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持久走と、わたし。

今日の四時間目の体育は持久走か、やだな。

体育がある日はすぐ着替えられるよう普段着の下に既に体操服を着てきている、わたし。

「持久走、マジでだるいね。絶対一緒に走ろうね」と、わたし。

「いいね、そうしよう」と、友だち。

「四時間目の体育は持久走だ、みんな頑張れよ」朝の会まるで他人事の、先生。

持久走が控えているからか朝からどこか元気のない、クラスのみんな。

一時間目。今日に限ってやけに時間が経つのが早い、算数。

二時間目。命の重さを考えさせられる、道徳。

死の持久走を控えているからか登場人物への感情移入がやけに捗る、道徳。

とうとう三時間目の社会が終わり最後のセーブポイント的な5分休みに突入する、クラスのみんな。

運命は変えられないことを知る、わたし。

家から体操服を着てきたおかげで無常にもすぐに着替えが終わってしまう、わたし。

一方で着替えにはいつも時間がかかる、友だち。

一緒に走ることを約束したからそれを隣でただ待つ、わたし。

今日の朝ゆっくりダラダラとしたペースで一緒に走る同盟を組んだ、わたしと友だち。

暗闇に差し込んだ、一筋の光。

やはり持つべきものは、友だち。

準備体操を終えてスタートラインに立つ、みんな。

互いに目くばせをする、わたしと友だち。

一緒なら、何も怖くない。

鳴り響く、ホイッスル。

一斉に駆け出す、わたし達。

空は曇り。持久走には最も適した、季節。

目の前のことに妥協できない、わたし。

気づけば夢中で走り出している、わたし。

首位グループに食い込む、わたし。

また今日も友だちを裏切る、わたし。

わたしがコントロールできない、わたし。

道徳もクソもない、わたし。

意識するのは脚じゃなく、腕の振り。

吸う吸う吐くを繰り返しなるべく整える、呼吸。

マイクロゴールを意識していくことで維持できる、ペース。

周回差で追いつかれる、友だち。

もうそれどころではない、わたし。

いよいよ訪れる、最終コーナー。

残る力を振り絞る、わたし。

身体が悲鳴を上げもはや呼吸は不規則。それでも止まない雨は、無い。

もう足がちぎれてもいいと全力疾走する、わたし。

そして訪れる、ゴール。

前回よりも縮まる、タイム。

手を抜かなくて、本当に良かった。

朝あんな約束、しなければ良かった。

友だちの信用と引き換えに得た、この上ない達成感。

瞬間に生きる、わたし。

あんなに嫌だったのに結局全力を尽くしてしまう、わたし。

そんなわたしが好きな、わたし。

譲れないエゴに気づかせてくれた、持久走。

持久走と、わたし。






















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