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これまでの肩書を脱ぎ捨て”取り敢えずやってみる島”に背中を押されて。

島根県の離島、隠岐島前地域で大人の島留学・島体験に参画した皆さんの来島前・来島後、そしてこれからについてお届けする「私、島で働く。」

来島のきっかけから島での仕事・暮らし、自分自身の変化など
1人1人のストーリーをお届けしています。

今回お話を伺ったのは、2022年6月から大人の島留学生として来島し、海士町役場地産地商課で勤務している岡本さん。

岡本さん 取材当時24歳
千葉県出身 2022年度大人の島留学生として来島

「島に来てから色んなものが豊かになって、これからやってみたいことや夢が見つかった。アイディアが溢れてくるようになって、ここは自分にとって色どりを感じる場所。」

そう話す岡本さんに、島での暮らしを振り返っていただきました。


1年間、どっぷり地域に浸かってみたい

大学時代、ドイツに1年間留学していたという岡本さん。ドイツ留学中に体験した心身共に健康でいることを大切にする文化と田舎での暮らしに似たものを感じ、地方や地域という環境に興味を持ったと言います。

岡本
「島に来る前は、仕事と地域活性化コミュニティRural Laboという若者が集うコミュニティの運営をしていました。そのコミュニティで開催される合宿で2.3カ月に1回ほど長野県の辰野町を訪れていましたが、仕事の都合もあり、それ以外の時間になかなか辰野町へ足を運べなくて。そんな状況に違和感を感じていました。」

インタビューを受ける岡本さん

岡本「そんな時、Rural Laboが開催したインターン募集のオンラインイベントに大人の島留学も参加して下さったんです。他とは違う”大人”をターゲットとした制度であることと、他のどの地域よりもハードルが低く自己成長に重きを置いているところに魅力を感じました。」

その後、島暮らしへの憧れや1年間どっぷり地域に浸かってみたいという気持ちから、6月の大人の島留学生追加募集を見つけ、勢いで応募してくださったそうです。


等身大の自分を活かせる場所で

事業所選びでは、海士町役場人づくり課(現還流促進特命担当)と同役場地産地商課で悩んだそう。当初は、コミュニティ運営の経験を活かせる、大人の島留学運営事務局の人づくり課で働きながら、現場で身体を動かし学んでいきたいと考えていたという岡本さん。最終的に、地産地商課で働くことになった背景はいったい何だったのでしょうか?

岡本
「人づくり課を検討していた時はコミュニティに軸があった感覚。これまでの肩書にすがっていたような、等身大の自分から目を背けていたように思います。だから、自分の強みである、人との交流や行動力を活かして、地産地商課で働いてみるのはどう?と、勧めてもらったときに、地域とより繋がりを感じられる場所にいきたいと強く思い、地産地商課に決めました。実際、地産地商課で働いてみると、生産者さんのお手伝いを通して地域の方との関わりが多くて、貴重な経験をさせてもらっています。」

稲刈りのお手伝い

「ただ、これまでとは違う、自分軸での選択だったことに少し不安もありました。コミュニティでは運営側としての活動がメインだったので、プレイヤーとして動くことに対して、自分にできることがあるのかなと。けれど、月1回実施される研修の中でよく出てくる、取り敢えずやってみようっていう言葉に後押しされました。」


しゃん山を人々が行き交い・滞在できる場所に

そんな想いから、地産地商課での勤務が始まった岡本さん。

主な業務
・しゃん山の店舗スタッフ
・ジオパーク推進機構とのコラボ企画(写真撮影・記事編集)
・野菜品評会企画@産業文化祭
・回覧板用チラシ作成
・本氣の主張イベント@創業祭

現在は、地産地商課が管理する島の直売所「しゃん山」の活性化がミッションの1つだといいます。

岡本「海士町の方言で”しゃん山”という言葉が、”自分の畑”という意味を初めて知った時に、家庭菜園から家族で消費しきれない分の野菜を卸す場所というコンセプトに強く共感したのを今でも覚えています。」

「その代わり、商品が少ない日ももちろんあり、お客さんがすぐ帰ってしまうのがすごく寂しいなと感じていて。だから、商品が少なくてもお客さんが滞在できる場所にできないかなと。例えば、島の農産物や生産に関わる人の読み物を作って島にはこんな生産者さんがいるのか!と、興味をもつきっかけをつくったり。」

実際に、”愛人米”や生産者紹介の連載など、島の生産者さんについてお届けする記事の作成にも取り組んだそう。

詳しくは
▶▶こちら

お客さんとも1言2言他愛もない会話をすることで、”自分の畑”で近所の方と会話するような、そんな空間のデザインに力を入れているようです。「商品の陳列数は少ないけれど、商品がないときでも”自分の畑”の様子を見に来てくれる場所になっていったら嬉しい。」と話してくれました。

岡本
「しゃん山は、港にある直売所なので観光客と地元の人と生産者の人が行き交う場所。そして、隠岐で生産されたもの・収穫されたものが並ぶので季節外れの物がなく、すごく旬を感じられる場所です。」

「普通の売店でも直売所とも違う、とにかく素敵な場所だなって日々感じながら働いていて。そういった強みを活かし、様々なバックグラウンドをもった人が行き交う場所だからこそ、常に色んな交流がある場所になったら嬉しいなと思っています。」

