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オープンソースの発展には、“あなたの貢献”が必要だ。アカツキの「貢献して当たり前」なカルチャーに迫る

「才能が公正に評価され、どこでも誰とでも働けるプラットフォームを作る」–––オープンソースプロジェクトのための報賞金サービス『IssueHunt』を開発・運営するBoostIO株式会社のミッションを達成するためには、いかなる社会変革が必要なのでしょうか。オープンソースを日本の“文化”へと昇華させるべく、先進的な取り組みを行う企業に話を伺っていきます。

今回は、株式会社アカツキでVP of Engineeringを務める湯前慶大氏、モバイルゲーム事業部に所属するエンジニアの関山友輝氏にインタビュー。初のIssueHuntのスポンサーとして名乗りを上げてくれた同社は、全エンジニアにオープンソースの研修を受けてもらったり、コントリビューションをお互いに褒め合うカルチャーが醸成されていたりと、社を挙げてOSSの普及に取り組んでいます。BoostIOのCo-founder/CEOである横溝一将が聞き手となり、アカツキのオープンソースへの取り組み内容から、ボードメンバーから全幅の信頼を得ている「貢献して当たり前」のカルチャーまで伺いました。

構成:小池真幸モメンタム・ホース) 写真:Photo TAISHO

オープンソースに対する“優しい”まなざし。貢献を互いに褒め合う、アカツキのエンジニアカルチャー

横溝一将(以下、横溝):アカツキさんは、オープンソース開発者たちの支援を目的とした「IssueHunt Membership」 への参加に、一番最初に名乗りを上げてくださいました。本当に感謝しています。湯前さん、関山さん、本日はよろしくお願いします。まずはIssueHuntを知ってくださったきっかけを教えていただけますか?

株式会社アカツキ VP of Engineering・湯前慶大氏
2010年に新卒で大手電気メーカーの研究所に入社。Linuxカーネルのアップストリーム活動に従事。2014年10月に、クライアントエンジニアとして株式会社アカツキに入社。2015年7月よりプロジェクトマネージャーとして、ゲーム開発にAgileの手法を導入。2017年4月よりVP of Engineeringとして、エンジニア組織のマネージメント業務を行いながら、最高の組織づくりに日々奔走している。

湯前慶大(以下、湯前):アカツキの技術顧問に紹介してもらいました。チラ見しただけで「すごい良さそうだ」と思いましたね。僕自身オープンソースに助けられたことも多かったですし、キャリアを形成するうえでもポジティブな影響を与えていた。また会社としてもオープンソースにすごくお世話になっていたので、「もっとオープンソース貢献を活発化させたい」という想いを醸成していたんです。特に新卒のエンジニアたちに、オープンソース活動に積極的になることで、キャリア形成に活かしてほしいと思っていました。

とはいえ直接的な報酬がもらえないがゆえに、なかなかその良さを理解してもらうのは難しい。そんな悩みを抱えていた折にIssueHuntに出会い、「まだオープンソースに積極的でないメンバーや新卒のメンバーが、一歩踏み出すモチベーションになりそうだ」と、会社として支援することを決めたんです。

これからの時代、企業名ではなく個人名で活躍するのが当たり前になっていくと思うので、個人の活動を制限したくないと思っています。一方、僕はそれでも企業にいることの価値を押し出していきたいので、各々がやりたいことを追求できる会社にしていきたい。IssueHuntはまさにそれを実現出来るサービスだと思っているので、これからも応援していきたいです。

横溝:本当にありがとうございます!とてつもない速度で後援をご決断いただき、正直驚いてしまいました。

先日湯前さんとお打ち合わせをさせていただいた際に、社内でとても興味深いオープンソースの取り組みを社内でされていると伺ったのですが、改めて教えていただけますか?

