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春野菜を味わう「おひたし」

ざわつく心を落ち着かせてくれる、そんな料理がある。

ごま油・塩・ニンニクたっぷりのいわゆる「バズるレシピ」の突き抜けるおいしさに身をまかせる日もあるけれど、日常に寄り添い続いていく日々を支えてくれるような、誰に見せるためでもない静かな料理も私には大切。

バズる派手さはないけれど、作って食べればきっと満足できるはず。
食材のおいしさをシンプルに味わえる、大事にしたい調理法「おひたし」。


◼️緑野菜のおひたしの作り方◼️

【ひたし地】
・出汁…600g
・みりん…30g
・薄口醤油…30g
・塩 …2g

【この日使った野菜】
・菜の花
・うるい
・アスパラガス
・ケール
・そら豆
・塩(下茹で用)…適量


色よく湯がいた緑の野菜を出汁のきいた汁に文字通り浸して作る[おひたし]。春の野菜と出汁のおいしさが改めて感じられる美しい日本のお料理です。野菜は1種類でも3種類でも、お好きなものでたっぷりとどうぞ。


①ひたし地を準備します

鍋に出汁/みりん/薄口醤油/塩を合わせて、一度沸かして冷ましておきます。一度沸かすことでみりんのアルコールが飛び、味わいがまとまります。

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こういった出汁をベースに用途に合わせて味付けした汁を日本料理で「地/じ」と呼びます。おひたしなら[ひたし地]、お吸い物の汁なら[吸い地]など。あくまで地は=下地なので主張しすぎず、それでいて一見やや控えめに思わせておきながらしっかりと下支えするしたたかさが必要です。

私のひたし地は、やや濃いめの出汁にみりんと薄口醤油を等量、そこに塩を加えて少し塩味に寄せて引き締めるイメージ。野菜のきれいな緑をできるだけそのまま残せるように、醤油は必ず色の淡い薄口醤油を使っています。


②野菜を準備します

冬から一転春は緑の野菜が売り場に溢れて胸が踊ります。その中でも出回る時期がほんの短い季節感の強いものを1つ2つ、これを浸してみたらどうだろうと興味が湧く変わり種、盛り合わせた時の全体の色味と食感に思いを巡らせながら、この日は5種類の野菜を取り合わせました。

●この日使った野菜

・菜の花
これが野菜売り場にこんもり並び出すと、いかにも春がやって来たと感じる風物詩的野菜の一つ。食べる時にちょうど良さそうな長さ(5〜6cm位)に切り水に浸けて元気にしておきます。根元の方の茎や切るとモサモサっと出てくる余分な葉っぱは、別にオリーブオイルとニンニク・唐辛子とで炒めたり、薄味の地でさっと煮て卵とじに、もちろん全部一緒におひたしにしてもおいしく。

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・うるい
すっと伸びた真っ白い茎に淡い緑の葉が素敵な山菜の一種。
山菜と聞くと灰汁が強く抜くのが大変というイメージですがこれはアクもクセも少なく柔らかく、それでいてほどよく山の香りも味わえるおすすめの山菜です。こういう長さのある野菜は茹でる前に切るとバラバラになって扱いにくいので、長いまま茹でて後で切る方が、茹で易く盛り付けもビシッときまります。

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・アスパラガス
馴染みのアスパラはただ茹でてマヨネーズ醤油でも十分おいしいけれど、ちょっと切り方に工夫を加えておひたしにするのも面白いです。長さを生かしてピーラーで薄くスライスすると、縦の繊維のシャキシャキ感はありながら歯の隙間に詰まるような強情さは和らいでサクサクサクと食べられます。太いものは根元の方の外皮が厚くて固いこともあるので、先にピーラーで剥いておくと丁寧。

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スライスしたら水に放してシャキッとさせておきます。

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・ケール
スーパーフードと言われる野菜の一つ。美容と健康のために摂取するものというイメージがありますが、小ぶりで新鮮なものは苦味も少なく普通に葉野菜として使えます。色や形も種類があって、これが一つ入るだけで急に料理が垢抜けてくるシャレ感がまたスーパー。
真ん中の色の浅い茎の部分は固いので切り分けて、緑の濃い葉の部分だけを使いました。茎はかなり筋っぽいので、繊維を断ち切るように刻みお味噌汁やじゃこ炒めなどに。

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・そら豆
青い豆類は大好物で、中でもそら豆は食べるところが大きくて食べ易いし、あの独特の匂いもいい。さやが立派な割にむくとぐっとカサが減ってちょっと寂しい気持ちになるけれど、それでも十分満足感のある食べ応えだから良しとします。

