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一億光年の宝

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北海道別海町中春別の小幡牧場の日常をモデルとした考察の中から産まれたポエム、エッセイの数々。酪農と宇宙を探偵作家土木警備員の著者がコラボさせるなど、好き放題やっている。創作なので…
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2021年4月の記事一覧

『男は荒野を進め』

僕だけが一億光年分の価値のある宝物を探しに行く。それは荒野を一人で歩く事と同じ位孤独な行為だ。 誰も僕の背中を押してはくれなかった。 誰もが一億光年分の価値のある宝物の存在を認めてくれなかった。 だから僕は、言葉で言葉で殴り付けてやることにした。 生かすか殺すか。生きるか死ぬか。 殴り付けても、殴り付けても、殴り付けても、誰も宝物の存在を信じてはくれなかった。 もう我慢の限界だ。 いつでも男は、荒野を一人で進む。 ヒタヒタと音を立てる。 足音が、僕の意識を軽

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『春だよね』

僕は昔から君の事を知っているけど、君の名前を知らない。 私はずっと前からあなたを見てきたのだけど、あなたを知らないの。 僕は他人の名前に興味が湧かないから。 私の、先祖の、先祖の代からあなたを知っているはずなのだけど。 君は、良い香りがするよね。 あなたからは、太陽の、日向臭い匂いがするわ。 君はいつも、水面に落ちる水滴みたいに、パッと姿形を広げるよね。 小さい頃から、あなたは大地を駆けまわっていたわ。 いつも、雪が溶けた後に出てくるよね。 いつも、雪が溶け

『うしっ!』

うっしっしっ。いっしっしっ。ちょっと何だろうって近付いてみた。うしっとした迫力があるって?失礼な事言わないで。これでも私、まだおばさん前の、女の子なの。 写真 小幡マキ

『僕は青空が好きだ』

僕は青空が好きだ。当たり前のように青い空の下で生きてきた。リードに繋がれたことなんてないから、疾走することしか知らない。けれど、たまには立ちどまって、青空を見上げる。 写真 小幡マキ

ブランド牛に言ってやる。 ブランドに身をまとうのじゃなくて、オイラ自身がブランドになってやるって。 『ブランド』by 日焼けサロンに通い過ぎたSHINJOに憧れる、SHINJOの一個下、今年年男より。

じいっとしててね。じいっとしているよ。特に僕は何もないよ。一緒にいるだけで十分だよ。 『じいっとね』写真 小幡マキ

『路上2』

道は何処までも続いている。道って何処までも続いている。 この冬もやはり別海は、大吹雪に見舞われた。地球温暖化がどうとか言われる前から、別海に入植した開拓民たちは、厳しい自然に晒されてきた。なおかつ重機が無かった時代だから、馬を使い、スコップやつるはしで原始の大地を開拓してきた。たった半世紀以前の事だ。 だから別海の年寄りたちは、とにかく逞しい。70代で現役の酪農家なんてざらにいるし、仕事をしながら、スキーやハイキングや山菜採りに出かける。 そんな彼らにしてみれば、僕らの

『北国の少女』

もし北国の祭りに行く事があるのなら、伝えて欲しい。国境に強い風が吹き付ける所だけれど。僕の事を覚えている人たちに伝えて欲しい。僕が彼女を愛していた事を。 雪の礫が渦巻いて、夏が終り、川は凍りつき、吠えるような風が吹き付けているだろうけど。彼女が暖かいコートを身に纏っているか確かめて欲しい。彼女が長い髪を垂らしているか確かめて欲しい。僕は確かに、そんな彼女の姿を覚えているのだから。 彼女は何度も僕の事を考えてくれただろうか。僕は何度も祈りを捧げた。闇夜の中で。光輝く日溜まり

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小春日和。食べ物が無くても、歩くの。散歩以上の楽しみ、この世にある? 『散歩に行こう』 写真 小幡マキ

『Up On The Roof』

地球の創世記以来きっと色々な事がありすぎて、沢山の出会いと出来事に疲れきってしまったから、一つずつ階段を登って、屋根によじ登ってみたの。 少しだけ私の気分は良くなった。屋根の上ってドキドキするけど難しいことなんて忘れてしまうから、一緒に屋根に登ってみようよ。 ネズミたちのレースみたいな騒々しさや、沢山の出来事に打ちのめされて、疲れ果てて寝床に帰ってきたのだけど。屋根の上で、新鮮で心地よい風に吹かれていたら、難しいことなんて忘れてしまうから、一緒に屋根に登ろうよ。 心地よ

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『戦士の休息』

戦士の束の間の休息。 十代後半に、自由を求めてブラついて、この土地に流れついてから四半世紀以上、雨が降ろうが槍が降ろうが、男は戦う事を止めない。一日でも体を休める事を許さない、許されない。 男はある時、十字路のど真ん中に立たされた。頭の中で何かがスパークした。ガタンと歯車が回る音を、男は聞いた。 それは男が大地にへばりついて、朽ち果てるまで戦い抜く事を決意した音だった。 男は十字路を正面きって突破した。 旅と冒険がもたらす、刑罰と釈放。 臆病風に吹かれて、十字路を

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『冬は明ける』

強烈な嵐に見舞われたけど、私たちのやることは変わらない。男は一億光年分の価値のある宝物を荒野へ探しに行くとか、いつもふざけたことばかり言うけれど、この日は道や扉を明けるため、真っ先に外へ飛び出して行った。でないと私たちの仕事は始まらないし、何より牛たちの餌場や水場が確保出来ないのだから。 除雪が終わって、ようやく作業がスタートする。第一ラウンドの始まり。私たち労働者は、日々戦闘状態に晒されている。相手は「自然」だ。強大な相手だから、私もスコップやつるはしを振り上げて立ち向か

『宝の在りか』

朝5時前に、私たちは目を覚ます。私たちの毎日は変わらない。子供たちを起こさないように家をそっと出て、牛舎に明かりを灯す。パイプラインミルカーやバルククーラーの電源を入れ、搾乳の準備を始める。 私たちのやることは、ほとんど毎日変わらないのかもしれない。けれど季節は変わる。移ろいゆく季節に、そっと、少しだけ、足並みを揃える。何故ならそれが私たちの仕事だから。 私の連れ合いが、搾乳をしている。その間、私は、子牛たちにミルクを与えている。 男は夢ばかり見て、荒野へ一億光年分の価

『地面に風穴を開ける』

地面にガッパリ風穴を開けてやったよ。オレの隕石みたいなパンチ一つで。 むしゃくしゃするからよ、植物みたいにワシャワシャしている男どもが。 地面って奴は、ずうずうしいんだよ。てんで動こうとしないから。女みたいだよ。 ユンボやトラクターなんて大嫌いだよ。奴らは規則正しく動くから。血の通っていない油だろ?鉄の塊に解る訳がないだろ?生き物の本当の気持ちが。 いつでもオレは、スコップ一丁で十分だ。 オレはガキの頃から夢見てた。大地をガッパリとえぐり取る、壮大な夢を。ついでに山

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