湯前:大きく分けて2つあります。まずオープンソースの貢献に対するハードルを下げるために、全エンジニアに研修を受けてもらいました。すると「こんな簡単なことでも貢献になるんだ」と理解してもらえ、自分で作ったツールをオープンソースにして公開する人も現れましたね。

もうひとつは、Slackにオープンソースのチャンネルを作成し、「ここにプルリク投げてみたよ」といった報告をしてもらっています。投稿に対しては、みんながリアクションボタンを押しまくっていて、優しい世界になっています。

株式会社アカツキ Mobile Game Guild エンジニア・関山友輝氏
2006年に新卒で大手電気メーカーの研究所に入社。LinuxカーネルやOpenStackのアップストリーム開発に従事。2017年3月に、サーバーエンジニアとして株式会社アカツキに入社。モバイルゲームのサーバーサイド、インフラの開発に従事しつつ、オープンソース活動の推進にも携わる。

関山友輝(以下、関山):「こんなの公開しました!」と言ったら、みんながハートのスタンプをたくさん押してくれますよね(笑)。ただお互い褒め合うだけのやり取り。

横溝:めっちゃいいですね!うちの会社でもやりたい。

関山:アカツキでは、使っているオープンソースのライブラリに対して問題点を報告したり、不足している点を改善することで還元したりもしています。結果、採用された事例も多数ありますね。特に、ゲームのサーバサイドのシステムでは、大量のリクエストを受け付けながらヘビーにライブラリを使うので、遭遇する問題点も多い。だからこそ、できるだけフィードバックして、オープンソースに貢献できるように心がけているんです。

「貢献して当たり前」ボードメンバーも、エンジニアに全幅の信頼を寄せる

横溝:企業として、オープンソースに対する貢献を賞賛する文化を作られているのですね。
さまざまな企業で「業務中にオープンソースへの貢献を許していいのか?」といった議論も見られ、貢献を良しとすることを文化として根付かせるのは簡単ではないと思うのですが、アカツキさんはそうしたカルチャーをどのように作り上げたのでしょうか?

関山:最初からそこまで強く推奨していたわけでもないのですが、徐々に貢献する人が増えていった気がします。

湯前:実は、関山と僕は前職が同じだったのですが、そこでもオープンソース活動を推進していました。だから僕らとしては、オープンソースを積極的に推進することが、当たり前のような感覚はありましたね。

BoostIO株式会社 Co-founder/CEO 横溝一将
大学在学中にシステムやアプリケーション受託の会社を福岡で起業しその後上京。
その後会社として作っていたBoostnoteをオープンソース化し、現在はGitHubスター約15,000を獲得している。
共創してくれているコミュニティの方々に何か恩返ししたい思いや、オープンソースエコシステムが抱える課題をIssueHuntに落とし込み、グローバルなメンバー達とともに世界へ挑戦している。

横溝:オープンソース活動の推進には、ボードメンバーからの理解も不可欠ですよね。「お金にならないし、誰かが貢献すればいいじゃん」と、経営層の理解を得られない話もたまに耳にします。何か経営陣の方々に交渉をされたのでしょうか?

湯前:初めからCTOも「社会や業界に貢献しそうなライブラリやツールは、積極的にOSSとして世の中に出したい」というスタンスでしたし、ボードメンバーからは「さすがにビジネスロジックまでは公開しないだろう」と信頼してもらえていました。かなり自由にやらせてもらっていますね。

関山はじめ、たくさんのメンバーがオープンソース活動を実施してくれたことで「貢献して当たり前」という空気が醸成されていましたし、何年も前からRuby AssociationのPlatinum Sponsorになっていたこともあり、オープンソースコミュニティの貢献に対する理解も深かったのだと思います。

横溝:すごいですね…。アカツキさんのような企業が増えると、日本のIT産業のレベルがもっと高まると思います。

少し違った側面から質問をしたいのですが、上場企業として、オープンソースへの取り組みに関しては何らかのリスク管理などはされているのでしょうか?