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薄皮に切り込みを入れておくと、火の通りも良くなり茹でた後でむき易くなります。

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③野菜を茹でます

大きめの鍋に湯を沸かし塩少々を加えて、野菜を1種類ずつ順に茹でていきます。1種類ずつは少し面倒に感じるかもしれませんが、それぞれのタイミングがわかり易くて結果シンプルです。
緑野菜の茹で方は大体どれも同じで良く、お湯に入れたらまず全体を箸で沈めて、さっと色が鮮やかに変わり箸で泳がせた時にしなやかさを感じたら引き上げます。

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うるいのような長さのある野菜は、束の上の方を握って根元の方から湯に入れ段々しなってきたら全体を箸で沈め、同じように葉の緑が鮮やかになってしなやかさを感じたら引き上げます。小松菜、ほうれん草、水菜など、長いものはこうして茹でると扱いやすい。

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●野菜の冷まし方

⑴水に取る
食感を生かしたい=柔らかくし過ぎたくないものと、熱で色が褪せやすいものは、茹でたそばから水に取ってすぐ冷やしそれ以上熱が入るのを止めます。今回だと、サクサクの食感を残したい[うるい][アスパラ]、火の通りが早くきれいな緑も保ちたい[菜の花]の3つはこの方法で。
長く水に浸けたままにするとどんどん風味が抜けて水っぽい味になるので、冷めたら早めに水気を切ることが大切。

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⑵ザルに上げる
柔らかくていいもの、柔らかくしたいものは、ザルに上げて自然に湯気を飛ばします。今回で言うと、しっとり柔らかく食べたい[そら豆]と葉野菜だけど繊維も緑の色も強い[ケール]の2つ。
そら豆は大体2〜3分茹でて、一つつまんで爪でぐっと押してみるか食べてみて柔らかくなっていたら茹で上がりです。

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おひたし野菜の茹で加減は、生っぽいのはだめですがあんまりふにゃふにゃもちょっと切ない。色の変化や箸先の感触を茹で加減の目安として、心配なら一口食べて確かめるのが一番確実です。


④地でひたします

水に取った野菜はまず水気を手で絞り必要に応じてキッチンペーパーで更に水気を押さえてから、うるいは食べやすい長さに切りそら豆は薄皮をむいて容器に入れていきます。

水気を絞るとはいっても、せっかく歯触りよく湯がいた野菜を握りつぶしてしまうほどではやり過ぎ。絞るのはあくまで水に取った時についた水気であって、野菜そのものが持つおいしい水気までを絞りきらないように力加減に気をつけます。

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野菜の上から冷ましておいた①のひたし地をひたひたに注ぎ入れ冷蔵庫で1時間〜。「ひたひた」は材料が少し顔を出しているくらいの量、時間が経つと少しずつ野菜から水が染み出して全体が浸かるようになります。

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⑤で、完成です

全体が冷えて野菜とひたし地が馴染んだら完成です。
盛り付けはセンスの見せ所、といっても野菜それぞれが鮮やかに美しく、どうやっても上手く収まってくれるからありがたい。
今回は野菜ごとに間を開けてゆったりと盛り込みました。ひたし地も少し張っておいしい汁気と一緒に食べていきます。

普段なら副菜のイメージのおひたしが、盛り合わせると一つ一つの個性が際立って贅沢な雰囲気!シャキシャキしっとりほっくり、苦味甘み。色々な食感香り味わいが、おひたしという一つの料理の中で豊かに広がります。

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浸して1時間後位からおひたしとしておいしく食べられますが、一晩置くと色そのままに味はしっかり馴染んでまた違ったおいしさで楽しめるので是非こちらもお試しください。
おひたしをすごい勢いですっかり食べ尽くした後に残るひたし地は、鶏肉やかまぼこを足してうどんを煮ていつもおいしく食べ切っています。

〜お酒が好きな方に〜
一口ごとに力強い春の息吹が感じられる春野菜のおひたしには、力負けしない華やかな香りの純米大吟醸がおすすめです。
さっと湯がくという調理法では出にくい甘みやコクを補って、出汁の旨味とも上手にバランスします。


それでは今日はこのへんで。
最後までお読みいただきありがとうございました。

[おひたしのおいしい作り方]の動画をYouTubeに投稿しています。合わせて見てもらえたら嬉しいです。


お読み頂きありがとうございます。 これからもおいしいお料理とおいしいお酒をたくさんお届けします。