デザイナーの「へこまない」話法
へこむ。くやしい。自分が情けない。
「デザイナーは感受性が高いので傷つきやすい」なんて言う人もいる。それが正しいかは脇に置いて、私もへこんだことは何度もあります。
今回は、自分がへこみ続けてきた経験から、デザイナーの自衛の策である「へこまない話法」を考えていきたいと思います。デザインに関わる若い方に届いてほしい。そんな遠い目をしながら。書いてみます。
「一方的に言われる構図」に熟練する
まずはじめに、デザイナーは被弾する。前からも横からも撃たれる。意見を浴びせられる。そんな大変な立場にあります。
デザインアウトプットを見せる。ワークショップでファシリテーションする。プロジェクトプランを説明する。
質問。確認。指摘。異論。要望。
デザイナーは常に「今をよくする」ことに向けて、皆を先導しデザインします。アウトプットします。それがどんなに優れていても、さらにもっと良くするための質問、確認、指摘、異論、要望を、四方八方から浴びることになります。デザイナーは構造的に「受け」になるのです。なぜならアウトプットする側だから。アウトプットに対する反応を全身で浴びる役割だからです。
良い仕事をしても、問題がなくても被弾する。まずは、自分がこの構図に身を置いていることを、しっかり認識します。世界に何かを生み出すとその反応も身に受ける。2つはセットです。胸の中で、誇りましょう。
ひるんではいけません。怖気づき、自信なく立ち回ると周囲は不安になっていきます。不安になると確認が増えてくる。確認も細かくなっていく。執拗になってくる。疑心暗鬼になる。だから、演技をしてでも堂々と話しましょう。
問いを深読みしすぎないように
「一方的に言われる」構図で有効に進めるために、発話の文脈性に注目してみます。文脈を深読みすぎて考えがネガティブになり、へこんでしまうことがあるからです。考えすぎてしまうのです。
「なぜこの色なんですか?」という質問を受けるとします。大体において、質問者はそれ以上でもそれ以下でもない思いから、素直にこのような問いを発します。
ところが、デザイナーは発言の裏を探ります。なぜ色に注目したのか? その背景は何か? 失望しているのか? デザイナーは分析し、発言の表面に現れない真意をくみ取り、本質的な問題は何かを考え、なんとかデザインに反映させようとします。
すると、質問者の素朴な問いが深淵な指摘に聞こえ、時には感情が乗ったメッセージと受け取ってしまう。確認を指摘と感じ、質問を詰問と受け取ってしまうこともある。「色に着目したということは、質問者は何らかの違和感をもち、反感をもっているのではないか」と、ずるずると行ってしまいます。嫌な汗も浮かんできます。
事実確認と態度表明を分ける
質問をする側である多くのビジネスパーソンは、遠まわしではなくはっきり言うことが多いものです。解釈の余地を生まないように。ミスリードさせないように。意思決定に歪みが出ないように。明確に。
コメントに文脈性や過剰な配慮を込めるのは時間もかかります。発話が分かりづらくなり、理解する側も遅れます。効率も悪いです。
「なぜこの色なんですか?」に、それ以上の意味も感情も込めない。単なる事実確認であって、その人の態度表明ではない。
「なぜこの色なんですか?」と問われたら、深読みせずにそのまま回答を返す。基本的にはその繰り返しです。確認と回答、確認と回答、その繰り返しの中で相手の真意を思い描き、こちらからの質問を織り交ぜながら、情報を総合的に立体的に捉えていく。
「発言の真意を探れ」とはよく言われることですが、ひとつひとつの発言を分析するのではなく、総合的な情報群を分析し本質的な問題を特定していくのです。
一つひとつの質問には深読みせずに、クイックに淡白に返す。一つの問いに反応し深読みしていると考えが悲観的になり、疲弊してしまいます。
意図的に感情を切り離す
対話から、感情を切り離していくことも必要です。皆で言葉に感情を載せないことを暗黙の了解としていくのです。
皆で成果を目指すわけですから、言うべきことは言う。感情に引っ張られないようにする。これが基本のはずです。デザイナーとしては、自分からそのような対話にしていく、そのようなモードにしていく。攻めの姿勢です。
