見出し画像

WEB出身のUXデザイナーが、IoTを通してリアルな「場」の体験を設計したプロセス

600株式会社でUXデザイナー/プロダクトマネージャーをしています。
今回は、私が1年半ほど携わっていた新規事業がついにリリースとあいなったので、主にデザイナーとしてあれこれと試行錯誤したプロセスについてまとめていきます。
※知見やプロセスは一部ぼやかして記載してます、ご了承ください。

■今回担当したサービスのプレスリリース

ミッション

600株式会社は「1分あれば何でもできる」をミッションとして、様々な角度から50m商圏を立ち上げようとしている会社です。

元々は「オフィス向け無人コンビニ事業」を基幹として立ち上がった会社で。
これまで"百貨店→スーパー→コンビニ"と、徐々に狭まってきた商圏のなかで、最もユーザーに近い商圏(50m商圏)を生み出そう!という事業をおこなっています。

商圏が細かくなると社会における人の動きに大きな影響を与えます。
従来の百貨店は日中の時間に余裕のあるときに出かける場所でした。
コンビニが生まれてからは平日の夜中に出歩く人が増え、夜も明るくなっていきました。

このように、社会における人の動きに直接的な影響を与えられる可能性がある事業にUXデザイナーとして関わることは、とても意義のあることだと感じています。

アウトプットしたサービスの概要

今回新しくリリースした新規サービス「Store600」は、キャッシュレスな無人販売筐体をコアとした小売サービスの総称です。

特に今回のプロダクトでは、人々の暮らしに密接な"マンション領域"において50m商圏を立ち上げよう試みています。

新サービス「Store600」は、2020年3月に資本業務提携を締結した、日鉄興和不動産株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長:今泉 泰彦 以下、日鉄興和不動産)と共に、マンション居住者様にとってのマンション共用部での体験価値を最大化することを目指し、開発を進めてまいりました。
(プレスリリースより引用)

▼Store600のプロダクトについて詳しく知りたい方はこちらの動画を御覧ください

「なくなると困る」プロダクトか?

 Store600はまだまだMVP(実用最小限の製品)です、最小限の要件をクリアし市場に出すことは出来ましたが、まだまだこれから仮説検証を繰り返してさらに良い製品にしていかなければなりません。

引用元

上記は有名なMVPの段階を表す図です、製品を作り始めるときには乗り物にならないタイヤから作り始めるのではなく、実用可能なスケートボードから始めようということを示しています。
今はまだスケートボードに毛の生えたくらいの製品の認識です。
しかしながら、一部のコアなユーザーの方には「なくなると困る」といっていただけるような製品にまで磨き上げる事ができました。

下記の記事は、このプロダクトを作り込む道中で擦り切れるほど読んだ記事です。

明日からもうこのプロダクトが使えなくなったとしたらどう思いますか?

PMFを図るためのこの質問は、私達に常に良質な問いを与えてくれるものでした。
「このプロダクトが無くなったら困る」ユーザーを生み出すという目標は私達の視点を常にユーザーに向けてくれました
(※PMF=自社のサービスが、あるマーケットに適合=フィットしている状態のこと)

まだ市場に一歩を踏み出しただけではありますが、継続的にユーザーのフィードバックを頂きながら製品を磨き上げ続けていこうという視点は常に持ち続けていこうと考えています。

プロトタイピングのはじめかた

最初期のプロタイプは、それこそイチ機能を切り出した、たった一枚の紙とLINE@のアカウントでした。
下記の写真のような簡単な印刷を、既存のオフィスコンビニサービスのデモ機に両面テープで貼り付けたのです。

これは「おすすめ商品を診断して導入してくれると満足度が上がるのでは」という仮説を元に作られたプロタイプでした。
1時間程度で作ってその場でSlackで社員に配信したところ、この機能はうまく機能することはありませんでした。
得られた学びは「汎用的なコンビニ商品ではオススメの幅が狭すぎる」「個人にレコメンドしても共用スペース全体に適したものにならない」という洞察でした。

この時点はまだ分かっていませんでしたが、最終的には「オモチャから贅沢なおギフトまでの幅広いラインナップ」を「個人ではなく場のコンセプトに合わせて提供する」ことが、後に"なくなると困る"ユーザーを生み出す事になっりました。(これについては後ほど説明いたします)

振り返るとどんな小さな一歩も、学びを通して全て繋がっていると実感しています

■以下、初期のプロトタイプの例

↑会社でカプセルコーヒーを売る実験、自腹でカプセルを購入し運営するも赤字に…。結果論ですが、コーヒーとStore600の相性がとても良いことは半年後のユーザーインタビューでわかることになりました。