湯前:最低限のセーフティーネットは敷いています。法務と話をして、「バグ改修などであれば、特許侵害にはなり得ないよね」「既存のソフトウェアの使い勝手を改善したくらいなら、侵害にはならないよね」などとすり合わせたり。

ただ基本はアカツキとしてではなく、個人として出してもらっているので、裁量に任されているイメージです。個人として活動してもらっているからこそ、その人の成果になりますし、会社の評価に縛られずに活動出来るのはメリットだと感じています。

関山:会社によっては、「個人で勝手に取り組まれてしまうと、ガバナンスが効かないから困る」「プレゼンスを上げるためにも、むしろ会社として取り組みたい」といったケースもあります。会社のポリシーや、オープンソース推進の目的を鑑みて、バランス良く関わり方を決めなければいけません。

「やりたい」気持ちで成り立っている。オープンソースコミュニティの、さらなる拡大に向けた課題とは?

横溝:BoostIOは3年ほど前から「Boostnote 」や「Prismy」といったオープンソース開発に取り組んできましたが、持続可能性やメンテナンスの引き継ぎなど、さまざまな課題が見えてきました。お二人の考える、オープンソースコミュニティの素晴らしさ、そして課題について教えていただけますか?

湯前:オープンソースは、「やりたい」気持ちで成り立っている点が素敵だと思います。誰かの指示ではなく、自分たちが使っていくうえで感じた「もっと機能を追加したい」「クオリティを上げたい」「メンテナンスが悪くなりそうだから、クリーンアップしたい」といった気持ちを、みんなで実現していくのは素晴らしいですよね。

湯前:一方で、誰の指示も受けないがゆえに、メンテナンスが不足すると使われなくなってしまう点は課題に感じています。更新頻度が高いと不安定に見えるかもしれませんが、駒の回転が止まると安定が崩れるのと同じように、動きが止まってしまう方が不安定になります。「最後の更新が3年前」といった状況だと、誰も使わなくなってしまう。一度止まってしまうと二度と進むことはない、もしくは誰かがひっそりとメンテナンスせずに使うことになってしまうのは、非常にもったいないと思います。

関山:メリットは果てしなく大きいですよね。そもそも我々が作っているプロダクトは、オープンソースがないと絶対に成り立たないですし、もはやオープンソースなしの世界は考えられません。また人びとの善意で出来上がっている点も素晴らしいです。

ただし速度についていくことが求められる世界ゆえに、メンテナンスに飽きてしまうとプロジェクトが止まってしまうのは、課題だと思っています。たとえばRubyでプログラムを書いていたとして、Rubyがアップデートされた瞬間、その更新に追従するコストが発生します。「止まった時点で終わり」の世界を属人的に維持していくのは限界があるので、継続性を担保するための方法は考えていかなければいけません。

横溝:本当におっしゃる通りです。バージョンが変わったりする度に学び続けないといけないのは大変ですよね。その点が面白くもあるのですが。

それほどキャッチアップが大変であるにも関わらず、オープンソース開発者はまだまだ企業内で適正に評価されていないと感じています。評価を高めるために、企業はどう変わっていくべきだと思いますか?

湯前:難しいですよね。そもそも一定の資金的余裕がないと、オープンソース活動にリソースを割くのは難しいので、まずは企業として“稼ぐ”ことも大切です。稼いで初めて、オープンソース活動に取り組む余裕が生まれると思います。

またOSS活動のメリットを発信することも大事です。例えばオープンソース活動によってエンジニアの採用が増えた事例を発信できたら、「うちもやろうかな」と思う企業が増え、いい流れができてくるのではないでしょうか。

オープンソースは、誰かの貢献がないと成り立ちません。タダで自由に使ったり、自分たちのビジネスのためにちょっとしたソースコードの改変で済むのも、貢献してくれている人がいるから。だからこそ他人任せにせず、各々が貢献していく流れが出来ると素敵ですよね。

