見出し画像

お正月の心遣い 【ちらし寿司と茶碗蒸し】

こどもの頃、おめでたい日はいつもちらし寿司だった。
母はかなり料理が得意な人だったけれどベースとなる酢飯はいつも「あったーかごはんにまーぜるだけー」。その代わり干し椎茸を甘辛く煮たり錦糸卵を作ったりエビや絹さやを茹でたり、仕上げには子供が喜ぶ桜でんぶや大人も好きなイクラを飾って、見た目も綺麗でみんながおいしく楽しく食べられる工夫に一生懸命だった。それだけの手間をかけるちらし寿司は出来上がりも華やかでみんな大いに盛り上がり、そして何よりおいしかった。

おとなになった今は、お寿司屋さんのランチ限定メニューのちらし寿司が贅沢な気分になれてありがたい。生ものの鮮やかな色合いに玉子焼きや煮穴子といった仕事を配して、シャリが一粒も見えないほどびっちりとネタを敷き詰めたところにキュウリや大葉の緑で要所を引き締めた盛り付けも美しい。お店によっては握りのセットより手頃な価格に設定されていることも多く誠に恐縮してしまう。家で同じものを作ろうとすればネタを揃えるだけで大変だし金額も相応にかかってしまうから、この手のものはプロに委ねるのが幸せ。

家でもお店でも、それぞれ手持ちのネタを最大限生かして、食べる人を想い工夫を凝らして作り出すことに変わりない。一皿で様々な味が楽しめて気持ちも華やぐちらし寿司は、食べるのも作るのも好きな私にとって特別な料理の一つです。

◼️ちらし寿司の作り方◼️

[すし飯に使った材料]
●米…225g(1.5合)、洗ってからザルで水気を切っておく
●水…270g、米と同容量
●塩昆布…15g
●砂糖…15g
●酢…45g
※鍋で炊く時の目安の分量です。炊飯器では普通のごはんよりやや少なめに水加減してください。


[盛り付けに使った具材]
●錦糸卵…卵1個 、みりん・酒・塩少々
●絹さや
●大葉
●小鯛の笹漬け
●イクラ

すし飯は、米と塩昆布を一緒に炊き込み、旨味と塩味をあらかじめつけたところに酢と砂糖だけで味を整えます。この塩昆布ももちろん具の一つ、まずごはんだけ食べてもおいしくなるように。のせる具材は作るもの買ってくるものなどバランスよく組み合わせ、その時々で自由に楽しめば気楽。

①まず、ごはんを炊きます
洗ってザルで水切りしたお米と同量のお水を鍋に入れ、塩昆布をのせて炊きます。すし飯の基本は、炊き上がったごはんにすし酢(合わせ酢)を混ぜて作る。炊き上がったごはんに後から液体を加えるので、その分を差し引くイメージでいつものごはんより水を少し減らして固めに炊いておくのがポイント。

Jazz_Piano_Bar.00_01_19_04.静止画009-3

かつて修行した日本料理店は関西風の料理を出すお店で、すし飯を作る時は「差し昆布」といって出し昆布を米と一緒に炊き込んでいた。店だとその昆布は米が炊き上がればそのまま捨ててしまうけれど家でそれをやるのは随分贅沢。そこで塩味も旨味も合わせ持つ塩昆布ならそのまま食べられるはずと試してみたら大変上手くいったので、以降すし飯はこの作り方。塩昆布はこういう出汁的な使い方もできて便利なのでいつも家に置いている。

[私の普段のお米の炊き方]
⒈蓋をして中火にかけ(10分後位目安)、蓋の隙間から少し湯気が出てきたタイミングを見てごくごく弱火に火加減する
⒉そこから9分そのまま弱火で炊く
⒊時間が経ったら蓋を開けてのぞき、表面に水気が見えないでお米に吸い込まれていれば火を止める
⒋蓋をしたまま10分位蒸らしたら出来上がりです
※お鍋で炊くときは、時間を忘れないようにタイマーを鳴らすと安心。
※米1合=180cc、約150gで計算しています 

