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「正三角関係」-"初演劇"で頭が舞台に飲み込まれた話


※この話は誰がどのキャラクターを演じていたのか記載されています。
※一部舞台上の演出が記載されています。

 ミュージカルは見たことがあったけれど、芝居中心の演劇は初体験!
公演情報を偶然いただき、演劇のプロの作品を見てみたい!ということで、ありがたいことに見させていただきました。

松潤に会える!って思ってたのに…

 演劇の世界を全然知らないので、演者の人も演出の人も脚本家の人もさっぱり。事前に調べものをしてネタバレを踏んでしまうのも避けたくて、何も調べないで見に行きました。
 そんな僕にとって、テレビで聞いたことがあった松本潤さんや長澤まさみさんに会えることが観劇前唯一のワクワクポイント!行くまでは彼らを見られることを心待ちにしてました。

 が、始まると「役」でしか見れなくなってびっくり。うまく説明できないけれど、唐松富太郎(松本潤)っていう表記がスッと馴染む空気感で、その人がそこに立っていなかった。もちろん顔つきで松潤だとすぐに分かりましたが、テレビで見たことのある雰囲気と異なっていました。感情的、暴力的になるシーンは松潤を感じられましたが(ドラマか何かでそういったシーンを演じているのを見たことがあったので)、裁判にかけられている姿は富太郎でしかありませんでした。

長澤まさみさん…です、か?

 僕は演劇初心者なので一人の人間が複数人演じるっていうことも知りません。その上、人の顔を見分けるのが得意ではないのも相まって、ずっと唐松在良を長澤まさみさんが演じてると確信が持てませんでした。それほど中性的で三男の雰囲気を持っている演技力。
 グルーシェニカとして出てきた時に「あ、長澤まさみさんが出てきた!じゃあやっぱり在良を演じてるのは別の人か」と勘違いして、その後にグルーシェニカから在良へ舞台上で変わるシーンを見てようやく在良を演じているのが長澤まさみさんだと確信しました。それでもギャップに眩暈がする。頭でわかっていても、理解がなかなか追いつかない。もし舞台上で役の転換がなかったら、僕は在良を演じているのが長澤まさみさんだと確信を持てないままだったと思います。
  ウワサスキー夫人も唐松兵頭も番頭呉剛力も、出てくるだけで面白くなるぞって空気になるように、生方莉菜やグルーシェニカが出てくるだけで何か不穏な空気を感じたり、そのキャラの持つ雰囲気が見ているだけで伝わってくるのが、舞台の面白さだなと感じる公演でした。あと威蕃がかっけぇ(威蕃は威蕃すぎて語彙力が逆にないです)。

野田さんって何者???

 前述したように全く調べないで観劇にいった僕は、最後の拍手の時に一人残ってお辞儀をしにきた弁護人さんが不思議でなりませんでした。「確かに役的に大切な人だけど、弁護人さんだけがわざわざやってきたのは何故だろう?もしかしてこの人の引退公演なのかな?」と失礼なことを思いました。一緒に来ていた方が「あの人が野田さんだよ、この舞台の脚本を書いた人」と言われて初めて知ったのです。まさか脚本を書いた人が舞台上に出ているなんて…。

 観劇の前にホールでパンフレットを拝見して、そこに野田さんのメッセージが書かれていました。(これから行く人は無料で置いてあるから是非見てほしい!) 僕はその文章だけで「なんて面白い話をつくる人なんだ!」驚きました。自分が作家希望なことも相まって、正直嫉妬しました。
 一緒に来ていた方はすでに野田さんを知っている方で、公演前に「この人は言葉遊びがすごく面白いんだよ」と教えてもらっていました。その時の心境は「言葉遊びかぁ、じゃあこの人の書いた脚本は洒落が効いてたんだろうな。でも演劇は言葉の面白さはそんなにわからなそう」です。言葉遊びは小説やX(旧Twitter)のような目で見れる媒体じゃないとわからない、そう思っていたんです。
 けれど劇が始まれば、その言葉の意味が理解できた!会話じゃない、笑わせるための言葉。いわゆるコントのように、言葉がわかるんです。
 僕が過去に見たことのあるミュージカルは、盛り上がりが大きな波のようになっていました。観客はその盛り上がりと共に喜び、泣く。笑うタイミングも大体みんな一緒です。大きな笑いが起こるか、静かな空間か。けれど今回の演劇は違って、ノリはまるで笑点。小波が沢山あって、笑うタイミングもバラバラ。何回も笑わせる仕組みが施されていて、飽きさせない。言葉の端々から計り知れない教養を感じて慄くあまりでした。

 野田さんの演技はこの人はどうして喉が潰れないんだろう?と思ってしまう振り幅を持っていて、さらに演出もしているときいて、もう野田さんって何者?!?と思わずにはいられませんでした。この人のようになりたい、と憧れるよりも先に、この人のようになるには寿命が足りなんじゃないか、と感じました。

養生テープが主役級

 演出で一番魅力的だったのが、養生テープのような白いテープを使っていたこと。僕らが普段使うのは接着だったり、補強のためだったり。けれど舞台では、ある時はプロレスのテープ、ある時は一種の机、ある時は火薬玉、ある時は装飾の紐…。まさに多彩な使われ方で、全力で舞台にしかできない魅せ方を知らしめられました。舞台上で大道具さんが作るような背景セットがどんどん作られていく様は「なんて自由に舞台で遊んでいるんだ!」と感激しました。
 舞台上で素早くキャラが変わる姿を「見せて」笑いが起こったり、言葉の違いも時間軸の違いもセットの力を借りずに彼らの言葉だけで理解できたり…自分の中の演劇のイメージが壊れ、舞台の世界に飲み込まれていきました。

おわりに

 初演劇で想像の何倍も自由な世界とそのキャラとしか思えない演技を見せられて、とても新鮮な体験でした。また舞台に行ってみたいです。

 今回の公演で秋山遊楽さんのことが好きになりました。今度は役名のある舞台でその演技を見てみたいです。

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