また経営陣の「自分たちのビジネスの軸が世に出ちゃうのではないか」といった懸念を払拭するためにも、権利関係の知識などを広め、ハードルを下げていくことも大事だと思います。

関山:企業からソフトウェアを実際に公開しようとするとなると、「法律的にどうなの?」「特許的に大丈夫なの?」など、いくつもハードルが出てきます。そうした障壁を一つひとつクリアしていくためにも、他の企業がオープンソース活動に至った事例がもっと公開されていくべきだと思います。

横溝:そもそもオープンソースを企業内での評価指標に入れるべきなのか、もし入れるべきであればどのような仕組みを構築すべきなのか、お二人のご意見を伺えますか?

湯前:僕自身もここは悩んでいるところで、企業の中でも評価される仕組みを作りたいと思っています。とはいえオープンソース活動がどの程度会社に寄与するのかをいつも説明できるとは限りません。さらに言うと、オープンソース活動を積極的に推進するような人は、会社としても直接的なビジネス価値が高い部署にアサインしたほうが短期的なリターンが大きい傾向にもあります。企業活動とオープンソース活動が完全にイコールになるような業務がいつもあるわけではないので、仕組みづくりは難しいですが、挑戦はしていきます。

関山:オープンソース貢献が企業に与えるメリットを理解してもらうには、まだまだハードルが高いですよね。そのためにも、先ほど湯前も言っていたように、直接的であれ間接的であれ、事例をどんどん作って発信していくことが、個人に向けてのアピールにおいても大切だと思います。

横溝:たしかにオープンソースが生む効果は、まだまだ知られていないですよね。基本的な質問に立ち返りますが、オープンソースへ貢献することで、コントリビューターの方にどんなリターンがあるとお考えでしょうか?

湯前:たとえ社内で評価対象になっていなかったとしても、オープンソースに貢献することで、その人自身のキャリアのためになると思います。大小問わず、自発的に問題を見つけて解決したことは、学習意欲の高さを示すことになりますし、キャリアを形成するうえで非常に大事だと思います。

横溝:めちゃくちゃ賛成ですね。僕たちも、2年前からずっとコントリビューションしてくれていた海外のエンジニアの方にジョインしてもらったり、Boostnoteへ貢献してくださっていた方を採用させていただいたりしてきました。

関山:付け加えるなら、社外のエンジニアコミュニティとのつながりができる点もメリットだと思います。勉強会などに参加する機会が増え、社外のつながりが増えていきますから。

広い視野で物事を捉え、自発的に課題発見と解決に取り組めるエンジニアが理想

横溝:ありがとうございます。最後に、アカツキさんが求めるエンジニア像を教えていただけますか?

湯前:自分で課題発見と解決ができる人に、来てほしいと思っています。「誰かに言われたからプルリクを投げる」ではなく、息を吸うように「自分でこれをやりたいから」「自分でこれをやらないと解決しないから」といった思考や動きを取れる人がいいですね。オープンソースと同じです。

関山:広い視野で物事を見て、全体的により良い仕組みを作っていけるエンジニアに仲間に加わってほしいです。オープンソースへのコントリビューションも、出発点は「自分が困ったから」かもしれませんが、しっかりとフィードバックして根本的に改善することで、自分を含めたみんなにメリットが生まれますから。

湯前:アカツキは主にゲームプロダクトを手がけていますが、1個のゲームを作るのに何年もかかりますし、運用となるともっと長い年月がかかる。ひとつのプロダクトを始めたら長く開発を続けなければいけません。だからこそ、長期的な目線で課題を解決出来るエンジニアや、オープンソースの課題を見つけてしまったら呼吸をするように活動に取り組めるエンジニアを求めています。少しでも気になった方は、ぜひお話ししましょう。

株式会社アカツキさまでの新人研修の一環としてOSS Gateワークショップを実施しました

・ご興味がある方はこちらから:アカツキのエンジニアが大切にしていること

(了)

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