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夏のこと

空を染めるエンジン音 
地鳴りと遊ぶ砂埃 
恐怖に怖気て膝踊り 
しまいにゃカチカチ歯も歌う 
急げや急げと人が舞い
命が惜しけりゃ飛び込めと 
おしくらまんじゅう防空壕 
ドカンドカンと巨人の足踏み 
早う終われと手をこする 
サイレン鳴り止み行進終わり 
埃まみれの太陽拝む 
気付けば好いたあの子を探し 
周れど廻れどあの子はいない 
覚えた匂いも焦げには負けて 
途方はどこと暮道帰る 

次ぐ朝ドカンと起こされた 
よく似た頭巾が見つかった 
田んぼの脇で見つかった 
嘘だ夢だと裸足で駆けて 
見慣れぬ景色に後退り 
見事なまでの丸焦げ頭巾 
力は抜けて腰抜け腑抜け 
汚れを忘れて這いずるばかり
思い出すのは花柄頭巾 
好いた匂いも焦げには勝てず 
欠片は戻せぬ戻すは御法度 
帰らぬ人には情けをかけよ 
やり場を探せず土をむしゃぶり 
散々喚いて涙を枯らす
転がる石ころ空へとはじき
奈落の底まで転がり落ちた

見えないあいつの憎い顔 
戻せるはず無い懐い顔 

空の彼方へ行っちまった 
あの子を連れて行っちまった 

好いたあの子は木っ端微塵 
何言うあの子は神隠し 
ぼくのこころも木っ端微塵 
神様そろそろあの子を返せ 

いやいや あの子はもういない 
そうそう あの子はもういない 

あついあつい 夏のこと  
とおいとおい 夏のこと




       〈おしまい〉




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