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後編 一緒にいたくないの?そんなわけないのに【ショート小説】

前編はこちら

抱きしめられたまま、
部屋に戻ってきた。
彼の香りに包まれただけで
冷えた心に熱が灯る。

「なぁ、どうした?」

まだ言えない。
ぶつけたくない。
無言か、全力投球以外の選択肢を
わたしは、まだ持ち合わせていない。

『ホットチョコ……飲みたい』

赤い目のまま、
真っ直ぐに見つめて
そう伝えた。

「作るの?」
『うん、だから牛乳買ってくる』

23:00になる直前。
彼の家の周りなら、10分あれば着くはずだ。

「俺も行く」
『だめ。仕事して?』

なるべく優しく聞こえるように
ふんわり笑ってみた。
ねぇ、わたし、うまく笑えてる?

頭の整理に行くの。
そして、時間あるから行くんだよ?
一緒に来たら、仕事が進まないでしょ?

上着を着て、玄関に向かった。

『じゃぁ……ね』
「やっぱりダメ!俺も行く」

彼の唇を軽くついばみ

『だぁーめっ』
「絶対帰ってくる?」
『うん、帰るから。
 だから、仕事終わらせてくれる?』
「わかった」

わかったよ。
じゃなくて、「わかった」
その返事をするときは、
本当に覚悟を決めたときって知ってる。

地図アプリを片手に、
牛乳だけ買いに行った。

歩きながら、
いろいろ考えてしまう。

2人のこれからのこと。
本当は、別れるつもりで来たのだ。
もうこの関係をおしまいにしたくて
最後の逢瀬の……はずだった。

忙しすぎるんだもの。
かまってほしいと言えないわたし。
連絡がないのは、つらいのだ。
カレカノってもっと連絡するものだと思ってた。
2人にはそれが通用しない。

幸せになりたい。
ずっと幸せでいたい。
望んでいいのなら、それはあなたの隣がいい。

でも、
それ以上に
あなたに幸せでいてほしい。
あなたに幸せになってほしいのだ。
この思いなら、誰にも負けない。
わたしの中で、絶対ぶれない。


静かに玄関を開けると
YouTubeの音楽も消え、
凛と張り詰めた空気の中、仕事をしていた。

『ただいま。雨、降ってきたよ?』
「おかえり。濡れてない?」
『大丈夫。
 ねぇ、ホットチョコ飲む?』
「うん、ありがとう」

そんな会話をしつつ、ホットチョコを作った。

チョコレートが牛乳に溶けていく。
今の2人みたいに溶け合うのに
溶け残ったチョコレートが
鍋やカップにこびりつく。

『はい、できたよ』

ホットチョコを飲みながら
彼にも、1杯を手渡した。

「なんか、自分で解決してきた顔してる」

『解決はしてないけど……もう、大丈夫
 あとで時間があれば言うね』

まだ仕事は終わってないのだ。
ホットチョコを飲んだ後は、
また戻らなくては。

そういえば、
付き合ったり別れたりしてたとき、
わたしがグダグダになると
必ずココアを買ってきてくれた。

そのせいだろうか?

ココアやホットチョコを飲むと、
気持ちがすーっと落ち着いていく。
条件反射なのか、
彼がそばにいるからなのか。
わたしが何か話し始めるまで、
静かに待っていてくれた。


結局、最後には
その気持ちのごちゃごちゃを
全部、聞いてもらった。


ーー もっと一緒にいたかったこと
   あなたには全力で
   幸せになってほしいこと ーー


『ねぇ、わたしに何かあったら
 駆けつけてくれる?』

……無言の返事に、思わず不安になる。

「あっ、ごめん。
 交通手段考えてた。

 荷物多いから車かな?
 いや行くだけなら飛行機……
 連れて帰りたいから車だな」

行くという選択肢しか、持ってなかった。
だから、わたしは、
この好きを卒業できない。
会うたびに好きになっていくから。


来る前に決めてた答え……
『これで別れよう』も言えなかった。

だからといって
『わたしが転職するから、結婚しよう』とも、言えなかった。

結論なんか出せないまま
今回もまた
「現実」は置き去りにして
「好き」という気持ちだけを
たくさん抱えて
次に会える日を待ってしまうのだ。




友人の遠距離恋愛の話を聞いてると
「結局好きなんじゃーーーン!!」と
毎回ツッコミしてしまいます。


男性版 前編からお楽しみください
   🔻


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