悪意ある発言は退場として、無駄に文脈性や感情を込めた発言をしないようにする。行き過ぎた配慮から奥歯に物が挟まった物言いには、自分の方からストレートなコメントに言い換えていく。そして、自分に対するネガティブなことも、自分のほうから積極的に言葉にしていくのです。
全員の視線を成果に向けていく
自分も含めて、良いものも悪いものも感情を込めずにフラットに対話していく。すると、全員の視点が揃っていく。成果に向けて揃っていく。デザイナーの「一方的に言われる」構図がだんだんと薄れ、やがて消えていきます。デザインの課題が、デザイナーだけのものでなく全員の課題として捉えられうような、生産的な議論がぐんぐんとまわり始めます。
逆に、デザイナーが自分の悪い部分、デザインの悪い部分を取り繕い、覆い隠し、守りに入るコメントを繰り返すと、その場は対立構造になっていきます。成果に向けて同じ目線でコミュニケーションが取れなくなってくる。周りは「なぜデザイナーは自分を擁護するのだ」と疑い、仲間の感覚が薄れていく。この状況は、最も深くデザイナーをへこませます。
さらに悪い状況は、周囲が「扱いが難しい」デザイナーに感情的に気を使ってしまい、発話を抽象的にぼやかしてしまう。いまいち成果に結びつかないコミュニケーションになってしまう。デザイナーはへこまないかもしれませんが、こんなチームはやっぱり駄目です。
アサーションを習得
デザイナーはその役割から「受け」の構造にいることを認識した上で、
事実確認と態度表明を分けて認識し、過剰な推測を挟まない
感情を切り離しフラットに対話し、同じ方向を向く
ことが必要です。
このような対話を進めるにあたり、さらに「アサーション」を身につけることで、へこまない話法を強化することができます。アサーティブコミュニケーションとも言います。
アサーションとは、相手を尊重しつつ自分の主張を適切に伝える方法のこと。相手の感情を無視し一方的に意見を押し通すような攻撃的なコミュニケーションでもなく、逆に自己主張をせずに相手を優先し続ける受け身のコミュニケーションでもないような、その間の適切な自己主張のあり方のことです。
受け身を続けると、指摘や要望が膨らむ。もしかしたら本質的ではない指摘や要望から、自分の時間が圧迫されるかもしれない。デザイナーは「受け」の構図にいると言いましたが、受け身で良いわけではありません。主張することもデザイナーの仕事であり、責任です。
周囲を尊重しながら、誠実な態度で言葉を選び、遠回し表現や感情的なニュアンスを避けた率直な意見を述べる。周囲と対等な立場でふるまい、責任感をもって発言する。
たとえ、「受け」の構図から始まったとしても、情報を総合的に分析し、自分の方から論点整理していくことが必要です。自分の悪い部分も包含し対応策を全員で議論するようファシリテーションする。
このような姿勢と技術を持ち、それを磨き上げることで、デザイナーの「へこまない話法」が完成します。
冒頭に「デザイナーは感受性が高いので傷つきやすい」という言葉がありました。が、これは誤りです。感受性が高いから傷つきやすいのではなく、デザイナーという役割だから構造的に傷つきやすいのです。「受け」の構造にあるからこそ、自分を守る話法を身につける必要があるのです。
そして、へこみそうになったとしても、基本的にデザイナーは自分のネガティブな感情に無関心であった方が良い。人を惹きつけ、つなぎ、動かす立場だからです。長く続くものは別ですが、だいたいのへこみは一時的なものと思ったほうが良い。
最後に、アサーションに関して私が読んだ書籍を紹介します。アサーションはデザイナーにとっては必須の技術です。デザインのクオリティを上げるにも重要です。私が所属するデザイン会社コンセントでも研修に取り入れています。組織運営をされる方は参考になさってください。
Photo by Avinash Kumar on Unsplash
※今回は、「へこまない話法」について解説しました。デザイナーの話し方について、下記の記事では「伝わる説明」と「生産的な議論への導き方」を紹介しています。あわせて読んでいただけると嬉しいです。
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