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敬愛するクリエイティブディレクター/#2 有元沙矢香氏

はじめに

このシリーズでは、私自分が好きな広告を制作したクリエイティブディレクター(以下、CD)を取り上げていく。
第二回目は電通Zero所属の有元沙矢香氏だ。
※ここでのCDは会社内での役職ではなく、各施策における役割を指す。

ちなみに第一回目は田中直基氏について取り上げた↓
https://note.com/osugi_agency/n/nb476a6ef3057

なお、私自身はCDや広告について昔から研究しているわけではない。
もし間違いなどがあればご指摘いただければ幸いだ。

有元沙矢香氏とは

有元沙矢香氏とは、日本のクリエイティブディレクター/コピーライター/プランナー。電通Zero所属。直近では、ドラえもん「STAY HOME PROJECT」やM-1グランプリプロモーションを手掛けるほか、広告だけではなく歌手のJUJUのMVといったコンテンツの制作もしている。

詳細は電通報のページから、以下の通り引用する。

有元 沙矢香
株式会社 電通
zero コピーライター / プランナー

1985年兵庫県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。「君の名は。」地上波放送プロジェクト、ドラえもん「STAY HOME PROJECT」「#今年夫婦になったふたりへ」「のび太くん、ネズミはもういない?」、M-1グランプリプロモーションなどコンテンツやメディアを絡めた企画を多数担当。嘘をつかない、背伸びしすぎないコピーライティングを心がけている。2020年TCC賞、D&AD Yellow Pencil、ACCBC部門グランプリ、カンヌゴールドなどを受賞。
最終更新日:2021年04月26日

電通報より参照
https://dentsu-ho.com/people/1530

私が好きな有元氏の作品

①ドラえもん「STAY HOME PROJECT」

ドラえもん「STAY HOME PROJECT」

感染症拡大直後の2020年4月29日外出自粛のゴールデンウイークに向けて発信された広告だ。急激な変化が社会にもたらされ、「こんな生活がいつまで続いてしまうのだろうか」と不安に思った人間は世界にごまんといただろう。そんな中、未来から来たネコ型ロボットのドラえもんが、「未来は元気だよ」と「今一時の頑張り/踏ん張り」を後押ししてくれる。

更に、この施策は8か国語に翻訳され、日本だけでなく世界の人々の心の支えとなるようなクリエイティブになった。

8ヶ国語に翻訳された新聞広告
電通報「多様化する価値観の時代に、広告はどう向き合えるのか?」より引用
https://dentsu-ho.com/articles/7753

以下キャンペーンの詳細ページ。

②2021年も「ドラえもん50周年」

2021年も「ドラえもん50周年」

この2021年に公開された新聞30段広告は、本来50周年だった2020年だけでなく翌年の2021年も50周年として扱うというものである。
この新聞広告のギミックはいくつかあり、わかりやすいところが以下の二つだ。

1.「コロナのせいで今年もやります」というような表現はせず、
2020年はドラえもんが嫌いな”ネズミ”年だったと理由付け
3.50の0の中が1にも見えるロゴ

2020年の50周年を満喫しきれずショックを受けていたファンに対して、単なる補填をするということではなく、”ネズミ”年というドラえもんらしい理由付けを含めてファンを楽しませる・納得させる非常にうまい切り口だったと感じる。

その他にもBIGやM-1グランプリ、歌手のJUJUや安室奈美恵といった数多くの施策を取り上げたいが、別の機会にしたいと思う。

私が有元氏を好きな理由

有元氏の施策がなぜ個人的に刺さるのか以下の3点にまとめてみた。

①徹底的な「顧客(ステークホルダー)目線」
電通報の記事によると「自分の中だけで答えを探さない」ことが企画のスタンスであると有元氏は語っている。

私、自分にとがった個性がないのがコンプレックスで。すごく普通の人なんですよね。影響を受けやすいし、流されやすい。でも、だんだんそれでいいかと思うようになって、今は、「自分の中だけで答えを探さない」というのが、企画を立てるうえでの私のスタンス。
具体的には、周りの人たちが対象の商品に対してどういう興味を持っているのか持っていないのか、ファンの人はどんなきっかけで好きになって、どこが好きで、今どんなふうに思っているのかなどの心の動きを結構しつこく聞きます。人が何かを好きになるってすごいエネルギーなので聞いていて飽きません。

電通報
プランナー・有元沙矢香「特徴のない私がたどり着いたクリエーティブのスタイル」より引用
https://dentsu-ho.com/articles/6298

更に同記事では「関わった人みんなが幸せになれる作品を作り続けたい」とも述べており、「顧客目線」ではなく「ステークホルダー目線」といえる考え方なのだろう。
クライアント、そしてその先の顧客、演者含めてすべてのステークホルダーを幸せにしようとするこだわりが、クリエイティブにも反映され共感を得やすくなっているのだと思う。

また、インサイトの考え方としては、以下のようなものを駆使しているようだ。
 →身近な人、ターゲットに近い人へのインタビュー
 →ソーシャルハンティング(ソーシャルメディア上での反応の事前確認)


田中氏の記事の時にも記載したが、広告はアーティスト活動ではなくクライアントからお金をいただきクライアントのビジネスを拡大するために実施するものである。その点で、自己満足にならない地に足がついた企画ができているのではないだろうか。

ちなみに、有元氏のやり方を真似してユーザーインタビューだけしても、様々な情報を収束させたり、そこから示唆を出すのが相当困難だと予想されることから、個人的にはこれができる有元氏は非常に尖った特徴があるように思う。

②コピーライティング
有元氏のコピーは①のユーザーインサイト分析のおかげもあってか、ユーザーに合わせた表現方法で作られている。
キャッチコピーで驚きや興味をしっかりとキャッチしつつ、ボディコピーではユーザーに寄り添う語り口で、伴走・共感を感じさせるように作られている。
前述のStay homeや50周年施策のコピーもさることながら、以下の2キャンペーンも同様の事例といえるだろう。

のび太になろう。
https://www.tcc.gr.jp/copira/id/2021095/?writer=11012016
人生を変えるには、 優勝するしかなかった。
https://www.tcc.gr.jp/copira/id/2020734/?writer=11012016

③(田中直基さんと同じく)「ちょうどいい」ゾーンに当てはまる
→TCCに登録されている実績を見ても、あまり尖りに尖って消費者が理解できないような広告は作らない傾向に思える。

一方で、「ドラえもん Stand by me」や「君の名は」の新聞広告のように、「表面と裏面を透かすと絵が完成する」、といった洒落たギミックを用いる。M-1グランプリの動画でも、動画の情報量を視聴者が一度見ただけではわからない程に増やして、視聴者たち自身にコンテンツの理解に参加させる、といった仕掛けも秀逸だった。

このように、尖りすぎずコンサバすぎず、私たちユーザを楽しませてくれるところが非常に惹かれるポイントだ。

最後に

「だいじょうぶ。未来は元気だよ。」
2020年4月29日に公開されたコピーだが、約3年を経て本当に「元気な未来」の兆しが見えている。
JR東海の「会いにいこう」CMしかり、今年は行動を活性化させるスカッとした広告が活性化するだろう。
(ここ数年は「とはいえ密を避けよう/出かけるのはやめよう」という懸念が消費者につきまとまとった印象。)

今年のゴールデンウィークは「のびのび冒険するのび太」の広告クリエイティブが見れそうかな?

有元さんの仕事には今後も注目して勉強させていただきます。
ありがとうございました。



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