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おうむの夢と操り人形

久しぶりに小説を読んだ。本はよく読むのだけれど、なかなか小説を読むことがなく、最後に読んだのはいつか思い出せないほどだ。

今回読んだ本は、藤井太洋氏の「おうむの夢と操り人形」という作品だ。
短編なので、一時間くらいで読み終わるくらいの長さなので、ぜひ読んでみてほしい。

藤井 太洋(ふじい・たいよう)
1971年生まれ。国際基督教大学を中途退学。舞台美術、イラストレーターなどの職を経たのちに、エンジニアとして東京都内のPCソフト開発会社に勤務していたが、2012年にスマートフォンで執筆した小説「Gene Mapper」を電子書籍として販売したところ、当年のKindle本で最も販売数の多い小説となり、作家へと転身する。2014年に刊行した『オービタル・クラウド』は第35回日本SF大賞と第46回星雲賞日本長編部門を受賞。デビュー作の『Gene Mapper -full build-』と短編集の『公正的戦闘規範』も日本SF大賞の最終候補作にノミネートされるなど、今や日本SFを代表する作家となった。2015年から3年間は日本SF作家クラブの第18代会長も務めていた。

※ここから先はネタバレを含むので、作品を読む予定がある方はご注意ください!

作中では、パロットークというおうむ返しをする会話エンジンが登場する。正確に言えば、会話相手の発言の中からキーワードを選び出して、そのキーワードについて質問をすることを繰り返す。

例えば、
人「今日はリンゴを食べたよ。」
AI「リンゴは好きですか?」
人「好きだよ。朝食にはいつも食べているんだ。」
AI「朝食を大切にしていらっしゃるのですね?」

といった感じだ。ELIZAと呼ばれる実際に存在した会話エンジンがモデルになっていると思われる。

パロットークを導入した人型のロボットに心惹かれる人々が現れてくる。そして最後には、このパロットークが人間の代わりすらも担うことができてしまう。中身のない会話エンジンが人の心を奪っていく様子や、人との違いがわからなくなる様子に、ロボット開発に携わった2人の主人公が葛藤する。

ここでの考え方は、ロボットがどのような話をするか以上に、人間に近く見える存在が話をしているということ自体が、「人のようだ」と思わせる要因になるというものだ。これは人とロボットの関わりについて研究している私の立場から考えると、(人によっては残念に思うかもしれないが)ある程度正しいと思う。

人は、思い込みをする生き物である。自分が正しいと思ったことを、間違いだと気づくためには、自分の予想がある程度大きく外れる必要がある。

この例で言えば、一度あるロボットに人の心があると思い込んだなら、「人の心を持っていたらありえない」と思われるようなコミュニケーションをされない限りはそれを疑われにくい。作中のパロットークは、人にしてはシンプルすぎる返答しかしない反面、人だったら絶対にしないような返答をする確率も小さいために、人であると信じ続けられたのだと思われる。

これはあくまで小説の中の話であるが、実際に実験をした場合にも同様となる可能性は、それなりに高いのではないだろうか。

となれば、人のようなロボットを作る場合には、
「人だと認められるために十分な機能を搭載すること」よりも、
「人だと無理矢理にでも思い込ませること(教示など)」+「人ではありえないと思われるような行動をしないこと」
によって実現されるのではないだろうか。


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