↑それっぽいステンテスのカゴに、100均で買ったプレゼント梱包を入れたプロトタイプ。棚にポン置きしても様になるデザインを目指しました。
結果的に「その場のインテリアとマッチする」かどうかは重要な指標であることが後々わかります

↑ダンボールのプロトタイプ。このときは今とは全く違うモデルの事業を立ち上げるつもりでしたが大きくピボットして今の形になりました。

↑ニトリの棚で作成したピボット前のモデル、大学時代の先輩が務めるオフィスに置かせていただくも「オフィスのインテリアにこだわってるので...」「総務が作る自前のお菓子ボックス以下...」といった手痛いFBが...このときの学びも今のプロダクトに生きています。

ドメイン知識を共創から学ぶ

今回のサービスを作る上で、「住まいづくり」のドメイン知識は必須なものでした。

ドメインの素人でも車輪の再発明をしなくて済んだ一番の要因は、ドメインエキスパートとの「共創」あってのおかげだと感じています。

このプロダクトを作る中で、こういったエキスパートとのワークショップを通して何度もコンセプトメイキングを繰り返しました。彼らが大切にしていること、経験による直感は様々な学びをもたらしてくれました。

どうしても自分の仮説が出来た段階ですぐユーザーに当ててしまいたくなります。
しかし、どんな業界にも「先人」となエキスパートがいます。1−2年聞きかじったスタートアップにはない数十年の知識の蓄積がどの業界にも必ずあります

まずはその蓄積を持つエキスパートをリスペクトし、その声に真摯に耳を傾けることが必要だと感じました

フラッグシップを立てる

私の所属する価値開発チームに関しては一貫して「スケールしないことをする」ということを意識して鋭いモノづくりを心がけていました。

スケールしないこととは「一人の顧客に向き合い、手作業でサービスを届けること」から始める仮説検証プロセスです。
これによって大胆な発想からアイデアを生み出し・直接的なユーザーの声を聞き・インパクトのあるソリューションを生み出すことが出来ました。

この「スケールしないことをする」ためには、あえてスコープを小さく区切ってしまうことが重要でした。
サービス全体の指標を追うのではなく、その中から最も特徴的な一箇所を選び出し、そこで実績を出すことに全力を注ぎました
我々はその一箇所を「フラッグシップ」と呼び、旗を立てることにしました。

振り返るとこれはペルソナ法に近い効果をもたらしていていました。
戦略的に攻略するべきユーザー像をリアルに固定することで、チームの目線をひとつにまとめることができたと感じます。

スケールを意識していると実行できない、大胆なアイデアが生まれそれはいくつかの大きな成果を生みました
そのアイデアに価値があったのであれば、その後スケールする方法を考えるインセンティブも生まれます。

また数人のコアなユーザーに向き合うことで、深いインサイトに基づいた力強いアイデアを生み出し、徐々にそれに自信を持つことが出来るようになりました

もちろん失敗もありましたが、「大きく挑戦して大きく失敗する」ことが許される場を作るというのは、サービスを成長させるために必須な項目だった感じています。

エクストリームユーザーは価値の原石

価値の結晶を探そう」が初期の合言葉でした。価値の結晶とは「顧客が最高に製品を愛してくれるポイント」です。

その価値を感じてくれているのが初めはたった一人のユーザーだったとしても、その奥にあるインサイトを分解し整理することが出来れば、その価値を他のユーザーにも伝えることが出来るかもしれません。

その一人目のユーザーを定義するために、エクストリームユーザーに着目しました、エクストリームとは「極端な」という意味です。

最初に注目したのは、異常値に見える数の購買を行っている何人かのお客様でした、このエクストリームユーザーにインタビューをすることが出来たのは、サービスにとって重要な局面でした

彼らは、まだほとんどの人たちが気づいていない潜在的なサービスの価値に気づいていました。

ほとんどのエクストリームユーザーはその購買行動を「無人販売機に行こう」ではなく、設置場所である「カフェラウンジに行こう」と認知していたのです。

「問」の捉え直し

私はARRRA(アーラ)モデルに基づいて、まずStore600の“ユーザー体験の最大化“を目指していいました。
(フラッグシップ・ペルソナを明確にする方針とARRRAモデルで捉えるユーザー体験の最大化は相性が良いものでした)

我々ははじめ「なぜStore600を使ってくれないのだろう?」「どうすればもっとStore600を使ってくれるのだろう?」と考えていました。
この問を、そもそも「マンションの共用部を使う人々は、この場に何を求めているのだろう?」という問に捉え直しました。

