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納豆汁の友は、山川光男

「もっと早く知りたかった」と心底悔しくなるほどのおいしさを持つ料理に出会うことがある。

山形の郷土料理[納豆汁]もその一つ。納豆をすり鉢でつぶして味噌仕立ての汁に溶き入れた具だくさんの汁物で、納豆の粘りが汁全体のとろみとなりそのおかげで冷めにくく、よそった後も長く熱々のままで食べられる。山形以外にも東北各地で食べられていると聞いたけれど、私が小さい頃を過ごした岩手の地域で出会うことはなかった。

その頃は今よりもう少し雪が多かったように記憶していて、雪が降り子供が集まれば遊びには事欠かなかった。雪だるまを作り、ちょっとの傾斜をソリで何度も滑り、屋根から垂れ下がるつららを折って舐めながら家の周りをぐるっと歩き、雪合戦が始まると大抵一人が泣いてその日はおしまい。家に入ると、今度はおとなたちがやれストーブに当たれコタツに入れカゼを引くぞとやかましかった。寒冷地の人が必ずしも寒さに強いかといえば私はやや訝しんでいて、少なくとも私の近くにいたおとなたちは外から帰るとあー寒い寒いとやたらと口にしその寒さを口実に酒を飲み、そして飯でも汁でも炊きたて煮えばなの熱い物ばかり好んで食べていた。

とろみのある納豆汁をまず一口すすった一口目の感想は、きっと「熱!」。凍える季節に体の芯から熱くしてくれる納豆汁をもっと早く知りたかった。

◼️納豆汁の作り方◼️

【使った材料】
・納豆…160g(3〜4パック)
・出汁…1ℓ〜
・味噌…70gくらい
・いもがら…(手に入れば)乾燥で10g
・ごぼう…50g〜
・人参…50g〜
・こんにゃく…1/2パック(100gくらい)
・わらびの水煮…1/2パック(60gくらい)
・豆腐…1/2パック
・油揚げ…1〜2枚
・なめこ…1パック
・長ネギ…1/2本
・セリ、ミツバ、青ネギ、七味唐辛子など、お好みで

具材は手近に手に入るものをお好みで、ただし量は多めの具沢山がおすすめ。特に納豆は少ないよりは多いと感じる位が断然いい。あれもこれもと入れていくと量がどんどん増えるけど、いっそたっぷり作って温め直して食べるのがまたおいしい。

①材料を食べやすく切り、固いものから煮始めます
具材にこれという決まりはなく、根菜、こんにゃく、きのこ(なめこ)、山菜、豆腐、油揚げあたりが定番。

・根菜
この日はごぼうと人参を使用。
ごぼうの泥は流水を当てながら丸めたアルミホイルでこすると簡単きれいに洗えます。縦半分にしてから斜め薄切りに。

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人参は太いところなら縦1/4にして、ごぼうと同じように斜め薄切りにしました。

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アク抜きとして水に晒すことが多いごぼうは、今日は晒さずに切ったそばからそのまま出汁で煮ていきます。このあと納豆という強力な存在が全てを覆ってくれるからごぼうのアクくらいなんの問題にもならない。

・こんにゃく、油揚げ
この2つはどちらも一度熱湯で下処理する方がおいしく料理できる。
まず、鍋に沸かした熱湯に油揚げをくぐらせてザルに上げ、同じお湯で次はこんにゃくを湯がいてと、私は1つの鍋で済ませてしまいます。この一手間で、油揚げは油が抜けて食感も柔らかく、こんにゃくは特有の石灰の臭いが和らいで食べ易くなる。

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それぞれ根菜と同じくらいの大きさに切って、味の染みにくいこんにゃくはすぐ鍋に入れてしまう。油揚げは十分柔らかいし味も吸いやすいのでまた後で鍋に追加します。

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・いもがら
山形で納豆汁に欠かせないという[いもがら]は、里芋の茎を干した野菜の乾物。東京では全く馴染みのない食材ですが、今回はアンテナショップで入手。欠かせないという食材も今は生産者が少なくなり少し手に入りにくいのが残念。

乾物だからまずは戻しが必要。水でよくもみ洗いして熱湯を注ぎ、30分ほど置けばふっくら戻る。

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戻ったら、水気を絞り他の材料と同じくらいに切って煮るだけ。

