魔法少女の系譜、序章
noteを始めてみました。
私は、ライターです。『Role&Roll【ロール・アンド・ロール】』というTRPGの雑誌で、「幻想植物図鑑」というコラムを連載しています。実在しない、神話や伝説の中に登場する植物を紹介するコラムです。
noteでは、幻想植物とはまた別のことを書こうと思っています。
日本のアニメや漫画で栄えている、魔法少女(魔女っ子)についてです。
じつは、私は、二〇一三年から、某SNSで、『魔法少女の系譜』というシリーズを書いています。某SNSだけでは、読み手が限られることから、noteにも書いてみようと考えました。
今回の記事は、序章です。私は、神話や伝説といった、古来の物語に興味があるため、そういった物語と、現代の魔法少女もの(魔女っ子もの)とのつながりに焦点を当てて、魔法少女ものの系譜を作ろうと考えました。
それをするにあたり、序章で、言葉の定義をしました。これをしないと、その後の話が、混乱しますので。
以下の記事は、二〇一三年に、某SNSに書いたものです。最低限の手直しだけ、しています。このため、文中に「二〇一三年現在」などの言葉が登場する場合がありますが、御容赦下さい。
まず、しなければならないのは、神話や伝説といった言葉の定義です。
定義論は退屈ですが、ここが曖昧なままでは、論のよって立つ基礎がなくなってしまいますので……御容赦下さい。
普段の生活の中では、神話、民話、伝説、昔話といった言葉は、はっきり定義されることはありませんね。
なんとなく、「昔から伝わっている物語」くらいの意味で、一緒くたにされています。
民俗学の世界ですと、これらの言葉には、きちんと定義があります。「昔話」や、「世間話」にも、定義があるんですよ。
民俗学的な意味での「昔話」や「世間話」を取り上げる場合には、「ムカシバナシ」や、「セケンバナシ」のように、カタカナ書きされることがあります。
ここでは、民俗学の定義を参考にしつつ、けれども、厳密に民俗学的な意味で使うことは、しないこととします。
厳密に定義を求めると、窮屈【きゅうくつ】だからです。
とりあえず、神話、民話、伝説、昔話といったものを、一まとめに表わす、便利な言葉を挙げておきましょう。
口承文芸【こうしょうぶんげい】といいます。
口承文芸には、明確な、個人としての作者は、いません。
不特定多数の人々が、少しずつ、創作に関与しています。誰も、著作権を主張しません。そもそも、著作権などという考えがなかった頃に、生まれた物語です。
そして、いつ、どこで生まれたのかがはっきりしないのも、口承文芸の特徴です。いつとは知れぬ昔から、口伝えに伝えられてきたゆえに、「口承」文芸です。
現代に創作された物語であれば、いつ、どこで、誰が作ったのか、明確なのが、普通ですよね。
例えば、小説であれば、「何年に出版されたか」、「どこで出版されたか」がわかっているはずです。
これらの点が、近現代の物語と、口承文芸との、大きな違いですね。
この違いについては、おそらく、どなたも、気づいているところだと思います。
さて、これら以外に、口承文芸と、近現代との物語との違いは、どこにあるでしょう?
