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くまじん【小説 ショートストーリー】

こんにちは。僕は熊のジンです。熊本人です。生まれも育ちも熊本です。

疑ってますね。本当ですよ。熊本に熊はいないって?熊がいるのは動物園だけだろうと。ははあ。これだから素人は困ります。証拠をお見せしましょう。
そうですね。熊本育ちを証明するために、熊本のローカル知識でも披露しましょうか。

まずは土産にも有名な、辛子蓮根《からしれんこん》ですが、あれは普段からは食べないですね。辛子蓮根より、馬刺《ばさし》とかひともじのぐるぐるをよく食べます。え?ひともじのぐるぐるをご存じない?ひともじというネギを茹《ゆ》でて、ぐるぐる巻きにしたものを酢味噌につけて食べるんですよ。キュキュッとした歯ごたえがたまりません。母の味です。

それから、パルコ前の玉。あれ、触っちゃいますよね。もうパルコは閉店しましたが。次は何ができるんでしょうね。ホテルになるとかならないとか。どうなることやら。あ、玉の話でしたね。
あれは噴水の上に大きな石の玉を置いて、水圧だけでくるくる回ってるらしいですね。あの石の玉じゃなきゃ、くるくる回らないそうですね。前に、バレーボール柄の別の玉を置いたら回らなかったらしいですよ。絶妙なバランスで回ってるそうです。
そうそう、あの玉の近くはハトの糞がたくさん落ちてますね。玉に気を取られて踏まないように。

え?熊本育ちの証拠はもういらない?それより、熊本生まれの証拠ですか?いいですよ。
それはですね、ここだけの話、前世で熊本に恋した熊は、来世で熊本生まれの熊人《くまじん》になるんですよ。自分の都合でヒト型とクマ型が自由に選べます。熊本県人の実に三十パーセントは、熊の生まれ変わりなんですよ。だから実質、熊本は熊が仕切ってるんですよ。


根拠は何かですって?いや、あなたも熊だった方じゃありませんか。だって、熊人の私とおしゃべり出来るんですから。
え?違うって?まあまあ、そんなに頭を抱えないで。これから熊本で生活していく極意をお教えしますから。例えば、あとぜきをちゃんとするとか。あとぜきって何かって?ドアを開けたら、最後の人はちゃんと閉めなさいってことですよ。あとぜきしないと、すーすーすーでしょ?え?すーすーすーが分からない?寒いってことですよ。こりゃ、熊本弁辞典を買わなきゃいけませんね。

あ、この生まれ変わりの話、県外では通用しない話ですから。外ではお互い熊人《くまじん》ってこと、隠しておきましょうね。



この作品は小説投稿サイトエブリスタに載せていたものです。

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