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味というより、しょりしょりしょりという歯ざわりが面白い食材。
あまり機会はないかもしれないけれど、手に入った時は戻し時間が30分程かかるので根菜の前にまずいもがらの戻しからやれば丁度良い。

・その他
わらびの水煮は水洗いしていもがらと同じくらいに切る。なめこは水洗いしてザルで水切りし、豆腐は一口大、長ネギは縦半分にしてから1cm幅くらいにザクザク切りました。

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全部の材料を一気に切ってしまう必要はなくて、煮えるのに時間のかかりそうな固い根菜から切って煮始めたら、後は切りながら加えていけば作業もゆったりで効率もいい。

②納豆をつぶします
この料理の最大の特徴は、納豆はそのままではなくすりつぶして加えること。固い根菜などを煮ている間に、すり鉢に納豆を入れすりこ木でつぶしていく。通常のすり鉢の使い方で闇雲にゴリゴリやってもこれが中々粒にはヒットしないので、初めは一粒一粒狙ってトントンとつくイメージで。

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結構骨が折れる作業、つぶし加減は好みと根気により。私はちょっとしたエクササイズと思いながら全体が白っぽくなくなるまで結構しっかり目につぶしました。

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③味噌を溶き入れます
先に煮始めた根菜やいもがらが柔らかく煮えてきたら、他の具材も切りながら次々加えていき、全部の具材が入ったら味噌を溶き入れます。
一旦普通のお味噌汁くらいにしておいて、この後納豆も入ってくるのでまた後で味見してから味噌を追加し整えれば大丈夫。

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④納豆を溶き入れます
納豆ペーストをいきなり汁に入れても溶かし込むのに少し時間がかかる。どうせすり鉢を使うなら、まずはすり鉢の方に鍋の煮汁を少しずつ入れてすりこ木で混ぜ込み、流動性が出てくる位までゆるめてから鍋に加えると汁に溶け易くなります。

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そして鍋に入れます。これは初めてみる光景という方も多いかと思いますが、これで合っているので大丈夫です。

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④で、完成です
よくかき混ぜて全体に納豆が馴染んだら完成。是非具も汁もたっぷりと盛り付けて、セリや青いネギ、七味唐辛子なんかもあればもう言うことなし。

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食べる時にとにかく気をつけて欲しいのはこの汁の熱さ!
どんなにおいしそうに出来上がってもまず一口目は慎重に、納豆のとろみを甘く見るときっと火傷します。だからこそ冷めず長い時間熱々で食べられるのだから、焦らずゆっくり楽しみましょう。

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山形ではこの納豆汁を七草の行事食として食べる地域があるそうで、それを知って折角だからさっと塩ゆでしたセリを混ぜ込んだ一草粥を一緒に食べました。七草粥を思いながら手元にあるもので手軽に、白飯とお水で炊いた簡易粥でも気分は十分味わえる。

油揚げ/豆腐/味噌/納豆と大豆製品がこれでもかと入り、体の砂払いと言われるこんにゃく/根菜/きのこと食物繊維もたっぷり。出汁にかつおが入っている以外材料はほぼ精進物で、そのお陰か満足感の割に食べた後が軽くて体もしっかり温まりなんだかすっきり。つくづく先人の知恵って素晴らしい。

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今日の友は同郷の山形からやってきた「山川光男」さん。

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誰このおじさん?と思ったら、山形4蔵元の銘柄から一文字ずつを取り、各蔵の持ち回りでシーズンごとに一捻りあるお酒が出てくるという面白い試みのユニット名。[2019 ふゆ]は新酒らしい華やかさにしっかりとした米の旨みとコクも相俟って、納豆汁にも負けず出過ぎずの素敵な相性でした。

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熱すぎない冷たすぎないばかりが適温じゃない。
思わず「熱!」と言う位が適温という料理が時にはあります。

それでは今日はこのへんで。
最後までお読みいただきありがとうございました。

[納豆汁のおいしい作り方]の動画をYouTubeに投稿しています。合わせて見てもらえたら嬉しいです。


お読み頂きありがとうございます。 これからもおいしいお料理とおいしいお酒をたくさんお届けします。