②すし酢を合わせます
ごはんを炊いている間に、酢と砂糖を混ぜておく。
一般的なすし酢は[酢+砂糖+塩]の3つを混ぜて作る。けれど今日は塩昆布を米と一緒に炊き込んで塩気はもう先に入っているので、[酢+砂糖]だけを混ぜて完了。砂糖はしっかり溶かし込まなくても、後で熱いごはんに混ぜれば溶けるから大体で大丈夫。

Jazz_Piano_Bar.00_02_17_26.静止画010-2

料理はいつもすっきり程よい甘味が好みのてんさい糖を使っていて、その茶色が料理につくけれど、家のことだしそこが却って自然でいい。

③具材を準備します
具材選びは好き好き自由に。そうは言ってもそれが一番難しいという場合もあるから取り合わせのパターンをいくつか。
例えば[焼いたもの/茹でたもの]と調理法の違いで組み合わせたり、[黄/緑/赤]と色からそれぞれ選んだり、[買ってきたもの/作るもの]と手間から考えたりするとなんとなく納得感が出ます。

・錦糸卵
卵に少しのみりんと塩、酒を加え、白身がしっかり切れるまでよくよく混ぜて、油を薄く塗ったフライパンで弱火でできるだけ薄く焼く。冷めたらくるくる丸めて端から細切りにすればできあがり。身近な食材でできるし、何より色がきれいで華やかさが抜群。焼いた芳ばしい香りも手の込んだ感じがする。

Jazz_Piano_Bar.00_00_26_10.静止画011-2

Jazz_Piano_Bar.00_00_44_05.静止画012-2

Jazz_Piano_Bar.00_00_59_25.静止画014-2

お店で食べるちらし寿司には甘い卵焼きがのっていることも多いから、それを思い出してみりんで甘さをつけた。市販の厚焼き卵を使ったお店風もいいと思う。

・大葉と絹さや
黄色がきたら、緑もほしい。大葉はくるくる丸めて端から千切りにして、水に晒してからキッチンペーパーに包み水気をしっかり絞る。

Jazz_Piano_Bar.00_01_04_19.静止画015-2

絹さやは筋を取って塩茹でにしてから、ヘタを落として斜め半分に切りました。

Jazz_Piano_Bar.00_01_13_22.静止画016-2

一口に緑と言っても[火を入れたもの/生のもの]と2種類使うと、しっとりとフレッシュの違いが単なる飾りにとどまらずぐっと奥行きを出してくれるから料理っておもしろい。茹でるものなら他に、空豆・スナップエンドウ・インゲンなど豆系のもの、セリ、三つ葉、菜の花など。フレッシュなら、きゅうり、木の芽、カイワレ・スプラウトも使いやすい。

・小鯛の笹漬けとイクラ
生ものがのると、一気に豪華な感じがして色合いも映える。大好物の[小鯛の笹漬け]は、黄鯛という小さな鯛を塩と酢で漬け込んだ福井の名産品。酸味が柔らかく、黄色の入った淡い桜色もいい。鯛は大きくても小っちゃくてもどうであれおめでたい。

Jazz_Piano_Bar.00_05_03_09.静止画017-2

イクラも大好物で、家のお雑煮には必ずイクラが入っていた。鮮やかな色とこってりした味わい、どちらもばっちりアクセントになる。他には、とびこや数の子など魚卵系、蟹肉、カニカマ、ボイル海老、スモークサーモン、甘みのある刻み穴子もいい。

③すし飯を仕上げます
ごはんが炊き上がったら、すぐにすし酢を回し入れて混ぜ込みます。もうもうと立ち昇る湯気とともに酢の角も飛んで行き不思議と柔らかな味わいに馴染む。

Jazz_Piano_Bar.00_02_31_11.静止画018-2

全体に酢が行き渡ったら、すし飯完成。お店と違って、それほど大量でない限り普通に混ぜて一様に味が行き渡れば問題なし。湯気が大体おさまったら、乾燥しないように蓋をして置いておきます。

