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【小説】肥後の琵琶師とうさぎ

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#幻想小説

【小説】肥後の琵琶師とうさぎ14

【小説】肥後の琵琶師とうさぎ14

「私が見ていたのは夢だったのか?」
 私の質問に、毛玉はため息まじりに答える。
「いや、夢を見ていたのは娘の方だ」
 ーー娘の夢?
 私は、いまいち現実味のない現状に困惑し、毛玉と景色とを見比べるしかなかった。
「娘が望んだ夢を、お前と俺が見た。娘は、哀れな琵琶師を救いたかった」
「娘が私を?」
「そうだ。娘は、見目は娘だが、お前の母だった」
 ーー私の母……。
「職を、食事を施されただろう」
 

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【小説】肥後の琵琶師とうさぎ11

【小説】肥後の琵琶師とうさぎ11

娘の琵琶が、夜風に鳴く。
 私の琵琶は、鳴いた夜風を踊らせる。
 ススキが、リンドウが、夜空の星明かりを写しとり、発光する。毛玉が、獣が、跳ね回る。
 産山に生まれた命が、踊る、踊る、踊る。
 私は琵琶を弾き、語る。思い出したこと、産まれ落ちた時のこと。夜風がやみ、ぬくい朝陽が額を撫でるその時まで。

【小説】肥後の琵琶師とうさぎ10

【小説】肥後の琵琶師とうさぎ10

三月ごとに方位を変える神様がいた。この神様の方向へ進むと祟られる。荒ぶる神様。金神様と呼ばれていた。
 私の父がまだ幼かったころの話しである。あるとき、金神様が父たちの村の方へ向かっているとの噂がたった。三月ごとの方位は決まっており、父が暮らす村とは方向が違っていたが、何故だかそんな話が広まっていった。最初は魚売りの行商からだったと思う。
 ーあんたら金神様の怒りに触れたらしかな。
 ーそぎゃ

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【小説】肥後の琵琶師とうさぎ5

【小説】肥後の琵琶師とうさぎ5

 手話などと気のきいたものの生まれる前、私の生まれた田舎じゃ楽器で意思の疎通をはかっていた。
 革のたるんだ太鼓、穴の割れた笛、弦のゆるんだ琵琶。どれもこれもぼろぼろの、どこから手に入れてきたか分からないような古楽器たち。私はあの日、琵琶を選んだ。
 何故、琵琶だったのか。思えばあのとき私の脳裏に浮かんだのは、琵琶を抱えた美しい天女様だった。
 盲目の私が何故。
 産まれて初めて認識した女性が、天

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