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ようこそ、火星へ

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#小説

丘へ

朝早く、フィリップ船長は丘を見に行った。とてもなだらかな傾斜を歩いていくと、ヒバリの鳴き…

さきとも
1年前
5

やっと通信網が復旧した。窓の外は嘘みたいに晴れている。でも、この世界にはサイレンが鳴り響…

さきとも
1年前
3

砂嵐の日の幻聴ラジオ

いつも使い慣れたコーヒーカップが見当たらない。昨晩、洗って立てかけて乾かしておいたはずな…

さきとも
1年前
3

カタツムリのひとりごと投稿

「ペンネーム希望『火星に暮らすカタツムリの末裔』さんから、番組にお手紙をいただきました。…

さきとも
1年前
3

果ての楽園【SF短篇】

隊長にとっての火星は、深い眠りから覚めた妖精みたいに、可憐で壊れやすいものだった。そこに…

さきとも
1年前
6

手紙

返信遅れてごめん、僕はもうそんなに若くなくて、いろんなことに感情移入しがちで、昔のことを…

さきとも
1年前
1

【短編SF】楽園の住人は口を閉ざす

「この世界の人たちって、こういうものなの?」と妻が不思議がった。土中から鉱物を掘り起こし、砂漠に太陽光発電パネルを敷きつめ、窪地に水を溜めて巨大な湖を出現させた移住者たちのことを、信じかねていた。 「たぶん、作り変えることが好きなんだろう。そういう人たちだっているさ」と私は妻をなだめるように言った。 「つまんないことをするのね」と妻はがっかりした様子で、いつもの鉱石ラジオのチューニングに取り掛かった。 * * * 十年ほど以前、彼らが多くのロケットで火星に到着した頃、

火星人の最後の夢

サキの丘のふもとで営まれた或る火星人の葬儀は、静かに進んだ。火星人の末裔の亡骸は、数日経…

さきとも
1年前
7

火星の住人の夢を羨む者たち

それは思い出す限り、幻想だった。 眠りから覚めたばかりの群青色の部屋は、まるで昔の地球で…

さきとも
1年前
4

【短篇】憂鬱な火星人たちの次なるステップ

I. 報告書 ・・・の話はすべて作り話だとして、地球の歴史家たちは口をそろえて否定した。ゆ…

さきとも
2年前
10

【短篇SF小説】アイデンティティ

僕はここで何をしているのだろう? 窓から見える通りの、火星ランドマーク70228って書かれた…

さきとも
2年前
20

【短編SF小説】グッナイ

火星に秋がやって来ようとしている。どうしてだろう、三月だというのに。 ラジオのボリューム…

さきとも
2年前
13

コインランドリーの魔物

コインランドリーで見つけた忘れ物、その古びた火星の詩集に、僕は見覚えがあった。 僕が少年…

さきとも
2年前
16

Boys, be ambitious!

ひとりのこどもが生まれた。まだ静かで、コロニーの建造も途上だった惑星で、最初の産科病院もなく、急ごしらえの隙間風だらけの小屋で生まれた。火星で最初に生まれた彼女は、エマと名づけられた。 生まれてすぐ、周辺の荒れ地に鬼火が現れた。磁気嵐が引き起こした発火現象だと科学者たちは説明した。もちろん、科学者たちは太陽フレアのデータを把握していて、磁気嵐の発生していない安定した日だったことを承知の上で、堂々と嘘をついた。 嘘で誤魔化さなければならないほど、彼らはうろたえていた。知らな