AIと民主主義 経済研究者 友寄英隆さん(3)「内心の自由」に影響も〜すべてがNになる〜
2024年5月16日【経済】
人工知能(AI)と民主主義について考えるうえで、新聞、放送、出版などのメディアの果たす役割はきわめて重要です。とりわけ知的財産権制度のあり方をめぐるメディアとAI企業との係争が注目されています。
生成AIの開発企業は、メディア各社の記事などをAIに学習させて文書や画像を生成しています。もとになるデータをインターネットから引き出すさいに、新聞記事などの著作権侵害にあたる可能性が指摘されています。
2023年12月には、米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)が、同社の数百万本の記事を生成AIの学習用データに無許可で使用したとして、生成AIのチャットGPTを開発したオープンAI社と同社に出資するマイクロソフト社を著作権侵害で提訴。数十億ドルの損害賠償を求めました。オープンAI社とNYT社の激しい論争が続いています。
学習パラダイス
日本の著作権法は、技術革新を優先させて、著作権者の権利を制限する法規定が特徴です。AIが大量のデータを取り込むことも原則自由で、「日本は機械学習パラダイスだ」などといわれています。
こうしたなか、日本新聞協会は、著作権法を改正して著作権者が生成AIによる報道記事の学習を拒否できる仕組みなどを求めました。(23年10月30日「生成AIに関する基本的な考え方」)
著作権法を所管する文化庁は今年2月、現行法のもとで生成AIの開発や利用での権利侵害に一定の歯止めをかけるとした「AIと著作権に関する考え方」を取りまとめました。
一方、内閣府ではAIの知的財産権に関する検討会の「中間とりまとめの骨子案」(4月22日)で、著作権法以外の法律で保護されている意匠権や商標権といった知的財産権のAI学習には原則、権利侵害は発生しないと確認しています。
デジタル技術の発展、とりわけ最先端のAI開発は知的財産権の制度のあり方にかかわる問題を生み出しつつあります。
AI以前にも、いわゆる「コピペ(コピー・アンド・ペースト)」技術の進化は、他人の著作物の権利に対する道義的な感覚を薄れさせ、著作権違反の犯罪との境目をあいまいにしてきました。将来、AIが自律的に活動して創作した作品の知的財産は、いったい誰に所属するのかという問題も生まれるでしょう。
知的財産問題も
AIの進化による現行の知的財産権をめぐる問題は、人間の知的創造活動を私有財産として扱う制度そのものがはらんでいる矛盾です。
日本国憲法は「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」(第19条)として「内心の自由」を宣言しています。「内心の自由」は、個人が自分自身の考えや信念、感情などを自由に持ち、自由に表現できることであり、外部からの制約や圧力に左右されず、自己決定できることです。個人の精神的な独立性や個性を尊重する民主主義の前提条件です。
今後、AIが人間の創造的活動、自由な表現活動、自由な意思決定過程にも関与するならば、人間の「内心の自由」にも影響が出てくる可能性があります。(つづく)
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