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河童アジア考―カッパは人か妖怪か

弟切千隼

河童アジア考―カッパは人か妖怪か

 これは、評価が難しい本ですね。読み手の力量が問われます。
 論理性と、メディアを読み解く能力(メディア・リテラシー)を身につけていない人は、この本から、悪い影響を受けてしまうかも知れません(^^;

 いきなり、ひどいことを書いてしまいました。
 けれども、この本を評価していないわけではありません。
 以下に、理由を書きます。

 この本は、河童について、斬新な視点を提供してくれます。
 河童は、日本の代表的な妖怪ですね。
 しかし、この本は、日本にとどまらず、アジア―主に東南アジア―の視点で、河童を考察しています。

 この視点に関しては、とても評価すべきだと思います。
 その他にも、この本では、「そこは気づかなかった」という視点や、考察が、披露されています。

 ところが、それらの視点や考察には、実証が欠けています。
 物理的な証拠が、何一つ、ありません。

 例えば、「河童とは、○○というアジアの民族がモデルになっている」という考察があったとしましょう。
 ここで、○○という民族が、日本にやってきた証拠―考古学的遺物など―があれば、この考察は、一つの仮説として成り立ちます。
 それが、まったく、提示されていません。

 この本の考察には、他にも欠点があります。
 論の進め方が、牽強付会【けんきょうふかい】です。こじつけめいている、ということです。
 理論とか、仮説などと言えるレベルではありません。

 そういったことを見抜ける人であれば、この本は、有益です。
 河童について考える材料を、いろいろと提供してくれるからです。

 なお、この本が出版されたのは、一九九四年です。二〇一〇年現在からしますと、十五年以上も前です。
 このため、現在ではほとんど使われない差別的表現や、すたれてしまった流行語が出てきます。そこは、時代によるものですから、著者を責めてはいけないでしょう。

 以下に、この本の目次を書いておきますね。

第一章 河童は人か 妖怪か?
 河童への旅立ち
 牛久沼【うしくぬま】の河童
 遠野の河童
 八代【やつしろ】の河童
 潮来【いたこ】の河童
 河童は今も生きている

第二章 河童はファジーな社会システムだった
 河童寺にて
 社会システムとしての河童
 社会変動におけるコンフリクトと妖怪
 弁証法としての河童

第三章 河童は日本人の祖先だった
 ちち・ははのふところへ帰る
 河童の祖先は「閩【びん】」―環境依存文字です。門がまえに虫の字―の国にある
 漂泊神と河童
 天照大神【あまてらすおおみかみ】と海照神【あまてるかみ】そして河童
 香港の水上蛋民【たんみん】
 媽祖【まーつぉ】と天照大神
 漂泊日本列島と稲作水界民
 「河童は私だった」

第四章 「陸地化」と「侮蔑」と香港水上「蛋民」
 河童の原型は香港の水上蛋民?
 古代史と陸地化
 漂海民と水上蛋民
 「陸地化」ということについて
 「侮蔑」ということについて
 河童発生のイメージと構造

第五章 河童のふるさとをたずねて
 香港へ・鄧打士街【たんたしがや】沖の水上蛋民
 アバディーンにて
 マカオにて
 ランタオ島・大墺【たいおう】にて
 北港【ぺーかん】にて
 布袋【ほてい】漁港にて
 アジア漂海民バジャウ・マウケンと綿津見【わだつみ】

第六章 河童は不滅である
 新たな疑問
 妖怪の創作
 河童の俗説の再検証
 民衆の知恵の結晶としての河童

おわりに



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