弾ちゃん、彦星になる
この物語はワールドブルー物語の外伝であり、
ソーシャリー・ヒットマン外伝の外伝でもあります。
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「返送じゃなくて変装だったね」
メールを送ってから誤字変換に気づく。
「食堂のすぬ婆」こと「すぬた」は、ロッカールームで特注サイズのメイド服に着替えた。
今日は「のぞみ・かなえ・たまえ」部が主催となり、メイド喫茶「ラブリーメイドカフェ☆冥土の土産」とのコラボで、年に一度の「七夕大賞」授賞式が行われる。食堂スタッフもメイド服を着用することになっているのだ。
ロッカーの鏡ですぬたは自分の姿を確認した。
「やっぱり……スカートの下はいつものジャージ履いたほうがいいかねえ」
社内では、すぬたは割烹着の下に息子の学生時代のジャージを履いているともっぱらの噂だった。
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ワールドブルー本社最上階のカフェテリアが、今日はきらびやかなパーティー会場に早変わりだ。小さなステージの両側には笹が数本ずつ飾られ、色とりどりの短冊が揺れている。
すぬたはステージ中央にポツンと置かれた、手荷物検査のゲートのような枠組みをじっと見つめた。
「すぬたさん、お疲れ様です」
『お元気ですか?それなら安心いたしました部(通称おなら部 : 広報)』の部長のまるだ。部長みずからメイド服に身を包んでいる。膝上の白いニーハイソックスがまぶしい。
「若い子はいいねえ、似合ってるよ」
「すぬたさん、このプレゼンターの小花(しょうか)さんて『喫茶 花』のマスターの小花さんですよね?企画書を見るとすぬたさんの割烹着を着ることになってますけど?」
「んー、そうらしいねえ」
すぬたは苦笑いする。
そもそもこの「七夕大賞」は一昨年から始まったものだ。ハッシュタグ「#」をつけてつぶやいた願望を、「のぞみ・かなえ・たまえ」部がAIで短冊形式で自動回収しその年の大賞を決定する。決定基準は不明だ。大賞に選ばれたつぶやきは、できるだけ願望に沿ったカタチで賞を授与されるという。
もうじき日が暮れる。授賞式が始まる。
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そのころソーシャリーヒットマンの根来内 弾(ねらいうち・だん)は、いつものようにメイド喫茶にいそいそと入店していた。唯一違うのは髪型だ。すぬ婆は変装しろと言っていた。用心するに越したことはない。弾は髪の毛をグリーンとシルバーに染め、黒いマスクをし、首から上はまるで動画サイトの歌い手のようだった。
いつものように「ベリーキュートプリンセスのラブリーベリーパンケーキ」を注文し、指でハートを作りメイドと一緒に唱える。
おいしくな〜れ! 萌え萌えキュン♡
その瞬間、弾の視界がぐにゃりと曲がり、全身にブワッと圧力がかかり大きな渦のようなものに巻き込まれた。
目の前のもやが晴れると、弾はまばゆいライトに照らされたステージに立っていた。
口はあんぐり、でも手は萌え萌えハートのままだ。
ステージの周りにはフラッシュをたく報道カメラ、その向こうに大勢の観客もいる。
「2024年度 七夕大賞は アンザイ・ダンさんの、
結婚してくれ 結婚してくれ 結婚してくれ
です!!」
ダンは目を見開く。は?なんのはなしだ。
「アンザイさんにはドッキリで、メイド喫茶『ラブリーメイドカフェ☆冥土の土産』から転送装置で来ていただきました」
モニターには今まで弾がいたメイド喫茶が映し出されている。
弾は「萌え萌えキュン」の場面もこのモニターで見られていたのを瞬時に察した。
「アンザイさんには大賞のトロフィーと彦星コスプレ一式が贈られます」
ステージ上に見たことがある女性が現れた。
「プレゼンターは『喫茶 花」の小花(しょうか)さんです」
なんということだ、小花さんが割烹着を着ているではないか!
わけがわからないまま小花さんからトロフィーとコスプレ衣装の紙袋を受け取る。
弾にマイクが向けられる。
「感想を一言どうぞ」
「えっあっ……おっふ」
会場から押し殺したような笑いとパラパラ拍手が聞こえた。
……なんということだ。
ソーシャリーヒットマンの俺が、
ソーシャルに殺られてしまうなんて。
もつれる足で導かれるまま受賞者席へ向かう。
なんとか立て直せないか。いやそもそもここはどこだ。
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弾ちゃん、髪の毛グリーンとシルバーかい。
何やっても似合うねあの子は。
あ、あたしに気づいた。
さすがだね。メイド服のあたしを見抜けるなんて。
すぬたは人混みをお尻でかき分けて会場の外に出た。
通路に置かれた台車の脇にしゃがみ込み、すぬたは使い終わったグラスや皿を並べている。
「大賞おめでとう」
会場から出てきた弾に小声で言う。
「ちっ!すぬ婆、なんてカッコしてるんだよ」
弾もすぬたの方を見ずに小声で答える。
「これはどういうことだ」
「あんた『喫茶 花』でつぶやいただろう。あれにはハッシュタグがついてたのさ」
口から発するつぶやきにもハッシュタグがつくだと……?
「気をおつけ。ワールドブルーの技術はなめない方がいい。あ、そうだ。彦星は年に一度しか織姫に会えないじゃないか。残念だったね」
すぬ婆はこちらを見てニヤッと笑う。
いつもの割烹着のくせでミニスカートで手を拭きながら立ち上がる。
一瞬、下に履いてるブルーのジャージがあらわになった。腰のところに刺繍で名前が縫い付けられているのを弾は見逃さなかった。
刺繍はかなりほどけていたが
「蒼……木?林?」
どっちだ?どういうことだってばよ?
(おしまい)
◾️すぬ婆より
弾ちゃんに「おっふ」と言わせたい長年の夢が叶ったよ。
◾️おすぬより
ヒットマン=暗殺者→アンザイにしました。
まるさん、小花さん登場してくださってありがとうございます🎶
外伝の外伝の外伝ですので、本編とは別腹でお楽しみいただけたら嬉しいです。
ふりがな機能が不慣れでできてません、すみません。
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いつも楽しませていただいてます。ありがとうございます。
🔹サイトマップを作ってくれる有能な秘書ゆにさん
🔹ウィークリーレターを出してくれるマイトンさん
後半に、これまでの舞台設定や人物をまとめてくださってます
🔹ヒットマン根来内 弾の生みの親アルロンさん
シリーズたくさんあります。毎回おもろいです。
例のつぶやきをつぶやいた回はこちら
🔹「喫茶 花」小花さん
小花さんの過去が明かされる衝撃回!
私のこの外伝ともつながりそうでうれしい♡
最新の陰謀渦巻く本編は
🔹波さん
🔹マイトンさん
🔹蒼社長はこちら
ついにタグ数で蒼井優さんを抜いたそうです。おめでとうございます!
こちらでは「ゆにバ」計画が語られてます
それではこれにて!
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