Jazz_Piano_Bar.00_02_34_25.静止画019-2

④で、完成です
器にすし飯を平らに入れて、その上に具材を散らしていきます。盛り付けには特に決まりはないからここはセンスの見せ所。私はどこをすくってもおいしくなるようにと意識しながら程よく散らして盛りつけました。

Jazz_Piano_Bar.00_03_33_21.静止画020-2

Jazz_Piano_Bar.00_03_45_03.静止画021-2

Jazz_Piano_Bar.00_03_56_18.静止画022-2

まず錦糸卵を全面に広げて一口大に切った小鯛の笹漬けを間隔を取って置き、それに添えていくように、絹さや、大葉、イクラと置いて行く。重箱の場合は角が空いていると非常に目立つので、仕上げは四隅を意識して埋めるとビシッと決まる。丸い大皿ならごはんが見えていても自然だし、1人分ずつ銘々に盛る時は具材は散らさずぎゅっとまとめて置くのも格好いい。

常温で食べるちらし寿司にもう一品、温かさを添える茶碗蒸しを一緒に。卵に出汁・塩・薄口醤油少々でごく薄く味付けして、湯煎で仕上げました。

【茶碗蒸しに使った材料】
●卵…1個
●出汁…150g
●塩…少々
●薄口醤油…好みで少々
●カニカマ、椎茸、三つ葉

①卵液を合わせたら少しだけ液を残して耐熱の器に入れ、アルミホイルで蓋をしてから、蓋のできる鍋(フライパン)に並べる。卵液はザルか茶漉しで一度濾すと、仕上がりの口当たりが段違いに良くなります。Jazz_Piano_Bar.00_01_59_22.静止画025-2

②熱湯を脇から静かに注ぎ、鍋の蓋を少しずらして置いて弱火で8分程蒸す。鍋の蓋をずらして置くのは温度の上がり過ぎを防ぐため、熱湯の量は茶碗蒸しの器の1/3〜半分位の高さまで入れます。鍋底にキッチンペーパーを敷くと、器がカタカタ言わず静かに蒸すことができる。

Jazz_Piano_Bar.00_03_08_09.静止画027-2

③卵液が大体固まったところに具をのせて残しておいた卵液を注ぎ足し、さらに7〜8分蒸して後から足した卵液が固まっていれば出来上がり。こうして2段階で蒸すと具がきちんと見えるよそ行きの仕上がりになります。数や器の厚みでも火の入り方は変わるので、時間が経ってもゆるい時はさらに時間を延ばすか、火を止めて鍋の蓋を閉めて置いておいても余熱で結構固まる。

Jazz_Piano_Bar.00_03_20_23.静止画026-2

具材は、カニカマと椎茸、三つ葉を使いました。水分が少ないもの、火の通りが早いものが湯煎茶碗蒸し向き。しかし最近のカニカマのクオリティには驚かされるばかり。

茶碗蒸しだから蒸しものだけど、蒸し器内の温度が上がりすぎると鬆(す)が入って舌触りがザラッとしてしまうなど、茶碗蒸しを蒸し器で仕上げるのは実は結構難しい。湯煎ならお湯がボコボコ言うようでは火が強過ぎると目で見てすぐにわかるから、もっと弱火に火加減。一見シンとしていても火がついてさえいれば柔らかい熱でちゃんと固まってくれます。

Jazz_Piano_Bar.00_04_06_15.静止画023-2

人が集まる時というのは、主人があまり台所にばかり立てば周りにも気を使わせるし、みんなで席について一緒にとなると常温で長い時間置いてもおいしいものや冷たいものが多くなる。だからお鍋、ホットプレートは冬の趣向にぴったりだし、熱々の茶碗蒸しならみんなの意表を突いてきっと喜ばれると思う。

心は見えないけれど心遣いは目で見える。それを感じておおいに喜びおいしくいただくのもまた心遣い。

心静かに穏やかに素敵な年を迎えたいですね。

それでは今年はこのへんで。
最後までお読みいただきありがとうございました。

[ちらし寿司と茶碗蒸し]の動画をYouTubeに投稿しています。合わせて見てもらえたら嬉しいです。


お読み頂きありがとうございます。 これからもおいしいお料理とおいしいお酒をたくさんお届けします。