古着を探して三千里
皆さんは洋服選びに際して、どのような判断軸を持っているだろうか。デザイン、着心地、TPOなど、さまざまな判断軸があるだろう。
僕はというと、この間もとある古着屋でこんなズボンを買ってしまった。
このデニム、もちろん基本的に「かっこいい」と思っている。自腹を切って購入している以上、これは当たり前である。
しかし、落ち着いて客観的に見てみると「なんて洋服なんだ」と思う自分も確かに存在する。何とも不思議な状態だ。変だなと思いながら、かっこいいなと思っている。
改めて自分のクローゼットを見てみると、そういう服が色々出てくる。果たして自分は一体どんな判断軸を持っているのだろう。
椅子に座り、目をつぶる。気になる服を見つけた時の感覚をできるだけ思い出しながら、その感覚が共通する他の出来事がないかイメージしてみる。
自分は洋服選びについてどのような考えを持っているのか。その答えを探すべく、我々はジャングルの奥地へと向かった。
デパートなんかを歩いていると、ついつい目を奪われるものがある。
それはガチャガチャだ。
コレクター精神を刺激する造形物の数々に加えて、何が出てくるか分からないドキドキと、欲しい景品が当たった時の幸福感。
夢が詰まったあの直方体には、小さい頃からよくお世話になっていた。筐体の隙間から、次に出てきそうなカプセルの中身を何度無駄に見極めにいったか分からない。今でもガチャガチャゾーンの前を通ると、反射的にラインナップをチェックしてしまう。
ガチャガチャにおいては、二つの要素が運命を左右する。
一つは「確率」だ。
そのガチャにトライした時、目当てのものが手に入る可能性がどの程度か。ちなみに自分が欲しいやつほど、何故だか全然当たらない。それどころか、一番いらない変なオッサンのキャラとかが三回連続で当たったりする。あの無駄すぎるミラクルのせいで、人生の何割かの運は間違いなく持っていかれてるだろう。目当ての景品がある際は、いかに「いやまあ別にそんな欲しくはないんだけどね」的な姿勢を神にアピールできるかがポイントになる。
そしてもう一つの要素が「試行回数」だ。
極端な話、どんなシークレットレアだろうと、延々と同じガチャを回し続けていればいつかは必ず当たる。どれだけオッサンが出続けようと、オッサンの在庫を上回ればこの問題は解決する。止まないオッサンは無いのだ。
調査の結果、このガチャガチャに対する姿勢が、今の自分の洋服選びに影響を与えていることが分かった。
服が好きな割には、僕は特定のブランドやメーカーへのこだわりや知識がほとんど無い。いわゆるファッション雑誌みたいなものも、美容院で沈黙を紛らわせるために読む程度だ。ズボンのことを「パンツ↑」と呼ぶことにも未だに抵抗感を持っている。
そんな僕にとって、洋服選びは「ファッション」というよりも、むしろ「ガチャガチャ」を楽しんでいる感覚に近いように思う。
街を歩いていて古着屋さんを見つけた場合、基本的に僕はとりあえず入ってみることにしている。(「いやまあ別にそんな欲しくはないんだけどね」的な姿勢を神にアピールすることは欠かさない。)
入ったお店でたとえ欲しいと思える服が無かったとしても、全く問題ない。この先「とりあえず入ってみる」という行動を延々と繰り返し続ける限り、必ずいつか出会うことができるからだ。欲しい服に出会える確率が何パーセントであろうと関係ない。色んなお店に行き続け、試行回数の勝負に持ち込んでしまえば良いのだ。
先日、四国でとある古着屋を訪れた。退勤後に何となく散歩をしていたら、近所の雑居ビルの2階で密かに営業しているお店が見えた。なんか暗くて入りづらそうだなあと思ったが、「とりあえず入ってみる」ことにしているのでそんなことは関係ない。
大人しく入店すると中はこじんまりとしていて、奥には僕と同年代の店員さんが一人のみ。この店は彼が一人で運営している古着屋だった。
結論、この店長さんとの話が盛り上がりすぎて、ここから二時間滞在することになった。
知識と熱量が凄かった。売っている商品の半分以上は、彼が仕入品を元にリメイクを施した服だった。気になったものがあれば、一つずつ丁寧にこだわりや工夫ポイントを説明してくれた。国鉄職員の当時の制服や、日本軍服を今風にアレンジしたものなど、当時の時代背景と結びついた解説はシンプルに面白かった。個人的には、以前から密かに洋服作り自体にも興味があったので、今後も色々教わる機会があれば良いなと思った。
お店を出た後、僕は「よくこんな店たまたま見つけることができたな〜」と思った。
しかしガチャガチャ理論に当てはめて考え直せば、この出会いは必然だ。
「とりあえず入ってみる」を繰り返し続けていた僕は、いわばガチャを延々と回し続けていた状態。過去の無駄足の上に約束された「当たり」が、このタイミングでようやく訪れただけの話である。
ガチャを回し続けるという姿勢をとった時点で、ここまで到達することは既に決まっていたも同然なのだ。
これが魔法のガチャガチャ理論である。
ちなみに冒頭に載せたズボンもこのお店で買ったものだ。店長さんが袴をイメージして複数のジーパンをドッキングしたらしい。こういった多少チャレンジングな服であっても「とりあえず着てみよう」のガチャを回し続ければ、いつかは必ず当たりを引き当てることができる。これがガチャガチャ理論の素晴らしさだ。
手堅く「カッコいい」と思える服を着る事ももちろん良いのだが、一方で「カッコいい:謎い=6.5:3.5」くらいに思うような服にもトライし続ける事で、いつか来る「当たり」を待っているのだろう。
さあ、怖がってはいけません。
ガチャガチャ理論は全ての人間に開かれているのです。
まずは目を瞑って、精神を鎮めましょう。
ゆっくりと深呼吸をして、心のガチャを回すのです。
回しましたか?
それでは、目を開けてください。
ここに、一回1,000円のガチャがあります。
当たりの景品には、ニンテンドーSwitch、PS5、ディズニーペアチケット、エアーポッズ、その他諸々の豪華賞品がございます。
ほんとですよ?
ちゃんと入っていますよ?
どうですか?
Switch、欲しいですよね?
買わないと、当たりませんよ?
どうしたんですか?
そうですよね、不安ですよね。
でも安心してください。
あなたはただ、目の前のガチャを回し続けるだけで良いのです。
あー残念、外れちゃいましたね〜。
中身は紫のハンドスピナーでしたか。
どうしますか?もう一回引きますか?
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