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魔法少女の系譜、その45~『超少女明日香』~


 今回は、新しい作品を取り上げます。『超少女 明日香【ちょうしょうじょ あすか】』です。
 この作品を御存知の方は、「え?」と思うでしょう。この作品は、アニメ化されていない漫画だからです。

 『魔法少女の系譜』シリーズでは、基本的に、テレビアニメの魔法少女作品を取り上げています。時おり、実写(特撮)ドラマを取り上げることもしましたね。魔法少女を語るには、実写(特撮)ドラマも欠かせないからです。

 魔法少女を語るにあたっては、本当は、アニメ化されていない漫画作品も、取り上げるべきです。
 けれども、私は、これまで、それを避けてきました。その理由は、きりがないからです。漫画作品まで入れると、量が膨大すぎて、私一人では、追いきれません。

 しかし、『超少女 明日香』は、アニメ化されていなくても、取り上げるべき作品だと考えました。魔法少女の歴史を語る上で、一つの要【かなめ】となる作品だからです。

 『超少女 明日香』は、昭和五十年(一九七五年)に連載が始まりました。テレビで、『ラ・セーヌの星』が放映されていた時期と、かぶっています。少女漫画誌『花とゆめ』の草創期の看板作品でした。
 人気シリーズのため、掲載される雑誌が変わりながらも、断続的に、平成十六年(二〇〇四年)まで(!)連載が続きました。
 作者の和田慎二さんが、二〇一一年に亡くなられたために、未完となっています。

 断続的とはいえ、三十年近くも連載が続いたのは、人気の証しでしょう。
 世の中には、なぜアニメ化されないのか、不思議な漫画があるものですが、『超少女 明日香』が、まさに、そうです。和田さんが生きてらっしゃるうちに、アニメ化して欲しかったです。

 『超少女 明日香』の主人公は、砂姫明日香【さき あすか】という少女です。高校生くらいの年齢ですが、学校へは行っておらず、働いています。職業は、お手伝いさんです。
 お手伝いさん! 魔法少女の定番中の定番ですね。このお約束を、しっかり踏まえた作品です。

 『超少女 明日香』には、魔法や魔術は登場しません。代わりに、「超能力」が登場します。一九七〇年代の超能力ブームを反映しています。
 昭和四十九年(一九七四年)のユリ・ゲラーの来日を皮切りに、日本では、たいへんな超能力ブームが起こっていたのですよ。テレパシーとか念力とか透視とかの世界ですね。

 ヒロインの明日香は、超能力少女です。その能力は、明日香が属する「砂神【すながみ】一族」に伝わるものです。血筋で伝わる超能力ですね。
 砂神一族は、飛騨の山奥に住んでいます。自然が豊かな環境に、長年住み続けるうちに、自然界の精霊のような能力を身に着けたことになっています。

 ところが、ある組織の陰謀により、明日香の住んでいた村が、ダムの底に沈められてしまいます。明日香は復讐に燃えて、飛騨から東京へ出てきます。
 彼女は、ダムの建設を請け負った会社が、東京にある田添建設という会社であることを突き止めていました。田添建設のオーナー社長一家を破滅させるために、その家に、お手伝いさんとして入り込みます。
 お話が始まるのは、明日香が、コミカルで、ちょっと不思議なお手伝いさんとして登場するところからです。

 田添社長一家は、もちろん、明日香の正体を知りません。どんな家事でも巧みにこなす明日香を、スーパーお手伝いさんとして、無邪気に喜びます。
 この家事能力は、明日香の超能力とは関係なく、独自に身に着けたようです。文明の利器が少ない― 一九七〇年代でも、井戸を使っていた描写があります―飛騨の山奥で、自然に養われたようです。

 田添家で暮らすうちに、明日香は、田添建設が自分の村を滅ぼしたのではないことを知ります。黒幕は、別にいました。芙蓉【ふよう】産業という会社です。その総帥が、芙蓉夫人という女性です。倒すべきラスボスは、この人ですね。

 芙蓉夫人のそばには、ブレーンとして、カルテットと呼ばれる四人組がいました。他に、護衛として、ウォーカー姉弟という超能力きょうだいがいます。
 芙蓉夫人を倒すため、明日香は、カルテットの分裂をはかります。彼女は、なんと五人に分身して、田添家以外に、カルテットのメンバーそれぞれの家に、お手伝いさんとして潜入します。分身の術が使えるんですね、明日香は。
 分身同士で連絡を取る時には、テレパシーで話し合います。一九七〇年代には、携帯電話なんて、ありませんからね。この時代には「超能力」を出さなければできなかったことが、二十一世紀には、科学技術の力でできています。

 カルテットの分裂に成功した後、明日香は、ウォーカー姉弟との超能力戦にのぞみます。この時代の少女漫画には珍しく、戦闘場面があります。
 そう、明日香は、魔法少女であるとともに、戦闘少女でもあります。この点は、先進的です。

 明日香が先進的な点は、他にもあります。彼女は、普段、お手伝いさんでいる時と、超能力を使う時とでは、描かれ方が変わります。つまり、変身するのです。

 お手伝いさんの時は、和服を着ています。髪形は、ロングヘアで、前髪を下しており、目が前髪で隠れています。全体的に、コミカルな感じです。
 超能力を使う時には、セーラー服を着用します。髪形は、ロングヘアなのは同じですが、前髪を上げて、目がはっきりと現われ、美少女になります。

 『ラ・セーヌの星』と同じく、明日香の場合も、変身というよりは、変装ですね。お手伝いさんの格好の時でも、超能力が使えないわけではありません。分身している時に、テレパシーで話し合うのは、お手伝いさんの姿のままで、やっています。

 お手伝いさん以外に、伝統的な魔法少女っぽい点としては、マスコットの存在があります。
 明日香は、ミックという名の猫を連れています。このミックが、マスコットに当たります。ミックは、猫なのに、ヒトの言葉を解しますし、テレパシーも使えます。超能力猫です。

 面白いのは、明日香の変身にともなって、ミックも変身することです。
 普段のミックは、明日香と同じように、目が描かれません。毛で隠れています。
 変身すると、目が描かれ、美猫になります(笑)

 お手伝いさん、マスコットという古い要素に、戦闘、変身、超能力という新しい要素が加わって、『超少女 明日香』は、面白い作品になっています(^^)

 それら以外に、『明日香』には、恋愛要素もあります。ここは、少女漫画らしい点ですね。
 田添家には、高校生の一也という男の子がいます。一也と明日香が恋仲になります。
 しかし、明日香は、砂神一族の一員としての思いが強いんですね。一族の宿命に一也を巻き込みたくないために、一也を遠ざけます。

 芙蓉夫人との一件が終わった後、明日香は、いったん、田添家を去ります。でも、結局、その後も何回も、田添家に住み込むことになります。
 次から次へと事件が起こって、明日香の戦いが止まないために、一也との仲は、なかなか進みません。完結編が描かれたのなら、最後は一也と結ばれたのかも知れませんが、未完ですからね……。



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