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救急車を有料化した三重県松阪市が今後どうなるか

非常に興味深いニュースが流れてきた。三重県松阪市は、「救急搬送された後に入院に至らなかった患者」に関して、1人当たり選定療養費7700円を支払うことになったとのこと。この選定療養費が実質的に救急車利用料に当たるようだ。


このニュースをみて、「ついに来たか!」と思った。(良くも悪くも)


有料化に至った理由は「軽症例の搬送が多いこと」とのこと。

確かに基幹病院に勤務している医者は皆同じように思っているだろう。

タクシー代わりに救急車を利用する患者が何と多いことか。

軽症なのに救急車で来院して、軽い処置をしたら「え?帰りは乗せていってくれないんですか?」と、もはや完全に無料タクシーと思い込んでいる患者には唖然とする。


と思ったら、えらく重症な患者が「救急車なんて自宅に呼んだらご近所に恥ずかしい」と、死に物狂いで自家用車で来院するケースもたびたび遭遇する。

日本は良くも悪くもあらゆる医療が安い。米国では救急車を呼ぶと10-20万円かかるようだ(実質的には皆、任意保険に加入して保険料から払っているのであろうが)。

さて今後を予想してみる。

軽い症状で救急車を呼ぶ人は減るだろう。

強い症状の人は、さすがにほとんどが今まで通り救急車を呼ぶだろう。

では「呼ぶかどうか迷う程度の症状の人」はどうなるか・・・救急車を呼ぶ割合が減ると思う。

これは一見良いことのように思えるが、「呼ぶかどうか迷う程度の症状の人」に急性心筋梗塞や脳卒中、大動脈解離など「一刻を争う病気の患者」が混じっている。

あくまで症状の強弱は、病気の重症度と一致しないことが多いからだ。

これらの中で「救急車を呼んですぐに治療を受けたから一命を取り留めたり、後遺症なく退院できた人」や、「迷った挙句救急車を呼ばなかったから、病院へ向かう途中で急変して死んでしまったり、初期治療が遅れて半身麻痺のような後遺症が残った人」が出てくる。後者のようなニュースが松阪市から間もなく届くのは目に見えている。

またこの「入院に至らなかったら有料」というのもポイントである。

入院するような病状かどうか、については、当然「明らかに必要」「明らかに不要」な患者もいるが、ボーダー上の患者も多い。7700円程度でどれほど変わるか分からないが、今後は「ボーダー上の患者」が「何とか入院させてくれ」とせがんでくるケースが増えそうだ。そもそも今でも高齢の患者さんを家族がみきれないから入院させてくれ」と頼んでくるケースがどれほど多いことか。ちなみに「入院適応」にも病院によって若干の差がある。SNSでこういう情報が出回って、少し市民が知恵をつけると「うちのおじいちゃん、A病院(=入院適応が甘い病院)に運んでもらえませんか?」と車内で救急隊員に頼み込む家族が出てくるだろう。

つまり「入院になったかどうかで料金に線を引く」というのには無理がある。

だったら入院に関わらず全て有料にすればよいと思うのだが、「不適正利用を減らす」という主旨から、「入院しなければならないような病状、つまり適正利用した患者はやはり無料で」という判断に至ったのだろう。

ちなみに米国は搬送距離や車内の処置内容によって料金が変わるようで、当然入院の有無には無関係である。

もう一つの今後の予想・・・一部の「医療費無料の方々」は相変わらず救急車をタクシー代わりに利用するのだろう・・・タダだから。

医療現場にいると分かるが、救急車で搬送された患者の中の、「生活保護をはじめとした医療費無料の方々」の割合は非常に高い印象はある。が、不思議なことにこれに関するデータは見たことがない・・・国も怖くてデータを出せないのだろう。「そんなに救急車呼びまくってくるの!?」という意見や、逆に反対側からの「生活保護は救急車を呼ぶなというのか!生活保護の命を軽視するのか!」という意見で紛糾すると思われる。

松阪市の英断(?)には拍手を送りたいが、個人的には、「救急車の無料化は時期尚早である」と思っている。前述のようないろんな問題が今後起こるのは明白であり、私だけでなく多くの医療従事者が今後を注視していると思う。

「確かに生命は尊いが、医療費はタダではない」・・・医療費のうち患者が支払わなかった部分は必ず誰かが支払っている訳で、ついに少子高齢化による生産人口比率の低下で破綻は目の前である。これはようやく日本でも認識されつつあるので、もう一息だと思う。救急車の有料化は、このマインドがもう少し日本国民に刻み込まれてからでもいいような気がする。

もう一つ、やはり医療を受ける患者側の公平性の問題がある。私は経済専門家ではないのでよく分からないが、例えばベーシックインカムのような制度が整い、その給付金である程度公平に徴収するシステムが良いのかもしれない。とにかく年老いても頑張って仕事して、少ない収入で何とか生活している人が最も不利益を被るシステムは何とか避けてもらいたい。

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