AIと民主主義 経済研究者 友寄英隆さん(4)人類的視点でリスク整理〜すべてがNになる〜

2024年5月17日【経済】

 国連は、人権を守り発展させる視点から人工知能(AI)をとらえた取り組みを強めています。AI格差(AIの開発や利用の格差)をなくして、AIは人類すべての人権を守り向上させるものでなければならないとうったえています。
 国連総会(193カ国)は3月21日、世界のすべての人々にとって持続可能な恩恵をもたらすような「安全、安心で、信頼できるAIシステムの推進」に関する決議を採択しました。AIについては初めての総会決議です。

「オン」でも権利

 決議は、すべての加盟国と関係機関に対して「国際人権法を順守した形での運用が不可能な、あるいは人権の享受に過度のリスクをもたらすようなAIシステムの使用を抑制・中止する」ことを求めました。「人々がオフライン(インターネットにつながっていない状態)で有する権利は、AIシステムによるオンライン(つながっている状態)でも保護されなければならない」ことも確認。国家間での技術開発の水準に格差があることを踏まえ、デジタル技術を適切に活用するためのデジタル・リテラシーを途上国で向上させられるよう支援することを要請しています。
 国連は「いま世界にはさまざまなAIについて検討する機関があるが、それらはすべて一握りの大企業や一部の国に集中しており、それがグローバルな不平等を深刻化させ、デジタル格差を亀裂へと変えてしまうおそれがある」(23年10月26日、グテレス事務総長)と懸念しています。
 国連は世界各国から選ばれた真に公平で中立的な39人の専門家で構成される「国連AIハイレベル諮問機関」(日本からは2人参加)を設立し、12月21日に最初の検討結果の中間報告書「人類のためのAI統治」を公表しました。中間報告の特徴は、なによりも「人類的視点」に立ち、AIの可能性と危険性の両面を人権の立場から深く検討し、その潜在的リスクを30項目に整理したことです(表)。
 中間報告は次のように指摘しています。
 「国連憲章、人権宣言、国際法(環境法や国際人道法を含む)へのコミットメント(国際公約)を含む規範は、AIにも適用されるべきである」、「国連は、世界的な経済、社会、健康、安全保障、文化の状況にAIが及ぼす影響を考慮する立場にあり、これらはすべて、人権と法の支配の普遍的な尊重と実施を維持する必要性にもとづいている」。

深刻かつ破滅的

 昨年11月には、世界28カ国が参加した国際会議「AI安全サミット」が英ブレッチリーで開かれ、従来のAI倫理の枠を超えた、AIによる「深刻かつ破滅的な危害」の防止を視野に入れた「ブレッチリー宣言」を発表しました。同会議の座長を務めたAI研究で名高いカナダ・モントリオール大のヨシュア・ベンジオ教授は「日経」(電子版23年12月26日付)のインタビューで次のように話しています。
 「AIをコントロールする人間は大きな力を持つ可能性がある。その力は一義的には経済的な力だろうが、政府と結びつけば政治的・軍事的な支配にもなり得る。AIシステムのコントロールを巡る権力闘争が起こるだろう」(つづく)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?