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線香花火(夏) :

キャンプ(晩夏) / 花火(晩夏) / ロッジ(晩夏)

 線香花火の煙には、苦しい思い出がある。

 物心ついてまもない頃、両親と兄とキャンプへ行った。夜8 時を回ったころであろうか、母は疲れて休み、兄と父と花火をしに外へ出た。傍らには、小川が流れていたようである。線香花火と言えば、手花火の最後に行うものだと思っていたが、父の膝ほどの背丈のものにはじめに渡されたのは、20 本ほどの束に火をつけた線香花火であった。そのような場面は、二度と遭遇したことがない。火がついてまもなく、花火の束は猛烈な煙と閃光をあげ、小さな人間の顔をおそった。小児喘息を患っていた彼は、煙にむせこみ部屋に戻り顔を洗い、うがいをしたが咳が止まらない。ロッジの母とともに休み、不条理だと思った。それ以来、煙を顔に向けてくる人間が嫌いである。

 久しぶりに線香花火をした。煙に燻り出された百足が行ったり来たり、迷惑そうである。寺田寅彦『備忘録』に線香花火を題とした小文がある。火花の過程を美しく描写している。母が散り菊散り菊といったとあるが、その通りだった。最後のしおれた火花が愛おしい。

線香花火松葉散り菊牡丹雪

ぎんが

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