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子どもの本のもつ力

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子どもたちが家で過ごすことの多い今、清水真砂子『子どもの本のもつ力――世界と出会える60冊』(大月書店)の一部を無料公開します。
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子どもの本のもつ力(5・終)どうということのない日々の中に――『真夜中のパーティー』

子どもの本のもつ力(5・終)どうということのない日々の中に――『真夜中のパーティー』

清水真砂子『子どもの本のもつ力――世界と出会える60冊』(大月書店)より

 何か特別な才能をもった子どもではない。特別な状況にある子どもでもない。どこにでもいる子ども。

 あんまり目立たないので、いなくなっても誰も気づかないような子どもの内面のドラマを描いて、フィリパ・ピアスを超える作家がどれだけいるでしょうか。

 あんまり「ふつう」で、あんまりありふれたことに見えるので、気にもとめずに過ご

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子どもの本のもつ力(4)生きて生きて、たのしむんだ!――『ぞうのババール』

子どもの本のもつ力(4)生きて生きて、たのしむんだ!――『ぞうのババール』

清水真砂子『子どもの本のもつ力――世界と出会える60冊』(大月書店)より

 「こんなにうまくいくはずがない。」大人はすぐに言います。子どもも、つられて同じことを言うかもしれません。

 「だいたい、一から十まで子どもの望みをかなえてやっていいのか。」大人は眉をひそめます。「少しは我慢も教えなくては。」

 40数年前、初めてこの絵本を手にしたとき、私もこう考える大人でした。だって、人間のハンター

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子どもの本のもつ力(3)ためになるかどうかなんて――『にわとり城』

子どもの本のもつ力(3)ためになるかどうかなんて――『にわとり城』

清水真砂子『子どもの本のもつ力――世界と出会える60冊』(大月書店)より

 先日、小学校で読みきかせのボランティアをしている人々の多く集まる会で、「ためになる本」から私たち自身を解き放ってやりませんか、と語りかけたら、居合わせた方々はひどく驚かれたようで、この呪縛はなかなか堅固だと、あらためて痛感させられたことでした。

 大人は子どもたちを前にすると、何か意味あることを、と思ってしまいます。「

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子どもの本のもつ力(2)動かないでいること――『わたしとあそんで』

子どもの本のもつ力(2)動かないでいること――『わたしとあそんで』

清水真砂子『子どもの本のもつ力――世界と出会える60冊』(大月書店)より

 最近、自問することがふたたび多くなっています。何かをしないでいようとすると、どうしてこんなにエネルギーがいるのだろうと。

 3.11以後はいっそうそれを感じ、私はたびたび「動くな」と自分に言いきかせなくてはなりませんでした。「おろおろと、不様でいつづけよ」と。

 こんなとき、そっと傍らに佇んでくれる絵本がありました。

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子どもの本のもつ力(1)外出できない君たちへ。清水真砂子さんが選ぶ「今だからこそ読んでほしい本」

子どもの本のもつ力(1)外出できない君たちへ。清水真砂子さんが選ぶ「今だからこそ読んでほしい本」

新型ウイルス感染拡大の影響により、学校が休みになるなど、子どもたちが家で過ごすことが多くなっています。そんな今、子どもたちに知ってほしい本を、清水真砂子さん(児童文学者・翻訳家)に語っていただきました。また、清水さんの著書『子どもの本のもつ力――世界と出会える60冊』(大月書店)の一部を、順次公開していきます。本選びの参考にしていただければ幸いです。

 コロナ騒ぎで多くの学校が休校になっている今

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