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4冊目。The Ocean at the End of the Lane、勝手に邦題「オーシャン」

原題:The Ocean at the End of the Lane
原作者:Neil Gaiman
勝手に邦題:オーシャン
 
概要と感想
 
父の葬儀のために故郷の町へ戻った私は、式の後、あてもなく車を走らせるうち、引き寄せられるようにヘムストック農場にたどり着く。そこにはかつて、レティという名の少女が、母親や祖母と暮らしていた。私は、母屋の裏手にある池のほとりで、忘れていた記憶を取り戻す。レティは、その池を「大きな海(オーシャン)」と呼んでいた。
 
記憶は7歳の誕生日にさかのぼる。本好きで、物語の世界に遊ぶことばかりの私に友だちはないが、父から贈られた子猫は、私の小さな世界を温かく満たしてくれた。しかし、ある日、子猫が家の宿泊客を乗せたタクシーに引かれて死に、その客が父の車を盗んで車中で自殺するという事件が起こる。

父とともに死体を発見した私は、警察の検分の間、近所のヘムストック農場でひとときを過ごすが、そこの女性たちは、その場にいながら胸ポケットの遺書を読み、警官たちの動きを予知した。レティは母屋の裏手の小さな池に私を案内し、自分たちはこの「大きな海」を渡ってきたのだと言う。
 
その後、町で金にまつわる不穏な出来事が起こり始める。私は、のどになにか押しこまれる夢を見て、窒息しかけて目覚めると銀貨がのどをふさいでいた。男の死が引き金となり、異世界の存在が現実世界に干渉しはじめたのだ。私はレティとともに、その存在を見つけ出し、封じ込めることになる。
 
まるで異星のような光景が広がる農場のはずれで、レティに封じ込められたかに見えた存在は、隙をついて私の中に二つの世界を結ぶ道を作っていた。そして、アーシュラという女の姿で人間界に現れ、執拗に私をつけ狙う。
 
アーシュラは、その正体をレティに見破られ、ついには、レティが召喚した異世界の掃除役ハンガーバードの群れの餌食となり消滅する。だが、ハンガーバードは、次に私を獲物として要求する。世界を引きちぎり、貪りはじめたハンガーバードを止めるには、自分の心臓を差し出すしかない……。
 
今回は、大人のためのダークファンタジー。語り手の「私」が、幻想的な恐怖体験を回顧する形の作品で、サセックスの田園風景と境を接して存在し、ときに融け合う異世界が、子どもの目を通して恐ろしくも美しく描かれています。

SFっぽいところも、ちょっと怖いおとぎ話のようなところもあり、それらが混然一体となった独特の雰囲気が漂います。また、ゲイマンには珍しく聖書や神話の知識がなくても楽しめる、読みやすい作品です。ゲイマンの幼少期の体験と作中の事件に共通点があって、ファンの方には興味深いかも。
 
アーシュラ、背が高くプラチナブロンドの美人なんですが、怖いんですよ。母の留守中、父と情事に及ぶところを目撃する場面とか、7歳の子どもには、なにか恐ろしいことが起こっているとしかわからない。それに、嵐の中を逃げる私を、胸をはだけ、太ももをあらわにし、雷をまとって空から追ってくる。そりゃあ、ちびりますよ。

一方、ヘムストック家の女性たちはどんな状況にあっても優しく力強く、恐怖と不安に満ちた作品世界に深い安らぎを与えてくれます。おばあさんが、ハサミと赤い糸で、父に殺されかけた恐怖の一夜を現実から「切りとる」シーンが大好きだし、母屋での食事の場面は、ほんとうに暖かい。余韻の残るエンディングも気に入っています。
 
いつか映像作品にならないかと思っていたら舞台化され、2019年のロンドンのナショナル・シアターの上演で高い評価を得ました。そのときはコロナ禍で渡英できませんでしたが、推し活の意地でその後の全国ツアーに参戦、結果、原作のほうが好きだったのだけれど、舞台でなければ味わえない演出に鳥肌が立つ場面も。イギリスで新型コロナに感染というお土産も、なかなか味わえない体験でした……。
 
受賞歴:ナショナルブックアワード(英国)、ローカス賞最優秀ファンタジー小説、Goodreads Choice Awards(ファンタジー部門)ほか

こちらと上の画像は舞台のパンフレットから。
昼間の公演のあとは街歩きを楽しみました。
雰囲気のある装丁がお気に入りです。

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