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溶ける公教育 デジタル化の行方(2)データは集中するけれど…〜すべてがNになる〜

2022年5月6日【政治総合】

 大阪府箕面(みのお)市は、政府が目指す「こども家庭庁」や「こどもデータベース」の先進事例としても注目されています。貧困の連鎖を断ち切るとして、同市在住の0~18歳の家庭状況や学力情報などを教育委員会の担当部局に集中し、コンピューターで判定する「子ども成長見守りシステム」です。2017年に始まりました。

養育情報

 対象年齢の子どもは約2万7千人。そこから、まず「生活困窮世帯」の子ども約4700人をリストアップし、コンピューターで支援の必要度を判定します。生活困窮世帯の抽出には生活保護、児童扶養手当(ひとり親)、就学援助システム、非課税階層という経済情報と、虐待相談システムなどに基づく養育情報が使われます。

 さらに12年から実施している「ステップアップ調査」の結果も加わります。調査は公立小中学校のすべての子どもを対象に、毎年、学力、体力、生活状況の経年変化を調べるもの。将来、学力低下で貧困状態に陥る可能性の高い子どもを見守り対象に加えるためだといいます。

 一方、同市の教師からは調査への恨み節が聞こえてきます。「毎年4月は体力調査で体育の授業がつぶされ、学力調査の成績を上げるため授業で過去問をする学校もある。その割に調査結果は役に立たず、活用もされていない」(ベテラン教員)

 調査と見守りシステムはどちらも教科書会社大手・東京書籍との提携事業です。見守りシステムは、同社が開発したプログラムに子どもの経済状況や学力などの情報を入力すると、自動的に支援の必要度が出てくる仕組み。判定作業は市役所に置かれたパソコン内で完結します。

 支援が必要とされた子どもの判定結果は、市役所の関係部局のほか、子どもが在籍する学校にも共有されます。市の担当者は「経年変化で子どもを見ることで、急に状態が悪化した子どもを拾うことができる。見逃しがないことが大事だ」と強調します。

 貧困対策の先進自治体をうたう同市。しかし日本共産党の村川まみ市議は疑問を呈します。貧困対策のコントロールタワーとされる子ども成長見守り室の職員は2人。虐待事件に対応する児童相談支援センターも非正規職員が多く、継続支援に困難を抱えているといいます。党市議団が3月議会で提案した学校給食費の就学援助の所得基準引き上げも、自民、公明、維新などに否決されました。

 村川市議は、同市の就学援助の所得基準が他自治体と比べ際立って低いことを示し、「引き上げに必要な予算は年500万円。物価上昇を受け緊急支援策として提案したのに」と悔しがります。

同意不要

 生活保護情報などの目的外利用を懸念する声もあります。個人情報保護法は行政が持つ個人情報の目的外利用を原則禁じています。同市は15年に条例を変え、市の個人情報保護制度審議会が認めた情報は本人同意なしで目的外利用できるようにしました。見守りシステムもこの条例改定を根拠にしています。

 自治体の情報政策に詳しい自治体情報政策研究所の黒田充氏は「生活保護や虐待相談など利用に特別な配慮が必要な個人情報も判定に使われており、条例を変えれば本人同意が不要というのは乱暴。目的外利用について子どもの保護者に丁寧に説明し、同意を得ることが不可欠」と言います。(つづく)

子ども成長見守りシステム 収集情報一覧

生活保護、児童扶養手当、就学援助、虐待相談、保健指導相談、住民記録システム、学齢簿システム、ステップアップ調査、幼稚園保育所システム、学童保育、学力保障・学習支援、教育相談、養育支援訪問、訪問型家庭教育支援、青少年指導センター相談、フレンズ(適応指導教室)、日本語指導、医療費助成(子ども)、医療費助成(ひとり親)、医療費助成(障害者)、要連携生活相談システム情報、市の奨学金

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