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まんじゅうの仁義なき戦い

「おまんじゅうもらったわ。食べる?」
「食べる!」

あんこ好きなうちの子達は、わたしの言葉にかぶせるように言ってきた。

いただきものの、紅白饅頭。
子どもたちが好きなもの。

ちなみにわたしは、作るけどほとんど食べない。
美味しいなぁ、と思うけど、
甘い饅頭1こでコーヒー2杯は飲めちゃうし、
一口あれば抹茶も十分。
甘いものは好きだけど、
何個もいらないタイプだ。

「ならさ、ママもらってきたやつだから、
 5ミリだけちょうだい。味見はしたい。
 あとは分けて良いよ!」
「やった!」
「ピンクが妹、白が僕。それで良い?」
「うん! やった!」

いつもなら、これで終わり。

普段なら、
なにも揉めないし、
喧嘩なく、兄妹2人で決めただけでも、素晴らしいと思う。

しかし、だ。
しかし、なのだ。

母がいる。
我が家には、絶賛母が滞在中。
子どもたちからするとおばあちゃん。

おばあちゃんが、2個しかないまんじゅうに火種をぶち込んだ。


晩ごはんの後、
切り分けることになり、箱からパカっとまな板に乗せた。子どもの握り拳くらいだろうか。美味しそうではあるけど、わたしは絶対食べ切れる自信がない。

とはいえ、
わたしの5ミリを取ったら、あとはそれぞれのものだ。

「はいっ! ママの分とったわ」

子どもたちに、少し欠けたまんじゅうを渡した。

大喜びで2人とも食べ始めたとき、
おばあちゃんが言ったのだ。

「わたしにもちょっとくれない?」

火種投下。
娘はギョッとし、息子は素知らぬ顔。
娘からすると「えっ? ばあちゃん食べるの?」という感じだ。

真っ先に口を開いたのは息子だ。
「やだ! もうかじったし、これ僕のだもん」

間違ってはいない。
うん、間違ってない。
さくさくと幸せそうに食べていった。
月獅子座、太陽水瓶座男子。
……さすがだ。

「察して」「かまって」を全無視して
「こう思ってんだからこうするの」を通す。
蟹座のわたしにはできない。
いや、水星座はみんなできないかもしれない。

「えぇー、年上への優しさは?」と思うけど、自分が我慢してまで優しくしないのが息子の心情だ。自分も気持ちも大事にしつつ、優しくしたいのだ。それに、優しさは自ら出すものであって「強制」するものではない。

息子の中では

食べたいならはじめに言ってよ。
ママが切ったときに切ってもらえば良かったじゃん。
かじったものは渡したくないし、
人にかじられたものは食べたくない。
それにこれは、僕の。

というのだろう。(いつもの思考回路を考えるとこんな感じだ)



さて、ここで困ったのは娘である。
我が家の優しさ番長。
人のために動いて、自分が疎かになるタイプだ。月牡羊座、太陽乙女座女子。
空気を読む、そのために我慢することに慣れている。

「……ちょっとなら良いよ」

娘だって食べたいのだ。
精一杯の強がりだろう。

「ありがとう! なら、ちぎってくれる?」
「わかった」

と、ちぎったら、大人の親指サイズ。

まぁ、小4女子がちぎると、こうなる。
娘からすると、食べたいところを我慢して、致し方なく渡すおまんじゅう。
ちぎってあげただけ偉いなぁ、と思ったのは、わたしだけだったようだ。

「えっ! あんこ、ほとんど入ってないじゃん」

火種追加。

「えぇー、ちょっとで良いって言ったじゃん」
「ちょっとすぎない?」
「あってるじゃん」

おばあちゃん、動き出した。
あんこが少ないのは嫌だったのだろう。
スプーンを2本持ってきた。

そして息子のそばに立って、そのままプレッシャーをかける。何か言いたそうにずっと立ってる。欲しいんだろうなぁ、と、わたしは思うけど、わたしはどちらの味方にもなれないのだ。味方になった途端にケンカになるのは目に見えてる。

半分食べた頃、息子がやっと聞いた。

「なんでスプーン持ってるの?」
「あんこもらおうと思って」
「やだ!」

なんと、子どもたちのまんじゅうから、
あんこだけ取ろうとしたのだ。
わたしは、甘いものがそこまで好きじゃないからこそ、怒りよりもなによりも、呆れてしまった。
えっ? 晩御飯の後だよ。そんなに食べたいの? そんなにお腹空いてるなら、ご飯をお代わりすればよくない?

「えぇー……。なら、妹は?」

おばあちゃんが妹を見に振り返ると、
妹は、もうそっちを見ない。

「わたし、あげたし」
と言いながら、
パクパク食べていた。

そして息子がほぼ食べ終わったころ。
火種がうまく導火線に引火してたらしい。小爆発をした。
「なんで、ママのお客さん用のスプーン持ってきてるの? それ割れやすいから使ったらあかんて。なぁ、ママ」

おっと、こっちに飛んできた。

「たしかに、そのスプーン割れやすいからね」
「割らないわよ!」
「だから、今割れるとかの話じゃなくて、洗う時でも割れやすいって言ってんの」

おばあちゃんは、
むぅ、としながら、スプーンを片付け、
これ見よがしに洗い物をし始めた。

そして言うのだ。

「あぁーぁ。いつもおやつ買ってあげてるのに。そういうことするんだ。あーぁ。イジワルだなぁ。悲しいわ。本当悲しい」

メソメソしながら洗う。

わたしと弟は、これが面倒だから、
すごく嫌でも渡してた。ネチネチとずっと言うのだ。
「あのときだって。ほら、あのときも…」

あぁ、懐かしい記憶である。
優しさを強要されて、優しさを出さないとイジワルだとレッテルを貼られるのだ。母は自覚ないみたいだけど、よく貼られてきた。
あぁ、なつかしい。

母はそれをうちの子たち(孫)にも強要しようとしたのだ。

とはいえ、失敗に終わったが。


妹が言うには

「ばあちゃんが欲しい量じゃなかったとしても、約束した『ちょっと』はあげたじゃん。
 なんなん? って思うわけ。先に言えばいいじゃん。
 わたしだって食べたいもん」

あんこに興味のないわたし。
知らぬ存ぜぬを押し通した。


優しいって、なんなのだろう?

「せいこさんは、親から見返り求めない愛を習ってきてないから」と、以前占星術師に言われたことを思い出した。

自分の感情を押し殺してまで、他人に尽くすのが愛なのか?
感情を大事にして、悲しそうなのを横目で食べるのが自分への愛なのか?
とはいえ、
少しもらったのに「量が思ってたのと違う」というのは、愛でもなんでもないだろう。


まんじゅうの仁義なき戦い。


あんこがそんなに好きじゃないわたしは、
一生参戦しない戦いだなぁ、と思うのだった。

あっ、ちなみに、味見した5ミリのおまんじゅうは、美味しくいただきました✨

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