんになりたい」と言った目標は聞いたことがない。

タスクに埋もれそうな時でも淡々とこなし、出世したら部下から慕われるいいマネージャーとなり、クライアントからは信頼を集め、売り上げを伸ばし、プロジェクトを推進し続ける、そういう者に私はなりたい。

そんな人で溢れているのだ(一部こぼれ落ちる人もいる)。

そこで私は、きっと浮いている。

側から見れば事務の人間なので変わらないように映るだろう。

でも私には仕事における目標なんてない。

仕事は、金稼ぎと社会と繋がるための手段だ。
自己実現は仕事の延長線上にはないことに気付いた。

そして、気付いてから居心地が悪かった。

この「こうなりたい!」という意欲のない私が、ワーカホリックパラダイスに居続けるのは気持ちが苦しかった。

「みんな同じ気持ちだよね!?」と自分に似合わないミサンガを結ばれてるような気持ち。

いや、私は一人で本を読む時間、こういうふうにnoteを書く時間、自分の内面と向き合う時間に重きを置いてるし、ちゃんと趣味の時間を大事にしたい。

仕事大好きじゃないといけないのかな。
じゃあ、仕事大好きになれない私はダメなのかな。

そもそも大好きな職種じゃないのに、安易に選んでしまった私が悪いんだろうか。

ああああああああああああああ

と、思ってた矢先に冒頭の記事である。

私たちは教養ではなく「労働」によって、その自己実現を図るべきだという思想を与えられるようになった。

ああ、これは「思想」なんだ。

自己実現を「労働」に見出せなくたっていいんだ!?

私はホッとした。

仕事よりも好きなことがある自分を肯定されたような気持ちになった。




一方で、「労働」と「自己実現」が結びつくこの時代、自己啓発がもてはやされている。

健康本のイメージではあるが「〜〜したいなら◯◯しなさい」と言った本が一時期ズラリと店頭に並んだ。

こうなりたいなら、これをしろ。

自分の自己実現に向かって一直線に伸びるような指示。

情報も自己啓発書も、共通点は読者の社会的階級を無効化するところにある。

コントロールできない社会のノイズは除去し、自分でコントロールできる行動に注力する。そのための情報を得る。

自己啓発本や「情報」には「ノイズがない」と記事は言う。

終わってしまった過去、自分の変えられないもの、社会的階級、出自、そういった「ノイズ」を無視することのできる情報が求められる時代。

変えていけるところにフォーカスを当てる時代。

過去から長く長く続く伝統的な文脈や歴史、背景は「ノイズ」に含まれる。

一部の人間だけが知り得る経験・情報・文化などは階級を生み出すものでしかない。
そんなノイズはシャットアウトし、自分にとって都合のいい情報を取捨選択できる時代。

教養よりも情報。
というより、最近は「教養としての〜」本が多く、教養ですら自己啓発に使われてる気がする。

教養を、簡単に必要な分だけ過不足なく得る。
自分のこれからに必要なものだけを。

仕事上では「結論から話せ」と言う。

そこに文脈など求められてない。
分かりやすさファースト、行動ファースト。

その文化に慣れ親しんだ忙しい民にとっては、ノイズは圧倒的敵なのだ。

つまり、求めてない情報もたくさん入ってるかもしれない趣味、読書はノイズになる、というのだ。

私はそういう短絡的というか、「そこしか見えてない知識」というものが苦手だ。

視野が狭くなるような気がして。

ノイズにこそ知らなかった世界への細道があるものだ。

懐中電灯のような直線的な光ではなく、街灯のような周囲を灯す光のような本を読みたい。

ノイズを知らなくていいの?

ノイズにこそ趣きがあるんじゃない?

趣味としての読書は今では下火かもしれないが、でもプライベートまでも、頭の中までも仕事に侵されてない?

私は足が何本かあるような、頭の中が配分されているような感覚が心地いい。

仕事で疲れた時は癒してくれる趣味を。
それはノイズなんかではない。

読書まで仕事に侵されるのは嫌だ。

「仕事〜行きたくなーい」と叫べる健全性というか、ワーカホリックパラダイスで「私はワーカホリックじゃない」と自分を認めてあげるだけで生きやすくなる。

趣味が大切な人間もいる。

仕事での成功に結びつかない読書を私は大切にしたい!

ということで、今日も私は源氏物語を読む。

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