見出し画像

日仏デザイン論 ~ フランス人に短いリードを持ってはいけない

現在フランスのデザイン会社に勤めている私ですが、特に働き初めの1年間、仕事をする中でよく言われた言葉があります。それは

「あなたは私のことを信用してないのか?」

でした。

フランス文化にまだ馴染めていなかった当時、このストレートな言葉は結構なショックで、自分が日本で今まで働いて ”培って来た気でいたもの” を根本から考える直すキッカケになりました。

今日はその経緯と、私なりに思うフランス人との上手な働き方(マネージメントの仕方)を書いていきたいと思います。


不安でも遅くても、とにかく待つ

同じチームの同僚と、もうすぐ納期の仕事を一緒に担当していた時のこと。

お互いに担当範囲を分け、期日まで数日という段階まで来ているのに、いつまで経っても同僚が担当しているパートの資料が出来てくる気配がありません。

デスクも近かった為「あ、たぶんこれ、終わってないな…」という肌感覚がありました。

心配になって、

「終わった?まだなら手伝うよ」

「一回擦り合わせする?」

と、日本の感覚で小まめな進捗確認をしました。気持ちとしては善意としての確認であり、同僚の救いにもなるだろうと思っての声かけでした。

一方同僚から言われた言葉が、冒頭にもあった通り

「これの納期は〇〇日、まだ納期は過ぎていない。そんなに何回も聞くのはなぜか?私の仕事を信用していないのか」というものでした。

こう言われてしまっては何も言えず、不安を抱えたままひたすら待つこと数日。結果、納期までに同僚の資料は出来上がりました。

私が思い描くクオリティでは無かったものの、結果を見れば、その同僚は確かに『納期通りに、アウトプットを出した』のです。


日本人は、他人の仕事に完璧を求めすぎる傾向

日系の会社で日常的にある、dailyミーティングやチームでの進捗共有。フランスで働くと驚くのは、チームでデザイン作業をしていたとしても、こういった情報共有の場はまずありません。

ではどう進めているのかというと、「個々人がそれぞれのアウトプットを納期までに持ってきて、それでお終い」というケースが多いです。


一方、日本的働き方として

・チームの勝利に貢献できる献身的プレー

・最終ゴールを高めるための細やかな情報共有能力

これらのマインドはWワーク(重複業務)を避けるためにも非常に効率的で、また何かトラブルがあった際にチームでリカバーしながら最小限の軌道修正で納められるというメリットもあります。

私がフランス同僚とのコミュニケーションで気付いたのは、私がチームで良いものを作ろうと考えるあまり他人のアウトプットに対しても自分の描く完璧なゴールを強要してしまっていたことでした。

今までの仕事を改めて振り返ると、多くの日本人は「ゴールの高みを計画的に目指す」あまり、他人に対しても非常に厳しい目線で物事を進めていたように思います。

また、良かれと思い干渉していたことが、それが逆にフランス人のプロ意識を傷つけていたことにも気が付きました。


フランス人に短いリードを持ってはいけない

そんな経緯もあり落ちこんでいた時、フランス人同僚からの言葉が今でも印象に残っています。

「フランス人に短いリードを持ってはいけない。もっと長いリードを持つことを考えて」

これを聞いたとき、ああこういうことか、とストンと腹落ちできました。

日本的な働き方では短いリードで細かく情報シェアをし、チームとしてのアウトプットを高めていくのがよしとされる傾向です。

一方フランスでは、アウトプットのゴールを共有した後は個々の能力に任せ、遠くでリードを引くような緩やかなマネージバランスが必要だったのです。

また、当たり前ですが何年働こうと私はフランスにおいて「外国人」であることは変わりない事実です。特にデザインという仕事上、” 良い・悪い “ という判断が感性的になることも多く、チームでの仕事は非常にセンシティブな作業。

この一件以降、メンバーの仕事に対して不安があった場合も、極力彼女・彼らの進め方やアイデアを尊重するように心がけています。


リードを辿った先には、思いもよらない飛躍も

このようなフランス式チームのデザインワークは、

・最後までアウトプットが誰にも読めない

ことがデメリットとして考えられます。一方で、

・上手くいけば、最初に想像出来なかった飛躍的な素晴らしいアウトプットができる

こともあるのです。

下記記事でも以前書いたのですが(よければ合わせて読んでみてください)、感性でパッとモノを作る能力に長けた彼女・彼ら。自分の感性に従い作業を進める分、気分次第で修正も多く入ります。締め切りギリギリまで根本に立ちもどったり、大胆な修正を加えることも。

日本人からするとかなりスリリングに感じますが、こんな大胆なことができるのも個人プレーの国ならではだなぁと感じます。

100%を決めないゴール設定

「あなたは私のことを信用してないのか?」

今まで書いた経緯と対極的に聞こえるかもしれませんが、誤解を恐れず言うと、フランスでチームワーク業務をしていて大切だと思う1つは「他人を信用しない」ことだと思います。

言い換えれば、自分自身が他人の成果に期待しないということで、「個々人の能力への信頼」とは別物です。

仮に自分のイメージするゴールを100%とします。

リードを長く持って進めるということは、進めている間に本来のゴールからズレてしまうことが多々あります。それが「吉」と出るか「凶」と出るか、正直コントロールは不可能です。またドライに聞こえるかもしれませんが、他人に期待しすぎると結果『あれ?!』となることもしばしば。

・他人の成果に期待せず、100%というゴール設定をあえて作らない。

・途中で変化していく過程を楽しみながら、個々の能力を信頼し進める。

・その結果で思わぬシナジー効果が出ればさらにラッキー!

これくらいのゆる〜い期待感が、私の考えるフランスで働く良いバランスかなぁと思っています。


また考えをまとめて、記事にしていきたいと思います。

それではまた!


#南仏暮らし #海外生活 #日仏デザイン論 #デザイン #コミュニケーションデザイン #フランス #マネージメント #海外で働く

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?