関係性を大切に、繋がりを活かして

また、しゃん山の活性化について印象に残っている業務について尋ねてみると海士町産業文化祭の企画で2年ぶりに開催された野菜品評会が印象的だったそう。

岡本「産業文化祭の時期は課内の皆さんが本当に忙しい時期で。上司の方が”ななちゃん野菜品評会やってみない?”って声をかけて下さって。二つ返事で引き受けました。企画まるごとの運営を任かせていただき、とてもやりがいを感じました。ローカルチャンネルの静止画広告をつくったり、農家さん1軒1軒に参加交渉の電話をしたり。」

岡本「イベント終了後、課内の方から”課題はあったけど、やってくれてありがとう”と言っていただけて嬉しかったし、野菜品評会復活!という感じで、喜んでくれる生産者の方もいらっしゃって。今までの生産者さんの繋がりとか、得意の人との交流で自分の強みを認めてもらえたのかなと感じて、嬉しかったです。」

また、企画趣旨の1つだった「”しゃん山”という文化の継承」と、町民の「生産意欲向上」に努められたのではないかという岡本さん。

岡本「今まで名前を伏せて野菜を卸していた生産者さんが、この機に金賞を受賞して、名前を公表していただけることになったんです。更に、普段お店に卸していない町民の方が受賞したことで、今後お店に野菜を卸す検討をしていただけて。かなり手応えを感じました。」

岡本「一見大したことのないように思えますが、離島という閉鎖的なコミュニティの中で、他の町民からの意見は無視できません。それなら名前や野菜を出さない方がいいというのが大半の考え方で。お手伝いや記事の連載を通じて、農業に対する思いとか、出荷するまでの苦労を知っているからこそ、そのプライドをもっと前面に出してほしい。”しゃん山”という文化を盛り上げたい!という一心で取り組みました。」

地産地商課は生産者さんに寄り添っているなと感じるからこそ、臨機応変な対応を求められるし、ハードワークな部分もある。けれど、関係性で仕事が成り立っている部分が大きいから、仕事とプライベートの間で動いてるところもあるという岡本さん。そう感じながらも、農家さんに寄り添いながら一緒に手を動かす、その原動力について聞いてみました。

島の生産者さんについて話す岡本さん

岡本「関係性を大切にしたい気持ちと純粋に1次産業に携わる皆さんのかっこよさに魅せられて、お手伝いをしたいっていうシンプルな気持もあったり。そういった方の傍で海士町の昔の話とか聞きながら作業できるのが嬉しい。また、お手伝いを通じて日々感じている感謝の気持ちが伝わったら嬉しいなと思います。」

無理しすぎない感が心地いい

ー地方や地域という環境に興味をもった理由の1つが、心身共に健康でいることを大切にする文化だったと話す岡本さん。実際の島での暮らしはいかがでしたか?

岡本「島に来てみて、スローライフを実感しています。応募した当時は、Rural Laboと仕事の両立が難しく疲れてしまっていて。けれど、島に来てから夜はちゃんと寝るし、自習もする。良いのか分からないけど、無理しすぎない感がありますね。」

「それは、島全体の雰囲気として感じていて。例えば、商店の営業時間が7時くらいまで、9時には絶対閉まってること。朝は早いけど夜はゆっくり過ごすという皆が無理をしていない環境で、不便さを感じる部分もあるけれど、それが心地いいなと感じます。」

午前中に畑仕事と掃除とゴミ捨てに行き、その帰りに寄り道をして帰った

ー島に来る前の環境と今の環境の温度差に、物足りなさを感じる場面は無かったのでしょうか?

岡本「多分、物足りないって感じちゃってるから休日に生産者さんのお手伝いに行ったり、アクティブに過ごしているんだと思います。けど、お手伝いも朝早かったりするので昼から夕方にかけてスローライフというか。午後からの時間が充実する感覚があって、結果的に1日の生産性が高まったように感じています。」

人との関わりが色で、自分と対話する余白が豊かさ

島に来るまでは切羽詰まっていた感覚があり、将来に希望が見えなかったのかもしれないと話す岡本さん。島に来てから好奇心のような”やってみたい”という気持ちが溢れているそう。

岡本「島に来てから、自分と対話する余白ができました。その時間があったから、今やりたいことが見つかったように思っていて。以前は、職場かカフェのように、行く場所も限られていて色味がなかった感覚。けれど、島の暮らしは”あの人と話したいから、あの場所にいこう”という感じに、自分からアタックしても、みんな対応してくれて。そういう余白の時間があるからこそできることもあって、そんな島の環境は自分にとって彩りしかなくて、アイディアが出てくる場所です。」

帰宅中に夕焼けが綺麗な日は毎回寄っていた崎地区にある風車「海風」近く

自分にとっては人との関わりが色で、自分と対話する余白が自分にとっての豊かさかもしれないと話す岡本さん。

島に来るまでは、自分できるかも!と思いながら目の前の仕事を莫大な努力で埋めようとして疲れて。島に来て、これまでの肩書を脱ぎ捨てて大人の島留学生という一人のプレイヤーとして活動する中で、等身大の自分を受け止められるようになったそう。

自分のベースにある”共感”という感覚を大切にしているからこそ、見つけた目標。それに向かって、軸をもって進んでいくのが今後の課題だなあと締めくくってくれました。


あとがき

これまでの環境や在り方を振り返る中で見えてくる等身大の自分。

変化やありのままを受け止めるのは勇気のいることで

それでも思い切って飛び込んで、手探りでも取り合えずやってみる中で

何が見えてくるのでしょうか…

1度、島にも飛び込んでみて下さい

                    (インタビュー・文/田中沙采)


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