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表計算

世の中にあるたいていのお仕事にねっとりとまとわりついてくるのが、表計算ソフト。マイクロソフト社製のエクセルが有名だが、最近はメンバー同士で共有し、同時に作業もできるGoogle製スプレッドシートも普及してきた。いずれにせよ目の前にひろがるのは縦線と横線が織りなす、無数の格子模様である。僕らはいままで、どれほどまで、この小さな長方形に情報を放り込んできたんだろう。この単純な構造にして、決定的なソフトウエアに、無残にも僕らの時間の多くが奪われていく。

投資銀行では、徹底してエクセルスキルを鍛えられる。ロンドンで行われた研修にはエクセルが講義項目として入っていて、マウスに一切タッチすることなく、財務モデルを作ることを求められた。ファンドに転職したが、エクセルワークがなくなるわけもない。買収価格算定のため、会社の財務状況を表すBS/PL/CSの三表を連動するシートに、シミュレーションの前提条件を表すシートを加えた買収モデルを、検討する案件ごとにしこしこ作っていく。大きな金額が動くので、ミスはゆるされない。しかし作業量が膨大なので、ついつい徹夜をしてしまう(よくない)。みずからの判断力を低下させないためにも、ショートカットキーをひたすら覚え、作業を効率化し、分かりやすい表の設計を心がけた。

事業計画や財務まわりといった数字面だけではなく、項目別に論点を整理できるのも表計算ソフトの強みである。みんなで閲覧しながら同時編集できるといいので、これはエクセルよりもGoogleスプレッドシートのほうが使いやすい。しかし広い世の中、格子を細かな正方形にしてピクセルみたいにとらえ、サイトのインターフェース作りに用いたりする会社もあるらしい。1セルを1文字にして、予算の申請資料を作っていた役所もあるらしい(めんどうくさいよね)。マクロだけでドラクエみたいなゲームも作れるらしい。このように僕らの想像を軽く超えてくるのが生まれるのも、格子の集合体といった自由度の高さなのかもしれない。しかしシフト表、事業計画、TODOリスト…ほうっておくと、幾何級数的にシートの数は増えていき、ビジネスをよく迷子にさせる。「探しものをしないためのエクセル」のように、安易にメタ構造を作ってしまいがちなのは罪深きこと。面倒だけど、ちゃんと管理していかないといけません。

個人的には縦横2軸で作られる表計算には限界があると思っていて、N軸で考えられるソフトウエアがほしかったりする。どういったものか予想もつかないけど、僕らの思考自由度をもっと高めてくれる新しい時代の表計算がほしいところである。

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