前述のエクストリームユーザーの「ラウンジへ行こう」といったマインドモデルから、
ARRRAモデルの対象をハードウェア単体ではなく、それを取り巻く「場」全体を含めて捉え直したのです

エクストリームユーザーへのインタビューを通して、この問の捉え直しを行うことで、プロダクトの性質は大きく変わりました。

「場」のフィールドワーク

私達の作った筐体ではだけなく、俯瞰して「場」を見渡したときにいろいろなことに気づきました。

賑わっている「場」と、人がまばらで廃れている「場」がありました。

賑わっている場には、
・お子様の保育園の送り迎えする方
・友人や来客を迎える方
・テレワークをする方
など様々な目的を持って集まっている人々がいました。

こういった場に訪れる人々のニーズに耳を傾けることによって、「お子様へのご褒美のオモチャ」「来客をもてなすお茶菓子」「テレワークの小腹満たし」といういくつかのヒットを生み出すことが出来ました。

小売店としてはあたりまえの気づきかもしれませんが、新しいIoT機器を作っているというマインドだけでは、きっとこの考えに至らなかったでしょう。
(この時初めてUXデザイナーが参画した意味を見出せたのではと思っています。)

これらの洞察を得るために、マンションの入居者説明会や内覧会などのリアルな営業の場も積極的に参加していました。

ビジネスメンバーに混じって、入居者説明会でアプリダウンロードの説明をするも、全然うまくしゃべれなくて塩をかけたナメクジみたいに凹んだりした時もありました。

こういったイベントは、まるでユーザーインタビューの100本ノックのようで、デザイナー人生で1−2を争うほど疲れたのですが、それに見合う様々なインサイトを得られました。
PdMとの兼務は苛烈でした(ぶっちゃけ回ってなかった)が、プロダクト紹介のトークスクリプトなどはやはり実際に本人が実践しないといけないと思い、ユーザーへの共感を上げるためにもプロダクトマネージャーが現場に行くということは絶対にやるべきだなと実感しました。

↑前日の夜から現場入りし、風船を膨らませてお客様を待つ私

制約条件を見つめ直す

「場」に目を移し「問」を捉え直すことによって、それまで制約条件だと思っていたものの見え方が変わっていきました

「自販機は置きたくない」という要望は、裏を返すとリラックスできるラウンジスペースのインテリアにこだわりを持っているということです。
それであれば、インテリアをより良くする家具のように"場に馴染む意匠性"を持つハードウェアが価値になります。

例えば「子供が騒ぐから置きたくない」という要望は、裏を返すと「子供が遊ぶ場を分離できていない」という洞察に変わります。
それであれば"キッズルーム"を作れるということが新しいの価値になります。

このように当初はビジネス上では制約だと思っていた要望も、問を立てユーザーの視点に立つとむしろ価値に捉え直すことが出来ました。

ビジネスに寄り添う

こういった「場」の提案の仮説検証はビジネスに寄り添いながら、商談の場で自然に行っていきました。

具体的には提案資料をプロトタイプと見立て仮説構築し、商談の場をインタビューと捉え検証をおこなっていきました

提案資料のスライドは、事前にボツになったものも含めると半年で30枚以上作成したと思います。

創ってきたサービスにお金を出すだけの価値があるかどうかは、商談の場に同行することで実感・検証できることを改めて実感しました

こういったビジネスのシーンに寄り添うこともUXデザインの大切なプロセスだと感じています。

「場」の価値を最大化するUXデザイン

こうした考察から、「場そのものの価値を最大化」することがサービスの成長につながると確信して自信をもって送り出したのが今回のプロダクト・リリースです。

まだまだやれてないことは多くMVPの初期ではあるのですが、いま確かな手応えを感じ始めて、あらためて「体験設計って楽しいな!」と感じている今日このごろです。

何より、コロナ渦で変わっていく暮らしの中で、
「暮らしやすさ」「豊かな生活」をデザインできることは非常にやりがいのあることだと思っています。

以前、この会社に転職してきたときの記事で「手触りのあるところからUXをデザインする」ことをしたいと書きましたが、
少しづつそれが実現できていると実感するとともに、課題もだんだんと見えてきました。

ウェブ屋から転職してきた身としては特にドメイン知識の部分はいくら吸収しても足りないと感じています。
これに関しては、今まで接しなかった自販機のエキスパート、板金のエキスパート、建物のエキスパートなど、様々なプロと一緒に共創していくこと。
そして、共創ハブとして成長していくことでクリアしていきたいと思っています。

これから様々な「場」の価値の最大化事例をお届けできればと思っているので、是非応援してください!

[おわりに]
こんなことやってる私の経験が本になったのでよかったら読んでください!


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?