推し活翻訳18冊目。The Letter with the Golden Stamp、勝手に邦題「金色の切手の手紙」
原題:The Letter with the Golden Stam(Hodder & Stoughton)
原作者:Onjali Q. Raúf
勝手に邦題:金色の切手の手紙
概要と感想
いままで、本物の警察署なんか見たことがなかった。ふるさとのスウォンジーにある暗くて空っぽに見える建物と、テレビドラマに出てくるやつのほかは。それに、ここにはドラマみたいに大声で怒鳴りあうとか、逃げまわって涙にぬれた顔や泥だらけの手をしている人はいない——ロイヤル・メールの収集袋をつかんだままの、いまのわたしみたいに。
清潔で、どこもかしこもぴかぴか。正面の大きなドアの両脇に警備員がいて、銀色に輝く文字の「ニュー・スコットランドヤード」という看板が立っている。いまいるのはスコットランドじゃないし、庭(ヤード)なんて一つも見あたらないのにおかしいよね。
アニータ巡査部長が、優しい目をしたミス・ロジャーを紹介してくれた。わたしはこれから、この二人に、ロンドンまで来たわけをすっかり話さなければいけない。ミス・ロジャーはその手助けをしてくれるらしい。アニータ巡査部長は、だれも、わたしのことを罰したりはしないから大丈夫というけれど、本当だろうか。
罰はなくても、犯罪歴がつくんじゃない? だれかに指紋を取られたりしない? それに、なにもかも正直に話したら、結局、刑務所に入れられて、白髪のおばあさんになるまで出て来られないんじゃないだろうか?
言葉がのどにつかえている。でも、お母さんのことを考えた。早くもどって、これ以上、具合が悪くならないようにしてあげなきゃ。それに、いままでにないくらいの、たくさんの「ごめんなさい」を伝えるんだ。
「ええと…あの…たぶん、通りの向こうにある家が、始まりだったんだと思います。それに、そこに住んでるスパイが」
☆ ★ ☆
オードリーは、ウェールズのスウォンジーという町に住む9歳の女の子です。双子の弟妹と病気がちのお母さんと暮らしていますが、お母さんの体調が悪いことは、まわりの人には知られないようにしています。そう、9歳にして、ヤングケアラーのひとりなのです。
ヤングケアラーが主人公と知って、ちょっと構えて読みはじめましたが、ものの見事に想像を裏切られました。もちろん、いいほうに。たしかに家族の介護に取り組む子どもの辛さ、親の健康についての不安な気持ち、経済的な問題などは描かれていて、ときどき胸をつまされる場面があるのですが、それを上回る楽しさや驚きで、息を持つかせぬストーリーでした。
物語は、一貫してオードリーの、つまり9歳の子どもの視点から描かれていて、とんでもない誤解や子どもらしい想像力が、オードリーと読者を大冒険に連れだすことになります。オードリーの家族を思う心、ひるむことなく前へ進む勇気、そしてキュートなウイットに、心の応援の声が止まりませんでした。
趣味の切手集めで仲良くなった郵便配達員のモーや、地元スーパーのミセス・デイヴィスをはじめ、ご近所の人たちの優しさや、二人の親友たちとの信頼関係も読みどころです。
この作品は邦訳出版が決まっているようなので、紹介は短めにしておきますね。オンジャリさんファンの方にも、初読みの方にもおススメです。
この記事が参加している募集
よろしければサポートをお願いします。いただいたサポートは、世界の子ども支援のために毎年行っているユニセフへの募金に加えさせてください。