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はんちゃどん - 最高のはんぺんの食べ方

その日はおでん鍋が真正面に見えるカウンター席に通された。来る前から決めていたお昼のメニューを注文すると、目の前で職人さんがその鍋の中を箸で軽くちょんとつき、汁の中で泳がせるようにして器用にすくい上げられた「豆腐」がごはんにのって運ばれてきた。表面はしっかり味も色も染みているのに中は白さが残り豆腐の淡白な味わいもあって、そこにおでん汁がたっぷりかかった茶飯を追いかければこれがなんとも良い塩梅。あしらわれたネギの薄切りがいかにも東京のおでんらしい甘めの風味を仕切り直すのに素晴らしく効いていて匙が進む。

茶飯の上に煮汁のよく染みた大きな豆腐がふるんとのった老舗おでん屋・神田お多幸の名物「豆腐茶飯(とうちゃ)」を食べながら、職人さんの仕事を眺める。鍋の中で仕切られた小さな区画に砂糖を足したり、よく色の染みたおでん種をバットに取り出し、そのスペースに真っ白に下煮された大根を投入、透明の液体を足したと思えば今度は醤油色の澄んだ液体を目見当で足しと、豆腐をすくう合間を縫ってひとときも休むことなく淡々と夜の仕込みが進んでいく。

願っても無い特等席でとうちゃを食べ終わり、思った「こりゃ無理だ」と。正直とうちゃを自分でも作ってみたい作れるのではないかという思いがうっすらあったのだけれど、こうして丁寧に手入れしながら長年継ぎ足し継ぎ足しされてきた「汁」があってこその名物料理あることを目の当たりにすると、あっさり諦めの境地に達した。

だけど、同時に閃きもあった。白くてふわふわで、豆腐とは似て非なるあれならどうか、そのままで食べてもおいしいあの食材ならいけるかもしれない。と、思い立って作ってみたのが「はんぺん茶飯丼/はんちゃどん」かなりおもしろおいしい料理が出来ました。


◼️はんちゃどんの作り方◼️

【はんぺんの煮付け】
・はんぺん1〜2枚
・出汁…300g
・濃口醤油…30g
・酒…20g
・みりん…20g
・砂糖…8g

【茶飯】
・米…225g(1.5合 / 270cc)、洗ってからザルで水気を切っておく
・出汁…270g
・濃口醤油…15g
・酒…15g
※普通より少しかために鍋で炊く時の目安の分量です。

・白ネギ…1/3本くらい

長く煮込む必要のないはんぺんの煮汁は、初めからかなり濃い目でさっと煮て仕上げます。砂糖で甘味を加えると東京おでんの雰囲気が出ます。濃く煮付けたはんぺんと、薄目の茶飯、合わせて食べて丁度良く。


①茶飯を炊きます

鍋に洗ってザルで水切りしたお米、出汁、濃口醤油、酒を入れて、蓋をして炊きます。後ではんぺんの煮汁がかかることを考えて、普通のごはんよりやや固めの炊き上がりがおすすめ。いつもごはんは鍋で炊いているので、洗った米をしっかり水切りして出汁の量を計って入れますが、炊飯器ならお米と調味料を入れてから出汁の量でやや少なめに水加減すれば大丈夫です。

[私の普段のお米の炊き方]
⒈蓋をして中火にかけ(10分後位目安)、蓋の隙間から少し湯気が出てきたタイミングを見てごくごく弱火に火加減する
⒉そこから9分そのまま弱火で炊く
⒊時間が経ったら蓋を開けてのぞき、表面に水気が見えないでお米に吸い込まれていれば火を止める
⒋蓋をしたまま10分位蒸らしたら出来上がりです
※お鍋で炊くときは、時間を忘れないようにタイマーを鳴らすと安心。
※米1合=180cc、約150gで計算しています 

昔からおでんに付き物と言わるのが茶飯。茶飯というと煎茶や焙じ茶など本当のお茶で炊くものと、醤油で色付けるものと2通りありますが、今回はお醤油味で。出汁に醤油と酒の香りを足すだけでもうおいしい茶飯、醤油の量は味付けというより色付け・香り付けくらいの奥ゆかしさがポイント。

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②ネギをたっぷり切ります

ごはんを炊いている間に、ネギをできるだけ薄く薄く、量はたっぷりと薄切りにします。このネギは飾りではなく大事な味の一要素で、一番合うのは白いネギ。もしも青いネギしかない場合には、根元の白くてネギくさいところも混ぜて刻んで欲しい。

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おでんを食べる時にはカラシが薬味の定番でネギを添えたことはなかったのですが、なぜか茶飯と出会うと不可欠な存在に。食べ進めると必ず追いネギをしたくなるので、ちょっと多いと思うくらいあらかじめ刻んでおくことをおすすめします。残ったら冷奴やお味噌汁に。


③はんぺんを煮ます

いよいよ主役のはんぺんを煮ます。
鍋に煮汁の材料(出汁/濃口醤油/酒/みりん/砂糖)を合わせて中火にかけ沸いてきたところに、四角いはんぺんなら斜めに三角か長方形か好きに切って加えます。

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1〜2分煮てまず片面が色づいたら、そっと裏返して裏面もまた1〜2分煮ます。

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おわり。
はんぺんはそのまま食べられる加熱済食品なので火の通りを心配する必要もなく、煮過ぎると一度ぶわっと膨らんでから急激にしぼんで持ち味のフワフワ感が損なわれてしまうので、表面がおいしそうにさっと色付いたら「おわり」くらいでもう十分。

この日は日本橋の老舗、創業元禄元年、320年超の歴史を持つという[神茂]のはんぺんを贅沢に使用。鍋で煮ている丸い形のは「半月」の方で、江戸中期最初につくられたはんぺんはこの形だったそう。はんぺんとしては中々のお値段でありますが、肉・魚その他高級食材に比べたら手の届く贅沢。お店で受け取った時にずしっと重みを感じるはんぺんは初めてでした。
実は神田お多幸でも神茂のはんぺんやおでん種を使っている。おいしいはずだ。

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いつもスーパーで買う特売はんぺんでも作りましたが、もちろんおいしくできました。そして、茶飯もそろそろ炊ける頃。

④で、完成です

炊きたての茶飯を茶碗によそい、その上に煮たてのはんぺんをどーん、さらにその上にネギをふわっと多目にのせ、煮汁をお好みでかけて完成。

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はんぺん自体にもごはんにも味が付いているので、煮汁の量はまず食べてみて加減して足す方が安全です。

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この日の友は新潟/越銘醸の「山城屋スタンダードクラス」。料理と合わせることで完成する「未完成のお酒」がコンセプトの生酛造り純米大吟醸。落ち着いた香りがまず出汁と醤油の香りに合い、優しい酸は料理の甘みを引き締め、はんちゃどんがよりおいしくなりました。こちらの蔵元は弘化2年創業。

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店を出ようとすると、一足先に会計に立った女性が「1万円でもいいですか?」と聞いたら、レジのお兄さん「10万円でも大丈夫ですよ!」。
老舗はつくづく学びが多い。


それでは今日はこのへんで。
最後までお読みいただきありがとうございました。

はんぺん茶飯丼 [ はんちゃどん ]の作り方の動画をYouTubeに投稿しています。合わせて見てもらえたら嬉しいです。


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