見出し画像

魔法少女の系譜、その47~『超少女明日香』~


 前回に続き、今回も、『超少女 明日香』を取り上げます。

 前回の日記で、日本の口承文芸の中の「戦う女性」は、悪役にされることが多いと書きました。それは、間違いではありません。
 とはいえ、明日香のような、完全に善役の戦う女性が、まったくいないかといえば、そんなことはありません。

 口承文芸の中では、神功皇后【じんぐうこうごう】という女性がいますね。古事記や日本書紀に登場する女性です。この人は勇ましい女性で、武装して戦いにいどみました。

 皇后と言えば、日本女性の中の頂点に立つ存在です。そもそも、皇族である時点で、「普通の女性」とは言えませんね。極めて例外的な存在です。
 口承文芸の中では、これくらい例外的な女性にして、やっと、「完全な善役」かつ「戦う女性」たり得るのではないでしょうか。

 何回も書いていますように、日本の長い口承文芸の歴史―古事記あたりから数えれば、千二百年以上―の中で、「戦う女性」は、ほんのわずかです。しかも、その多くが、少なくとも一時的には、悪役です。「女は戦うもんじゃない」という観念が、強固だったことが、わかりますね。

 日本の娯楽作品の中で、女性が普通に戦うようになったのは、歴史的には、ごく最近です。ここ二十年くらいでしょうか。
 その二十年くらいの間に、日本では、「戦闘少女」が急激に増え、多様化しました。女性の中でも、「少女」が戦うことが多いのが、日本の特徴です。

 伝統的な口承文芸の中には、「戦う女性」はいても、「戦闘少女」は、ほとんど見当たりません。神功皇后も、滝夜叉【たきやしゃ】姫も、白娘子【はくじょうし】も、鈴鹿御前も、年齢ははっきりしませんが、みな成人女性―外見年齢は、そう―です。白娘子だけは、実年齢六百歳の白蛇の精ですね。

 いつ頃から、日本の娯楽作品に、戦闘少女が登場するようになったのかは、興味深い問題です。
 しかし、それに突っ込むと大変なことになるので、ここでは、とりあえず止めておきます。
 明日香が、「戦闘少女」の列に加わる者であることを指摘するにとどめておきましょう。初期の戦闘少女として、重要な一員だと思います。

 さて、以下で、八つの視点で、『超少女 明日香』を、分析してみます。

[1]魔法少女の魔力は、何に由来しているか?
[2]大人になった魔法少女は、どうなるのか?
[3]魔法少女は、いつから、なぜ、どのように、「変身」を始めたのか?
[4]魔法少女は、「魔法の道具」を持っているか? 持っているなら、それは、どのような物か?
[5]魔法少女は、マスコットを連れているか? 連れているなら、それは、どのような生き物か?
[6]魔法少女は、呪文を唱えるか? 唱えるなら、どんな時に唱えるか?
[7]魔法少女の魔法は、秘密にされているか否か? それに伴い、視点が内在的か、外在的か?
[8]魔法少女は、作品中に、何人、登場するか?

の、八つですね。


[1]魔法少女の魔力は、何に由来しているか?

 明日香の能力は、生まれつきです。砂神一族という血族に伝わる能力です。血筋型の魔法少女ですね。

 明日香の能力は、個人のものというより、自然界の力を含めた能力です。事実上、無尽蔵で、無敵に近いです。これまで、『魔法少女の系譜』シリーズで取り上げた中でも、最強に近いですね。
 ヒロインを最強にし過ぎると、面白くないためか、明日香には、「ゴキブリが苦手」という弱点が付いています。

[2]大人になった魔法少女は、どうなるのか?

 大人になっても、明日香の能力は変わらないはずです。

 超能力を持ったまま、普通の人間社会で生きるのは、難しいでしょう。
 『明日香』の場合は、砂神一族がひっそりと住む「砂神村」を設定することで、現実社会との軋轢を、うまくかわしています。飛騨の山奥で、俗世間との交流をなるべく絶った生活をするわけです。一種の隠れ里です。
 隠れ里にいる限り、超能力のことで、騒がれずに済みます。一族全員が超能力者ですからね。

 明日香の高い倫理観も、超能力を持ったまま、大人になることを、後押しします。
 明日香は、超能力を悪用どころか、私欲のために使うことすらしません。一也に会いたくて、飛騨からふたたび上京する時にも、超能力を使わず、歩いてきます(*o*)

 十代のうちから、これほど高い倫理観を持つならば、大人になっても暴走しないだろうことは、目に見えますね。
 作品中には出てきませんが、おそらく、砂神一族は、子供の頃から、超能力を悪用しないように、厳しく教育されるのでしょう。

[3]魔法少女は、いつから、なぜ、どのように、「変身」を始めたのか?

 明日香は、普段、お手伝いさんでいる時と、超能力を使う時とで、「変身」します。変身というよりは、変装に近いです。服装と髪形を変えるだけですから。

 なぜ、明日香が「変身」するのか、その理由は、語られません。不明なままです。
 もしかしたら、一般人に超能力者と悟られないように、普段の姿と超能力を使う時の姿とを、使い分けているのかも知れません。

[4]魔法少女は、「魔法の道具」を持っているか? 持っているなら、それは、どのような物か?

 明日香は、魔法の道具は持っていません。

[5]魔法少女は、マスコットを連れているか? 連れているなら、それは、どのような生き物か?

 明日香は、ミックという猫を連れています。この猫がマスコットですね。テレパシーなどを使える超能力猫です。お飾りマスコットではなく、かなり役に立っています。

 飼い主の明日香に合わせて、ミックも「変身」します。変身するマスコットのさきがけだと思います。

[6]魔法少女は、呪文を唱えるか? 唱えるなら、どんな時に唱えるか?

 明日香は、呪文は唱えません。「魔法」ではなく、あくまで「超能力」を使うからです。

[7]魔法少女の魔法は、秘密にされているか否か? それに伴い、視点が内在的か、外在的か?

 基本的に、明日香の超能力は、秘密にされています。一也などには、知られてしまっていますが。
 物語は、明日香の視点か、一也の視点で描かれます。時々、敵方の視点で描かれることもあります。

[8]魔法少女は、作品中に、何人、登場するか?

 『明日香』には、明日香以外の超能力者が、何人も登場します。その中には、「少女で超能力者」という人もいます。芹川有子【せりかわ ゆうこ】、吾妻萌【あづま もえ】、矢鳥京子【やとり きょうこ】などの少女たちです。
 「魔法少女」(超能力少女)が複数登場する作品として、『明日香』は、初期のものでしょう。

 彼女たちは、明日香の敵になることもあれば、友人になることもあります。「超能力少女なら、これ」という決まった役割は、ありません。

 注目すべきは、芹川有子と、彼女を取り巻く「超能力集団アマゾネス」ですね。アマゾネスは、超能力を持つ少女たちばかりで構成されています。芹川有子は、そのヘッドです。
 有子は、アマゾネスたちを率いて、明日香と戦います。正義の味方でなく、悪役のほうで、「魔法少女戦隊」―超能力少女ですが―ができています。

 正義の味方より先に、悪役で戦隊ができるとは……口承文芸における、悪役の「戦う女性」をほうふつとさせますね。


 『超少女 明日香』については、ここまでとします。
 次回からは、別の作品を取り上げる予定です。



この記事が参加している募集

マンガ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?