それを知るには、口承文芸の中の分類を、はっきりさせなければなりません。つまり、神話、民話、伝説といったものの定義と分類です。
最初に、「民話」の定義をしましょう。
ここで「民話」といった場合、それは、ほぼ、口承文芸とイコールだとします。「一般民衆のあいだで、口伝えに伝えられてきた物語」です。
「神話」も、「伝説」も、「昔話」も、民話の中に含まれることとします。
現代になってから作られた、創作民話と呼ばれるものも、存在します。
が、ここでは、そういった創作民話は、「民話」に含めないこととします。
次に、「神話」の定義です。
口承文芸の中で、「神」や「悪魔」のような、超常的な存在が活躍する話を、「神話」とします。
例えば、イザナギとイザナミの夫婦神が、日本列島を次々に生んだ話は、「日本神話」です。
ギリシアの大神ゼウスが、妻ヘラの目を盗んで浮気した話は、「ギリシア神話」です。
クトゥルフ神話は、ここでの「神話」に入れないこととします。
これは、現代に作られた創作神話ですので。
「伝説」の定義に行きましょう。
これは、「実在する事物に関連付けられている話で、人々が、少なくとも一時期は、本当にあったことだと信じていた話」です。
例えば、現に海岸に生えている松を指さして、「昔、天女が空から降りてきて、あの松に、脱いだ衣を掛けたんだよ」というのは、伝説です。「天女の羽衣」伝説ですね(^^) 実在する松に関連付けられた話です。
「昔、牛若丸が、鞍馬山で、天狗に剣術を教わった」というのも、伝説です。これは、牛若丸(源義経)という実在した人物と、鞍馬山という実在する山と、二つに関連付けられた話ですね。
現代の日本人で、天女や天狗が実在すると信じている人は、いるとしても、ごく少数派でしょう。
しかし、昔は、信じている人が、おおぜいいました。ですから、これらの伝説は、かなりの割合で、「本当にあったこと」と信じられていました。
伝説の中の一部として、都市伝説があります。
都市伝説は、現代に生まれた伝説です。とはいえ、個人が創作したものではありません。不特定多数の人々の中から、自然発生したものです。
古くからある伝説と、都市伝説との差は、「現代人が、本気で信じてしまう」かどうかにあります。
例えば、数年前に流行った都市伝説で、こんなのがありました。
「○○というスーパーで、幼女の虐待事件があった。幼女はスーパーのトイレに連れ込まれて、性的虐待を受けた。あまりにも悲惨な事件なので、マスコミでの報道は抑えられている」
実際に流行った伝説では、○○という部分に、実在するスーパーの名前が入ります。
これ、ありそうな話だと思いますよね? 具体的に、実在するスーパーの店名を挙げられたら、信じちゃいそうですよね?
でも、これは、本当にあった事件ではありませんでした。
道具立てが現代的になっただけで、「伝説」に過ぎません。「天女の羽衣」と同じなんです。
※2022年6月3日追記:
この部分に、読者さんからの指摘がありました。「スーパーでの幼女虐待事件は、都市伝説ではなく、本当にあった事件だ」ということです。
確かに、スーパーでの幼女虐待事件は、実際に日本でありました。被害者やその家族にとっては、非常につらい体験だったでしょう。それを否定はしません。
ただ、実際の事件とは別に、まったく関係のない地方でも、まったく関係のないスーパーの名を挙げて、「あそこで、幼女虐待事件があったんだって」という噂が流れました。しかも、一地方だけではなく、同時多発的に、複数の地方で、流れました。
実際の事件と無関係のスーパーの名を挙げて、「事件があった」と言ってしまったら、それは、もう、都市伝説ですよね。無関係のスーパーにしてみれば、風評被害もいいところです。実際の事件以上に、噂が大きくなってしまって、立派な都市伝説になってしまいました(^^;
最後に、「昔話」の定義です。
昔話には、定まった型があります。日本であれば、だいたい、「むかしむかし、あるところに」で始まりますね。末尾には、「どっとはらい」、「どんとはれ」、「おしまい」などの言葉が付きます。
伝説と違うのは、実在する事物との関連が、弱いことです。
もう一つ、よほど小さい子供でない限り、昔話を、「本当にあったこと」だと思う人は、いません。
『さるかに合戦』や、『桃太郎』や、『舌切り雀』を、そのまま、本当にあったことだと思う大人は、いませんよね? あくまで、「お話」として、楽しんでいます。
「むかしむかし、あるところに」などの定まった言葉は、「これは、昔話だよ。昔にあったという形で語るけれど、あくまで、お話だからね」というお約束を示しています。
上記の分類は、くっきりはっきり、境界が決まっているわけではありません。複数のグループにまたがって分類される話もあります。
例えば、「天女の羽衣」は、実在する松に注目すれば、伝説です。天女という超常的な存在に注目すれば、神話といえます。
定義の話だけで、長くなってしまいました。今回は、ここまでにします。
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